投資の主役は株式であるー「自称資産」についてー
そもそも資産とは何か?
資産運用を考える時に、当たり前だが運用する資産対象を決める必要がある。株式、保険、不動産、コモディティ、貴金属など「資産」と名のついたモノは多く存在する。投資の原則は「長期、分散、低コスト」であるが、運用対象の流動性や形態の柔軟性も重要だ。
※流動性・柔軟性が高いとは「売りたいときにすぐに売れる」「必要分だけ現金化できる」など、未来の状況変化に合わせて資産の形を変化させやすいことだ。例えば「不動産」は人気の資産とされているが、売りたい時に相場ですぐ売れない(可能性が高い。)、部分的に現金化できない(不動産は原則「全部売る」か「売らない」かの2択である)ことから流動性・柔軟性は極めて低い。詳細については後述する。
本稿では「資産」と名のついた「自称資産」を含めて、世の中でよく目にする「資産」と呼ばれる対象が具体的にどのような性質を持っているか見ていく。
コモディティ、貴金属など
コモディティ、金やプラチナといった貴金属は、それぞれが生産活動を行う性質のものではない。例えば、プラチナは「希少であること」が価値の全てであり、プラチナそのものは社会に対して新たな付加価値は生み出さず、何年温めていても1gのプラチナは1gのプラチナでこの先も変わることはない。このような「希少性が価値を高め、それ自体は付加価値の生産を行っていない」性質を持つモノは、特定の条件で買った人の反対側に全く同じ条件で売った人がいて、買い手と売り手が180度逆向きのリスクを取るゼロサムゲームとなる。この場合、売り手も買い手も生産活動に参加していることにはならないため、モノの価値自体は増加しない。
※「金の値段は上がったり下がったりするではないか」と感じるかもしれないが、貴金属の価格が上がったり下がったりするのは、あくまで「希少性」や「嗜好性」が変化しているだけ(もしくはブーム)で、金自体に付加価値が付くことで、価値そのものの増加が起こっているわけではない。
価値の総量が変化しない以上、仕組みとしては中間業者が手数料を取り、残った分を市場参加者で取り合うギャンブルと全く同じだ。(競馬、競艇、宝くじと同じ仕組み)
プレミアムを期待できるような運用対象とは言えず、「資産」ではない。
保険
保険(生命保険、学資保険、医療保険、貯蓄型〇〇保険など自動車保険と火災保険以外のほぼ全ての保険)については、外貨やコモディティ、貴金属よりもさらに条件の悪いギャンブルである。
日本人は慎重で勤勉な国民性のためか、かなりの「保険好き」だ。おそらく読者も複数の保険に加入されている方が多いだろうから、「保険はギャンブルと同じだ」などと言うと気を悪くされる方が多そうであることを承知の上で、なるべく「中立」に整理したい。
客観的に見れば、保険の仕組みは客から掛け金(保険料)を集めて胴元(保険会社)が自分の儲け分をピンハネ(中抜き)し、残った分を賭けの勝者(怪我をした人、事故にあった人など)に分配する仕組みであり、冷静に考えればギャンブルのそれと変わらない。保険は勝者が「不運な人」という性質上、「勝者」とするのは違和感があるように感じるかもしれないが、「仕組み自体はギャンブルと同じなのだ」と論理的に理解してほしい。
そして保険の最大の問題点は、保険会社が膨大な中抜きを行なっていると考えられる点だ。保険会社の持つ巨大な本社(丸ノ内にあったりする)や全国に存在する店舗の維持費、TVCMやそれに起用されている有名タレントのギャラ、保険会社の純利益、保険会社社員の平均で1,000万/年を超えるような高額な給料など、その全てが客が支払った保険料から抜き取られている。抜き取り後の残りを保険加入者で分け合っているわけだが、一説にはこの中抜きは約65%近くに上る場合もあるという。これは還元率にするとなんと約35%だ。100,000円の保険料を支払っても、保険加入者には平均で35,000円しか戻ってきていないことになる。ちなみに、宝くじの還元率は約45%、競馬が約75%なので、保険は宝くじよりもさらに「分の悪い賭け」である。競馬のなんと良心的なことか。
さて、上記でなぜ「一説によると」と記載したのか?
それは、この「還元率」を保険会社が公表していないからだ。(もし公開情報を知っている方がいれば、ぜひ教えて欲しい。)還元率は保険加入者にとって最も重要な情報ではないか?
客から保険料を預かっておきながらピンハネした割合を公表しないなど、控えめに言って不誠実極まりないと筆者は思う。しかし、公表しないということは、裏を返せば公表できるような数字ではないということだろう。
※ちなみに、「貯蓄型保険」なら問題ないと感じるかもしれないが、これも「機会費用」と「保険会社への手数料(大抵高い)」をダブルで支払っている状態なので、勿体無い点は同じだ。いずれにしても、なるべく「保険」には近づかない方がいい。無理強いはしないし、最終的にはご自身の判断であるが、保険はどうしても仕方のない時に「泣く泣く、嫌々、渋々」加入するくらいの距離感でちょうど良いだろう。(火災保険、自動車保険は除く)
少々長くなってしまったが、保険も到底「投資対象」として扱えるような代物ではない。残るは「株式」と「不動産」である。
次は古来からの大人気のコンテンツ、不動産を見てみよう。
不動産
昔から不動産投資は大変な人気を誇る(不動産神話があったバブルの名残だろうか)。「家賃収入」は不労所得として魅惑的な響きを持っているし、「大家」は楽して稼いでいるように見えて不平等な印象があるのだろう。「保有している土地を売って儲かった」「家賃収入だけで生活している」などという他人の自慢話を聞くと、心がザワザワするものだ。不動産投資はそれだけの魔性を秘めている。しかし、不動産にも決して軽視してはいけない欠点が大きく3つ存在する。(空室リスクなどの「細かい話」はここでは取り上げない。もっと根本的な事柄に絞ってお話しする。)
まず1つ目は「分散が効かない」ことだ。場所や時代にもよるが、不動産価格は個人が頻繁に買ったり売ったり、複数所有したりできる価格ではない。大半の人は借金して購入している(不動産購入の際には「ローン」という名前に化けているが、「家を買うために必要で、、、」と前置きすると途端に借りやすくなる、ただの「借りやすい借金」だ)。借金をして買うということは、将来稼ぐ金銭を前借り(言い方を変えると、時間と労力を先払いする=自分の未来を売る)してようやく買えるのが不動産だ。不動産購入は資金の大半を特定の場所に1点集中させてしまうことになり、分散が効かない。その土地、その地域にネガティブな事象が発生した場合、一発アウトのリスクを常に抱えることになる。借金しないと買えないものを無理に買うことの是非についてここでは述べないが、不動産は全く分散の効かない投資であると覚えておきたい。
2つ目は「流動性が極めて低い」ことだ。例えば、突然まとまった現金が必要になったとしても、不動産はすぐに売れない可能性がある。例えば、株式は時価で数日以内に現金化できるが、不動産の場合は買い手が現れないといつまでも売れず、現金化ができない。
また、流動性が低いデメリットは他にもある。例えば、仮に時価3,000万円の不動産を持っていて、500万円の現金が必要になった場合はどうか?
3,000万円の土地から500万円分だけ分割して売却することは現実的に不可能だ。不動産は「全て売却する」か「売却しない」かの2択しか選べない。この点でも不動産の流動性は低いといえる。
3つ目は手数料の問題だ。不動産の売買を経験したことがある人は、不動産売買時の膨大な手数料や税金に心当たりがあるだろう。おそらく諸経費も含めると不動産取得価格の10%近くを余計に支払ったケースが多いのではないか。税金も含むので単純に比較はできないが、不動産の売買にかかる手数料は株式のそれと比較して相当に高額だ。手数料が高いということは、不動産はその手数料を凌駕するだけの利益を株式より生み出さないといけないことになるが、「株式に対して不動産が絶対に有利である」という明確な根拠はない。
※加えて、不動産売買は相場が「不透明」である点も、念のため追記しておく。不動産取引は買い手と売り手の間だけでクローズに行われるので、同じマンションの同じような部屋を同じ値段で取得できているとは限らない。特定の人には何かの割引が効いているかもしれないし、価格交渉によって売買価格が違うかもしれない。4つ目の欠点として入れなかったのは、筆者にその実態を細かく知る術がないからだ。しかし、筆者が実態を把握できないように、不動産は「公募価格はわかるが、実際にいくらで取引されたのかはわからない」という不透明な性質を持っている。
株式
最後に株式である。最後に持ってきたのは株式には今まで紹介してきたデメリットを覆すメリットがあるからだ。
株式は投資資産としてどのような性質を持っているのだろうか?
株式保有は間接的な生産活動への参加になる
株式を保有するということは、間接的に投資先企業の工場や設備の一部を保有することと同義だ。企業は金やプラチナと違って生産活動を行い「付加価値」を生み出そうと活動している。付加価値を生み出すということは、投資対象の価値の総量は大きくなっていくはずだ。(株価はこの増加の「予測」や「見込み」も含めて形成されていると考えられるので、「付加価値が付くなら必ず儲かる」とはならず、一筋縄ではいかないのだが、企業活動によって付加価値は生産されていく。)
株式は間接的に生産活動に参加できる特異な性質を持っており、売り手と買い手のゼロサムゲームにはならない。コモディティや貴金属とは根本的に性質が異なる。
胴元が存在しない
株式は株式市場から直接現物の株式を買うことが可能で、胴元を通す必要がない。(証券会社を通して買う必要があるが、大抵の株式は手数料無料で購入できる。)投資信託やファンドの仕組みは胴元(資産運用会社)が存在するが、こちらの胴元の取り分は「目論見書」によって必ず公開されており、安いものだと0.05%程度だ。これは還元率で考えると99.95%で保険などとは比べ物にならない高還元率だ。
※もちろん、投資対象が株式であっても高額な手数料を取る商品や金融機関は存在する。駅前などに店舗を構えている会社は要注意だ。
価格がオープンで流動性が高い
株式市場は世界中に公開されていて、今この瞬間に特定の銘柄がいくらで取引されているか誰でも見える仕組みになっている。権力者も金持ちも貧乏人も国籍も関係なく、同じタイミングで同じ銘柄の株式を売買すれば、同じ値段で取引することになる。この「公開性」こそが株式取引の公平性を担保している。こっそり価格交渉する余地などない。
また、株式は流動性の高い資産だ。現金化したい時に早ければ即日で現金化が可能だし、投資信託でも3営業日もあれば現金化できる。加えて、一部分だけを切り出して現金化することも簡単だ。不動産の例で説明したが、3,000万円の保有株式から500万円分だけを取り崩して現金化することは、不動産では難しいが株式であれば容易だ。株式は流動性・柔軟性が高く、取引価格が公開されていて「公平」な資産である。
さらに、株式はリスクプレミアムを保有できる資産だ。本稿では詳細を割愛するが、株式のリスク保有者は企業活動に別の形で参加している債権者や現預金者などが、リスクを取らないことで放棄したプレミアムをかき集めて、企業経営者と分け合う仕組みになっている。これについては長くなるので、今後の別稿に譲りたい。
おわりに
自称「資産」の多くが、実態はギャンブル的であったり、参加者全員が平均的には損をするような性質を持っている。
中でも不動産は個人が投資対象として扱うには不便な代物で、無理して借金(繰り返すが「ローン」もただの借金だ)して保有しても持て余すだろう。不動産で「広い分散投資」できるくらいの資金力があれば、一考する価値があるかもしれない。
株式は他の資産と比較して、投資対象として扱える性質を十分に備えている。しかし、株式にもリスクがあり当然ながら元本は保証されていない。資産運用は無理に行う必要はないが、運用をしないとしても各資産の特徴を理解しておくことは有意義なことだろう。