医療通訳についてもっとよく知ってください
私が医療通訳になったきっかけ
二十年ほど前、私の父はボストンで心臓発作を起こして入院後一ヶ月ほどでなくなりました。その時の強烈な経験は私が医療に興味を持ったきっかけとなりました。
私は数年後ちょっとしたコースを受けてmedical transcriptionist (医療トランスクライバー?)になりました。ドクターが口述した患者記録の音声を聴いてそれを文字に起こすと言う仕事です。
さらに何年も後、お友達になった人はスペイン語の医療通訳をしていました。彼女の勧めもあり、私は45時間の医療通訳者のためのコースを取り医療通訳になりました。
やりがいのある仕事
それからフリーランスで電話通訳をしています。主に病院に来る日本人患者とアメリカ人の医師、看護師、ケースワーカーなどの医療提供者との間の通訳をしていましたが、他にもコールセンターや保険会社などの仕事も受けます。
だれかの役に立てる仕事ですのでとてもやりがいを感じました。アメリカで医療を受ける日本人の中では若い奥さんが妊娠出産する方が結構たくさんいます。出産時に電話通訳することはまずないですが、産後の授乳スペシャリストからの指示を通訳するなど、私には興味深い内容も数多かったです。
日本に帰国してからは、病院関係の電話はずいぶん減ってしまいましたが、最近メディフォンという日本の電話通訳会社と契約することができました。今度は日本の医療を受ける外国人患者と日本人医療提供者とのコミュニケーションを通訳します。これはアメリカでの通訳とは反対になるので慣れるまではまだしばらくかかりそうです。
アメリカでの医療通訳
アメリカの病院では英語力が十分でない患者に対して、通訳を無料で提供することが法律で義務付けられています。通訳会社がたくさんあって病院と契約しています。
ビデオ通話アプリもあって、iPadなどのタブレットを使ってライブで通訳を呼び出すこともできます。派遣通訳を呼んだりする手間を省くこともできるため、利用する病院がますます増えています。
私が45時間の医療通訳者養成コースから学んだことの一つとして、医療通訳者には求められる基本的倫理 があります。医療通訳者には一つの言語を単に他の言語に翻訳する以上のことが求められています。他国からの移民が多いアメリカで活動する医療通訳者には、言語能力と専門的な医学知識に加え、異文化と倫理についての理解が必須です。
基本的倫理コードには
• 守秘義務 (Confidentiality)
• 公正 (Impartiality)
• 個人と地域社会の尊重 (Respect for Individuals & Their Communities)
• 専門職意識と高潔さ (Professionalism & Integrity)
• 正確性と完全性 (Accuracy & Completeness)
• 文化的共感 (Cultural Responsiveness)
があります。
アメリカの医療分野での法律として HIPAA (Health Insurance Portability and Accountability Act=健康保険の携行性と説明責任に関す る法律) と呼ばれる連邦法があります。
それは医療通訳者にも適用されます。この法律は患者のプライバシーや患者医療情報の保護、守秘義務 についても細かく定めていて、違反者には罰金、禁固などの刑を科すということです。
日本での医療通訳
日本の医療通訳の現状と言いますと、
院内スタッフの中で言語の対応ができる場合はそれで済ませることもまだまだ多いようです。特に英語においては、日本のドクターたちは外国留学などの経験から英語を話せる人も多いのでなんとかそれでコミュニケーションを図ろうとするのが現状のようです。医療通訳を行なっているボランティア団体などもあるようですが、友人や家族が医療通訳として同行するなども多いと思います。実際私も日本語があやうい家族(妹夫婦)の付き添いをしています。
実はそれは基本的倫理の観点からすると望ましくはないのです。
日本の医療現場ではしっかりとした訓練を受けたプロの通訳者が少ないと言うことです。職業としての通訳ではなく報酬がないボランティアで成り立っていると言うことですと、日本は先進国としてはこの点かなり遅れをとっていることになります。
国際化を目指している日本はこれからその分野でも発展していくだろうと思います。実際そのような動きが見られています。国際化とは異なる文化、人種、国の人と共存できる社会をつくることです。そのためには日本で外国人が安心して医療を受けられるようにすることが必要でしょう。
外国人患者を受け入れる設備を整え外国人患者を受け入れるのに必要な人材を養成することが必要になって来ます。観光には来てもらいたいのですが、病気になっても十分な対応はできませんと言うのでは困りものですね。
医療通訳は一見目立たない仕事ですが、実は倫理的に必要な大事な役割があるのです。この職業の存在について少しでも知っていただいて応援して頂けたら幸いです。
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