新聞社の取材班がVRアプリ(VR袴田事件)を作った話【1】動かないはずの過去紙面の画像を生成AIで動かす
前回の投稿でVRアプリの概要や背景などの大まかな説明をしたので、オープニングからクレジットに至るまでの詳しい話を何回かに分けて書き留めていきたい。自分はデジタル(ここではネットなどを活用した展開の総称をデジタルとする)を特段推進しているわけではなく、あくまでアナログの紙にこだわっている人間であることを断言しておく。新聞社にとって、現時点でのデジタルは、重要な時事問題に一人でも多くの人に関心を持ってもらったり、紙媒体を盛り上げたりするためのツールだと考えている。今回リリースした「最後の砦VR(VR袴田事件)」も、袴田事件や再審問題に一人でも多くの方に関心を持ってもらい、あまつさえ新聞のキャンペーン報道や関連記事に関心を持ってもらえたらということが目的にある。
オープニングの操作説明
操作方法の説明はプレイ中に呼びだせるようにしてもよかったが、極めてシンプルな操作なので起動時に一度表示するだけにした。イラストは、コントローラーを持った自分の手を写真に撮り、それをドローソフトを使ってベジェ曲線でなぞり、もともとの写真のレイヤーを非表示にしただけ。ベジェ曲線は初心者泣かせだと思うが、レイヤーを使ってトレースする練習を重ねればすぐに苦手意識はなくなる。
過去紙面の静止画を動かす演出
VRアプリのオープニングでは、闇の中に1966年当時の静岡新聞記事が浮かび、徐々に目の前に迫ってくる。迫ってくるのは、袴田巌さんが当時、厳しい取調べを受けた警察署の写真。しかも一つの縦窓に迫っていく。この縦窓の中にある部屋こそが袴田さんが自白を迫られた取調室の一つだった。
このオープニングでは、本来は動かないはずの過去紙面の写真を微妙に動かしている。以前のnoteの投稿(下)で書いたLuma Dream Machineという動画生成AIを使用した演出だ。
写真には生成AIによってカメラが少し左旋回するような動きが付いている。紙面が迫ってくる演出に合わせ、構図が少し旋回するのでまるで紙面に四角い穴が開いていて、向こう側に1966年当時の世界が広がっているような奥行きが生まれたのではないかと思っている。Luma Dream Machineを使用した旨はクレジットに明記した。
ここに有名な第二取調室の写真があるが、
Luma Dream Machineを使うと次のような動画を作ることもできる。これを演出の範囲内とみるか、過剰演出とみるかは意見が分かれるだろう。どのような意図で使用するかも大事で、ケースバイケースでもある。いずれにしろ生成AIを使用したことを明記することは大前提とした上で、過去記事や写真などの歴史的なアセットを数多く死蔵している新聞社が積極的に自社のアセットを現代の生成AIと化学反応させ、現代に蘇らせるさまざまなユースケースを生み出すことで、生成AIの議論を牽引していくことが望ましいだろう。
ちなみに、オープニングで使用した警察署の窓にカメラが寄っていく動きのプロンプトは、the camera dollies straightforward in the direction of the buildingとした。dollyというのはカメラの動きの一つで平行移動のこと。このプロンプト作りは結構苦労したが、その後、Luma Dream Machineのアップデートが行われ、cameraと入力すると、次のように動きの候補が出るようになった。
これはかなり便利で、上の取調室の動画もPush Inを選んだだけで作ることができた。
写真から動画を生成するAIはLuma Dream Machine以外にも複数ある。各社、所有する写真でいろいろ試してみてはどうだろう。試していくうちに、人が映っていたらやめようとか、ここまで動くとさすがに過剰演出だろうとか、いろいろな議論を育む素地が初めてできてくるのではないだろうか。
続く(たぶん)
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