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「最後の砦」VR(VR袴田事件)開発の備忘録。使用ソフトなど。

南海トラフ地震臨時情報や台風10号などでいろいろ立て込んでいたんですが、少し余裕ができたので、8月26日にリリースしたMetaQuest用のVRアプリ「最後の砦VR(VR袴田事件)」の開発秘話?を何回かに分けて書き留めておきたいと思います。たぶん一度では書ききれないので、今回は初回となります。VRアプリはMetaの公式ストア(AppLab)で無料でダウンロ ードできます。→「最後の砦」VRストアページ 


写真から再現した取調室

開発の背景

1966 年6月に現在の静岡市清水区で一家4人殺人事件が起きました。袴田巌さんが犯人とされて死刑判決が確定しましたが、袴田さんの無実を示唆する数々の証拠によって再審(裁判のやり直し)が認められ、ことし9月26日に再審判決を迎えます。当時の捜査機関の対応に重大な瑕疵があり、東京高裁が「捜査機関によって証拠が捏造(ねつぞう) された可能性が極めて高い」と認めています。静岡新聞社はこの問題を10年以上追いかけている社会部の司法キャップを中心に2022年12月~24年6月、キャンペーン連載「最後の砦 刑事司法と再審」を展開しました。その一環で9月26日の再審判決に一人でも多くの方に関心を持ってもらいたいと開発したのが今回のVRアプリです。

概要はプレスリリースを見ていただければと思います。このnoteでは、プレスリリースに書かなかった少し技術的な部分を補足したいと思います。

没入体験を高めるために加えたインタラクション

取材班による内製を徹底 

本VRアプリは、ゲームエンジン「Unreal Engine5」、統合3DCGソフト「Blender」、生成AI「ChatGPT」などを活用し、開発からリリースまでを取材班で完結させたのが特徴です。記事の読み上げも日本語は「VOICEVOX Nemo」、 英語は「Amazon Polly」のAI音声を利用しました。音楽は生成AIを避け、「魔王魂(森田交一様)」の無料素材を使用しました。音楽の生成AIは既存の曲に似た際どい生成をしたため、現状では使えないと判断しました。取調室の当時の写真からパースを解析して立体的なモデルを作成するには「fSpy」というフリーソフトを使うと簡単にできます。これらのソフトの使用方法についてはまた機会を捉えてnoteで書いていきたいと思います。

正直グラフィックなどの質は高いとは言えません。それでも、取材班のデスクと記者自らが開発を進めることで、素材の取捨選択や記載内容の修正を日常的に妥協なく重ねることができ、より効率のよいイテレーション(開発サイクル)を回せます。編集局(現場の記者)が思い描く記事の”新しい見せ方”を外注して形にするまでのハードルは極めて高いのが現状ですが、内製することで”新しい見せ方”のプロトタイプは提示できたと思います。内製といっても大げさなものではなく、特集面を作るイメージに似ているかと思います。生成AIの限界も浮き彫りになり、やはりクオリティ重視の時はプロに依頼をするのがよいと感じました。記者によるプロトタイプ~プリプロダクションレベルの開発機会を増やすことで、より高品質なアプリ開発に伴う仕事を正式にその道のプロの方々に外注する機会も増えると期待しています。

今後の展開

 Unreal Engineや生成AIの登場により、VRアプリの開発ハードルは大幅に下がっています。MetaQuest3 など高性能で比較的廉価なVRヘッドセットの利用者は今後も増えることが予想され、将来的にはスマートフォンのように一人1台の時代が訪れるかもしれません。このことは新聞社にとって、日々提供している記事をはじめ、膨大にストックしている過去記事や過去紙面を改めて読者に没入体験とともに提供できるバーチャル空間が至る所に生まれることを意味します。そうした動きを捉えられれば新聞社に未来はあると思っていますが、一方で今回アプリを開発していて改めて感じたのは、何よりもまずアナログの取材がしっかりしていないと成り立たないということです。今回のVRアプリは10年以上再審問題に取り組んできたベテラン記者の思いと人脈、取材力があってこそ生まれたものです。新聞社としては、やはりここは本末転倒にならないようにしなければならないと痛感しました。

次のnoteでは、アプリのオープニングシーンで1966年当時の新聞記事の写真を動かす演出について説明したいと思います。

袴田さんの再審判決公判まであと19日

無罪判決が出され、再審法の改正にもつながっていくことを願います。


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