19th hole(ナインティーンス・ホール) 《ゴルフ・ミステリー》《フー・ダニット&ダイイング・メッセージの謎解き探偵小説》【全三部構成】【第二回配信/中編・迷走編】 歳池若夫
仲良し業界人ゴルフコンペの最中に発生したアイアンによる殴打殺人未遂事件。被害者が現場に残した一本の「サンドウェッジ」は何を意味する!?
(今回は続編になります。前回第一回配信分の前編・問題編から先にお読みいただけますと、ストーリーをよくご理解いただけます)
【主な登場人物】
・烏谷由伸(カラス先輩・師匠)……大阪難波にある漫画専門書店『烏谷書房』店主。
・男川正朗(マーロウ)……自虐癖のある貧乏エロ漫画家。
・信貴之端利治(幹事長)……関西書店商業組合の重鎮。
・砂山祐一郎(先生)……太っちょの税理士。
・羽犬塚哲夫(ワンテツ)……大阪梅田にある書店の店長。
・羽鳥雅樹(マスター)……大津市内でコーヒーショップを経営。
・高橋亘(バンカーマン)……大手都市銀行の支店長。
・斎藤智弘(トモくん)……元『烏谷書房』店員。現在フリーター。
・餘部さん……音羽山国際カントリークラブのキャディ。
3
救急車は木立の中のカート道をサイレン鳴らしながら走っていった。
業界人定例仲良し鉄火場ゴルフコンペは当然中止になり、男川正朗たち七人の男は、売店休憩所の中で警察が到着するまで待機させられる事になった。キャディの餘部さんは、休憩所の外でゴルフ場支配人やキャディマスター室の人たちに事情を聞かれている。
「さっきの救急隊の人たち、かなり目がマジでしたね。カラス――烏谷由伸社長は大丈夫なんでしょうか?」
「さあ、えらい出血でしたでな。意識もあらへんかったし……」
答えたのは、第一発見者でありこのコンペの総括責任者である信貴之端老人。
「死なないでしょうね。まさか……」
「さあ、判りまへん。救急隊員が心臓マッサージみたいな事してはったし。あれはつまり、状況がかなり深刻なんやおまへんか」
「でも、何かの事故なんでしょう?」
質問したのはフリーターの斎藤智弘青年。
「いんや。事故ではないようどす。誰かが素振りしているのがぶつかったのでもあらしまへん。理由はこれでおます」
信貴之端老人が指し示したのは、床の隅に置かれた「く」の字に折れ曲がった黒い7番アイアン。艶消しの黒いクラブヘッドには赤い血と髪の毛がこびり付いている
「休憩所後ろの屋外用簡易トイレ前に落ちてはったんどす。烏谷はんは男性用のトイレがどれも塞がってたんで、女性用のトイレをちゃっかり拝借して、大の方の用を足してたみたいやな。このアイアン、ご覧のように見事な折れ具合でっしゃろ。シャフトがこんだけ折れ曲がるのは、相当力を入れて振り回したか、または上から下に垂直に薪割りで振り下ろしたかのどっちかやな」
「つまり、不測や不慮の事故ではないという事ですか?」
「そゆ事どす。しかも、このまっ黒い閻魔大王の耳かきみたいなけったいなクラブは、烏谷はんの持ちもんや。本人が振り回して自分自身の頭をカチ割るのは不可能やから、これは誰か他人の手で殴られたゆうこっちゃ」
「何者かが、カラス先輩のゴルフクラブを使って、カラス先輩を故意に殴りつけたという事ですか」
「そゆ事どすな。まあ、無人で置かれたカートのゴルフバッグからは、誰でもこっそり無断で引き出せるよって」
「殴った奴の姿は見なかったんですか?」
「はいな。残念ながら。私が彼の悲鳴を聞いて駆け付けた時には、誰もおらへんかったわ。烏谷はんはトイレを出た所で何者かに襲われ、このアイアンで不意打ち喰ろたんやろ。そっから血だらけでカートの所まで這いずって行って、ガックリこと切れはったんや」
関西書店商業組合の重鎮氏は、勝手に難波の烏谷書房の社長を死亡扱いにしてしまった。
「で、カラスのおっちゃんを襲った賊は、どこに行っちゃったんでしょう?」
「さあて、どこへ逃げ失せたのやら。烏谷はんの悲鳴以外は声も聞いひんかったしな。皆の衆も賊の姿を見いひんし、声も聞いひんかったやろ。誰かが嘘をついてない限り」
ご老公の目がじろりと一同を見た。しばし重苦しい沈黙が続く。
「……カラス先輩の悲鳴の後に、何か池に物が投げ込まれたみたいな音がありましたけど」
口を開いたのは男川正朗。皆一斉に彼を見る。
「そやろか。私は気付きひんかったがな」
「実は、僕も聞きました。隣の7番ホールの池の方ですわ」
答えたのは斎藤青年。
「僕はちょうど休憩所後ろの男子用トイレに入っとって、池の鯉でも跳ねた思ったんやけど、それにしてはドボーンと音が大きかったし、何かが放り込まれたみたいやった」
再び沈黙。
破ったのは、銀行支店長高橋亘の乾いた声だった。
「……ここでこうして私たちだけで話し合うのは得策ではありませんな。警察が来てから、聞かれたことだけを答えればいい。余計な事は話さない方がいい」
いかにも彼らしい、世間一般の合理的意見だった。
男川が反論する。
「でも、烏谷由伸先輩は我々の仲間なんですからね。その仲間が誰かに殺されそうになったんです。もしかしたら、下手人はこの中にいるのかもしれない」
高橋の冷たいメタルフレームの眼鏡の奥が吊り上るのが見えた。
「まあまあまあ、やめなはれ。男川はんもお江戸から来た大岡越前や遠山の金さんやないんやから、仰々しいことゆうたらあかんがな。もうすぐ大津の奉行所のパトカー来はるから、それまでは皆な冷静になりましょや」
とりなしたのは、人の良い芸人風の大阪梅田の書店店長氏。
斎藤青年が呟く。
「カラス社長、何でゴルフクラブなんかに噛みついてたんやろ」
一同、一斉に彼を見る。
「何で、アイアンなんか口に持ってはったんやろね。おっちゃんは?」
「さあて。つまりは、突然降りかかった死への恐怖で、頭ん中が大混乱してたんやろ。カラスなぜ死ぬの。カラスの勝手でしょ、なんてな。おおっと、不謹慎な発言でした。えらいすんまへん」
全然面白くない古い昔のコントギャグを持ち出したのは、若作りの喫茶店マスター。
一気に白けてしまった場の雰囲気を引き締めるべく、男川は真面目な顔を信貴之端幹事長に向けた。
「カラス先輩が口に持っていたアイアンは、サンドウェッジでしたね」
「ああ、そうどすな。それもここに取り置いたはる。一応指紋が付かんよう気ぃつけとるさけな」
信貴之端ご老公は、タオルでくるんだ一本のメタルシャフト・アイアンを取り出した。
「そのサンドウェッジのアイアンは、どなたの物ですか?」
男川は尋ねた。老人は口をすぼめて答えた。「……私んどす。私のクラブどす」
それまで黙っていた砂山税理士が口を開く。
「つまり……その、烏谷のアホタレは最期の力振り絞ってカートのバッグの所まで這って行き、そん中からそのサンドウェッジを選んだゆう事ですかいの。自分を襲った賊の正体を知らせるために」
人の倍近い大きな顔が、見てすぐ判るくらい真っ青になっていた。容姿とは裏腹に、意外と気が小さいようだ。
「何ゆうかっ! 私やおまへんで。私であるわけないでっしゃろ!!」
信貴之端老人の丸い顔が爆発した。小さな背中を反らしながらまくしたてる。
「これが私のアイアンやからって、私を差し示した事にはならへん。烏谷はんがこのサンドウェッジを持ってはったのは、他に何か意味があったからどす。たまたま私、信貴之端の所有物やったに過ぎまへん。そう、例えば、アイアンは日本語に直訳したら、鉄や。そこに意味あったんちゃいまっか。漢字で鉄。平仮名でてつ。カタカナでテツ」
とたんに、芸人風書店店長氏が身を乗り出して来る。
「テツテツテツって、そら、羽犬塚哲夫の綽名の『ワンテツ』の事ゆうてはるんでっか?」
「そうはゆうとらへんがな」
「ゆうてるがなっ。三回も四回も百回も一万回も、はっきりと」
先ほど冷静になろうと言っておきながら、コテコテ関西人の書店店長は顔を真っ赤にして仁王立ちしている。
「トボけた事ゆうてたら、いくら幹事長はんでもド頭しばいたるど。だいたい、アンタこそ真犯人ちゃうか。第一発見者が一番怪しいちゅうのは、探偵小説や刑事ドラマの常道やで。爺さん、正直に吐いて、素直にお縄につかんかいっ!」
「まあまあまあ、待った待った。落ち着いて。それを言っちゃお終いやがな」
新たな停め男は茶髪の喫茶店マスター。けっこう如才無い性格のようだ。
「そんな無理な無茶苦茶こじつけで決めつけてたらきりないですって。例えばそのサンドウェッジのサンドは、文字通り『砂』の意味やし」
ムッとする砂山税理士の顔を一瞥した後、
「それに、サンドウェッジはバンカーの中から球を打ち出すクラブ。『バンカー』と言えば、銀行員の意味にもとれますやろ」大手都市銀行支店長の顔を見る。
鉄面皮の支店長は動じなかった。腕組みをして目をつぶっている。
斎藤青年が茶々を入れた。
「僕なんか、サイトーやから、名前を無理くりもじって『サンドー』という苦しい駄洒落やったのかも」
「そう、苦しいこじつけやったら私もお仲間。私が大津の市内でやってるコーヒーショップは『サンドイッチ』が名物なんやからね。同じようなもんや」
若作りマスターの羽鳥氏は、お調子者の本領を発揮し始めた。「えーとぉ、私の店の自慢のサンドイッチと掛けまして、信貴之端幹事長はんのサンドウェッジのバンカー打ちと解く。その心は、どちらも一発ですぐに出て、ウマイ」
何人かが軽く笑った。冗談が出て少し和らいだ場の空気により、四角く強張っていたお地蔵さんの顔も丸く緩んだ。
「ふふふんと、まあ、頭少し冷やして考えるに、烏谷はんが口に持ってはったこのサンドウェッジのクラブヘッドには、お決まりの《S》のマークがあるわな。つまり、《S》のイニシャルで始まる名前ちゅうと……」
信貴之端老人は一同を見回し、砂山、斎藤の顔を見やったあと、自分の胸に手をやった。
「私もだわな。《S》の頭文字ならば。あらま、こら、あかんどす」
一同の間に笑い声が拡がった。
「やめましょう! 不毛な会話ですっ。警察が来るまで静かに待ちましょう」
大声で怒鳴ったのは高橋亘支店長。
その迫力に気圧され、全員が口を閉ざした。酸欠になるような息苦しい沈黙……。
男川は腕組みして考えていた。
烏谷由伸先輩が口に持っていた一本のサンドウェッジは、先輩氏が最期の力を振り絞って残した何かの意思表示なのだろう。ミステリーでいうところのダイイング・メッセージってやつだ。書店店主で読書家でもあるカラス師匠は、自分を襲った悪党の正体を知らしめるべく、短い時間で頭をフル回転させたにちがいない。
だが、そのメッセージは、男川正朗とキャディの餘部さんを除いて、残るゴルフコンペ参加者全員を何らかの意味で指し示してしまう厄介なものであった。我らがカラスのおっちゃんは、非常に難しい宿題を残して、あの世、もとい病院の集中治療室へ行ってしまったのだ。
名探偵を自称する男川正朗は、必死に頭の中を整理した。気になる事が幾つか浮かんだ。
(ううーんん、アレとアレが引っかかってるような……ソレって、いつの時にどこにあったんだか……)
ひとつづつそれを精査しようと、自分の指を折り始めた時に閃いた。
(そうか、指≒指紋。指紋⇒手袋だ!)
男川は顔を上げた。
「皆さん、ちょっと聞いて下さい。ちょっと気付いた事があります」
尖った視線が槍のように刺さる中、男川は深呼吸をして口を開いた。
「先程、僕は、烏谷社長が襲われた後に、隣にある別ホールの池に何かが放り込まれた音を聞いたと申し上げました。よぅく考えたところ、かなり高い確率で、投げ込まれた物はコレだと推測できます」
言葉を切り、一同の反応を確かめてから、ポケットからある物を取り出す。拡げて皆によく見せてから、自分の左手にぴちっと嵌めた。
「そう、コレはゴルフグローブです。烏谷社長を襲った人間は、身元がバレないように、凶行に使った7番アイアンには指紋を残さないようにしていたはずです。指紋を残さないようにするには、手袋を嵌めるのが一番。そして、ゴルフ場では、殆どすべての人がゴルフグローブを持っている」
鼻息が荒くなるのが自分でも判った。名探偵たる者は、皆を集めてこのセリフを必ず言うのだ。
「さて……」
言葉を切って間合いを計る。その後は畳みかけて行くしかない。
「ここでひとつ問題が起きます。つまり、ゴルフプレイヤーのほとんどの人は、こうやって利き腕とは違う片方の手にだけグローブを嵌めるという事です。利き腕の方は、剥き出しの素手のままでグリップを握るわけです」
気持ちが高揚した男川は立ち上がってしまった。
「烏谷社長を殴った犯人は、凶器に指紋を残してはならなかった。それには、素手状態の利き腕の方にもグローブを嵌める必要があります。しかし、犯人はそっちの手に使えるものを持ち合わせていなかった。したがって、犯人は、急いで一枚別にグローブを確保する事にしました。確保したその左手用グローブを嵌めて左右両方の手の指紋を隠す事が出来た犯人は、凶器の黒い7番アイアンを握り締め、女子トイレの横の物陰に潜みました。凶行を終えると、使い終えた左手用グローブの中にボールを何個か詰めて、急いで池に放り投げました。後は何食わぬ顔して現場から逃走すればいいわけです」
わざと大きく音を立てて息を吸い込んだ。「では、両方の手に手袋を嵌めるために新たに左手用ゴルフグローブを必要とする人間って、いったいどんな人物か?」
一座をゆっくり見渡し、数秒待ってから、言葉を押し出した。
「……それは、もともと最初から右手にグローブを嵌めていて、利き腕である左手が素手だった人物。つまり、『サウスポー・左利き』のゴルファーです!」
きっぱり言い切った。
相手の顔は見なかった。何か彼が弁明の言葉を発するまで待つつもりだった。
だが、発せられたのは、別の人間の乾いた標準語の声だった。
「ナンセンスですな、その論理は。理由はいたって単純明快です。ゴルフグローブというものは、裏返しリバーシブルにすれば、利き腕だろうがもう片方の手だろうが、どちらの手にも嵌められる」
ええっと、男川は叫んでしまった。
大手都市銀行支店長の鉄面皮の顔をみつめた。金融業者の冷淡な表情の下に、人を小馬鹿にするような笑いがうっすら浮かんでいるのを感じた。
「あわわわ……そ、そうなんですか?」
「そんな事は当たり前の世間の常識です。左手用のゴルフグローブは、裏返しにすれば右手の指に嵌められるんです。右手用グローブも同じようにすれば左手に使えます。実際にそうやって臨機応変に使っているゴルファーは世の中に星の数ほどいます。つまり、左利きだとか右利きだとかいう貴方のご高説は、まったく初歩的な的外れ、ミスディレクションというわけです」
馬鹿でも解る論理だと言わんばかり。
横っちょから、お調子者のコーヒーショップマスターが続く。
「せやせや。いけませんな。そんな人を簡単に疑っては。いくら大人しい斎藤君かて怒るわな。確かに彼はこのコンペメンバーで一人だけのサウスポーですわ。でも、高橋支店長はんが今おっしゃったように、手袋なんてもんは表裏をひっくり返せばどっちの手にも使えますがな。右利きの人も左利きの人もどっちもOKですがな。何も他人のゴルフグローブをわざわざ一枚盗み取らんでも、予備グローブを何枚も持ってはる人間なら、誰でもそれは可能なはずでっせ」
疑惑の渦中にいる左利きフリーター青年が、やっと口を開いた。
「僕じゃありません。僕はやってません。確かにカラスのおっちゃんは、店の従業員だった僕を半年前にリストラし、その結果僕はこうして失業してしまい、僕があの人を恨んでいるように見られているようやけど、僕はあの人を殺すほど憎んでいません。むしろ在職時代はすごく僕の事を可愛がってくれたんで、僕はカラス社長に感謝してるくらいです」
それは一人の純真な若者の慟哭だった。
「僕が烏谷書房をリストラされたのは、経営が苦しいお店のために仕方なかったんです。出版界や書店業界はどん底の不景気やし。それでも、こうしていつも僕をゴルフに誘ってくれはる優しい社長さんを殴って殺そうなんて、僕はしませんっ。絶対にするわけありませんっっ!」
目にうっすら涙まで浮かべている。
男川正朗の天狗の鼻は、音を立ててへし折れた。
「す、す、すみません。ご、ごめんなさい。僕が不勉強で不見識でした。みっともない真似して恥ずかしいです。心より反省します。穴があったら入りたいです」
満を持して放ったナイスショットのつもりが、とんでもないOBゾーンへの大飛球。名探偵気取りの自信と自負は、場外の1000ヤード彼方へすっ飛んで行ってしまった。
そうして、一座にまた重苦しい沈黙が訪れた。
男川は目を瞑る。
勇み足というか気負い過ぎというか、やはり自分は漫画でいうところのモブキャラ以下のカスったれだ。烏谷由伸先輩のような強いキャラの人がサポートしてくれなければ何もできないヘタレ野郎だ。その大切な相棒は今、病院で生死の淵をさまよっている。
男川は今日のこれまでの記憶を辿ってみた。名神高速を出て警察振り切ってゴルフ場に着いて、速攻で着替えてクラブハウスの前に集合。コースに出てからは、空振りにシャンクにバンカー地獄にOB連発。そして、せっかくのナイスパーを大チョンボ……いろいろな迷場面と、コンペメンバーと交わした様々な会話、それらをひとつひとつ思い起こしてみた。
幾つかヒントになりそうなものが浮かんで来たが、はっきりした形には描き出せない。自分はやはり漫画家としてもミステリー作家としてもリアル探偵としても力不足か、と弱気になりかけた時、男川の視界の隅っこに或るものが飛び込んで来た。
「あっ、それは……」
「ん? 私のスコアカードが何か?」
隣に座った太っちょ税理士が怪訝な顔をした。手には二つ折りの紙片を持っている。
「す、すみません。砂山先生、今手に持っているスコアカード、ちょっと僕に見せていただけませんか!」
「見せてもええけど、私、捏造やインチキなんかしてまへんで。午後は呑み過ぎてスコアがメチャクチャなってムカついてもうたけど」
今さらゴルフの成績どころじゃないでしょうと言い捨てて、男川は砂山祐一郎税理士のスコアカードをひったくった。
舐めるように見入る。
「あった! これだ!」
見つけた。ついに見つけた。
探し求めていたキーワードがあった。しかも堂々と日本語の簡単な文字でスコアカードに書いてあった。
「なるほど。そういう意味だったのか……見事にやられちゃった。今回のダイイング・メッセージ。ふふ。やっぱりカラスのおっちゃんらしいや」
瞬時に数々の記憶が蘇り、一気に繋がった。
真実の矢がひとつの方向に向く。すべて合点が行った。
男川正朗は再び立ち上がった。
「今度こそわかりました。カラスのおっちゃんこと烏谷由伸社長をゴルフクラブで殴った人物が誰か、僕はわかりました」
一同を見回す。中の一人に目を向ける。
「犯人は貴方だ。貴方のはずですっ!」
自信を持って、相手の顔に向かって人差し指を突き出した。
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
――次回公開(後編・解決編)に続く。
(次回は、約2週間後にnoteにアップする予定です)
(この作品はフィクションです。登場する人物やゴルフ場やグループ団体や、作中で描かれた事件やプライベートルールなどは、すべて架空のものです)
Ⓒ Toshiike Wakao 2019
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