見出し画像

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』感想:これはMCUを新たな次元に導く映画か?

マルチバース展開が進み、新たなキャラクターが多数登場しているMCUフェーズ4。その最新映画を観に行ったのに、ただのサム・ライミ映画を観させられた。
そんな感じの映画です、『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』。

サム・ライミ監督といえばMARVEL映画界においては、かつて『スパイダーマン』3部作を生み出した偉大な監督です。
しかしこの映画は『スパイダーマン』よりはむしろ『死霊のはらわた』に近い。それも『死霊のはらわたII』と『III』の中間みたいなホラーコメディ寄りのノリ。

MCUでは最近、『ロキ』『ホワット・イフ…?』『スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム』でマルチバースの存在が少しずつ明らかになっており、タイトルにマルチバースを据えた本作ではそうしたマルチバースの秘密が更に明かされていくかと思われていました。
また『ワンダヴィジョン』以降どうなったのか他作品で触れられていなかったワンダ・マキシモフのその後についても期待されていたところ。

ところが蓋を開けてみれば『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はMARVELキャラクターを使ったサム・ライミ監督のホラーコメディ映画といった趣。
マルチバースについてシリアスに解明するような要素はまほとんど無く、個人的には期待外れな思いを抱きました。MCUのストーリーに連なる作品としてはハズレと断言しても良いかもしれません。

特に納得がいかなかったのはワンダの成長やマルチバースにおける別バージョンのキャラクターたちといった、これまでのMCU含むMARVEL映画の遺産を雑に消費している点。
この映画においてはほとんどのキャラクターはサム・ライミ監督の描きたいホラー的表現のための駒に過ぎません

同じくMCUに属するアニメである『ホワット・イフ…?』はアニメという媒体の特性とマルチバースの特性を活かし、キャラクターの扱いにしろストーリー展開にしろ「なんでもあり」な作品になっていました。
『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』はこれを実写映画で試みたような作品。これでもかというくらいにサプライズ性のあるキャラクターを出し、これでもかという勢いで退場させていく。

そんなわけで僕の好みには合わなかった作品ですが、映画シリーズとしてのMCUの1作と見れば(ここまで書いてきたことと一見矛盾するようですが)賞賛に値するポイントはあります

まずは予習を一切必要としない点。『アベンジャーズ/エンドゲーム』を筆頭に、MCU作品は複数の作品のキャラクターたちとそのストーリーが合流するせいで、過去の作品内容を把握していないとストーリーがよく分からなくなる作品がいくつもあります。
ところがこの映画は他作品のMCUキャラクターを使いながらも、作品としてはほとんど独立しているため、過去のMCU作品を観る必要は一切ありません。唯一『ワンダヴィジョン』だけは観ていないとやや分かりづらそうなところではありますが、そこも作中で軽く説明されるため、必須とは言えません。ここら辺の作り方はサム・ライミの巧いところだと感心しました。

MCUはフェーズ4に入ってから『エターナルズ』『ムーンナイト』で他作品とは独立した、新キャラクターのオリジン物語を描いてきましたが、オリジンものではない作品でこのように独立性を保った作品が生み出されたのは驚くべきことです。一概にそれが「良い」とは言い切れませんが、新規ファンを獲得しうるという点ではこれは良い点でしょう。

また作品スタイルが他のMCU作品とは大きく異なるという点も、今後のMCU作品の可能性を広げる意味で素晴らしいと言えるでしょう。
これまたフェーズ4に入ってから、シットコムを作中に導入した『ワンダヴィジョン』や、多重人格者を主人公として現実と精神世界を行き来する煩雑な『ムーンナイト』といった、いわゆるヒーローものの型にハマらない作品を生み出してきたMCUですが、この映画もその系譜に連なるといえると思います。もちろんMCU映画としては初の試み

これが「成功」だと判断されれば、今後もいわゆるヒーロー映画とは異なる作品が多数送り出されることになるのではないでしょうか。そうなればまさに映画ジャンルのマルチバース。作品ごとに大きく好みが分かれることにはなるでしょうが、そんな展開は楽しみではあります。

そうしたMCU自体の展開を新たな次元へと導く可能性を持った映画として、本作は評価に値するのではないでしょうか。

ただその上で、最後にやはり個人的な好みの話に戻ってしまうのですが、サム・ライミ監督のクラシカルな演出をくどくどと観続けさせられるのは正直辛かったです。途中で飽きていました。
良くいえばクラシカル/オールドスクール、悪く言えば古臭い。十何年か前の映画作りのセンスをそのまま持ってきたような印象で、2000年代初頭の映画を観ているのかと錯覚するほどでした。
『死霊のはらわた』での悪霊視点のカメラ移動などのセルフパロディもあり、そういった要素は楽しめたんですけどね。(そういう意味で言えばこの映画に必須な予習作品は間違いなく『死霊のはらわたII』)

またいくつかのセリフ(過去作の引用セリフではなく本作オリジナルのもの)が陳腐に感じられたのも観ていてキツかったです。

あとはサム・ライミ監督のある種幼稚なホラーコメディのノリに合うか合わないか。本当に好みが分かれる映画だと感じました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?