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古典芸能への招待 歌舞伎「野晒悟助」 Eテレ,2019年3月31日

平成30年6月、歌舞伎座での公演が放送されていました。
「野晒悟助(のざらしごすけ)」は前回上演されたのが1998年5月だということで、20年ぶりの上演だったらしい。

僕的に印象的だった2点について。

75歳、尾上菊五郎が演じる“男伊達”

主人公は、喧嘩が強く人情に熱い“男伊達”野晒悟助。
基本的に彼のカッコよさを味わう作品です。

悟助は強くて優しいので、貧しい娘であるお賤(しず)と、裕福な娘である小田井(おだい)という2人の異なるタイプの女性に惚れられる。

ちなみに、悟助に惚れるポイントも
・お賤は悟助の優しさに惚れ、
・小田井は悟助の強さに惚れる
というようになっている。

その悟助を演じたのは、意外にも公演当時75歳の尾上菊五郎。

物語の悟助は20代だろうと思われるので、演じ手の年齢とは大きなギャップがある。
75歳の菊五郎が演じると、基本的に悟助が若者には見えない。

しかし公演を観ていくと、ふとした仕草や見栄によって「かっこいい」と思え、活気ある若者に見えることが結構ある。
そして、そこに演じ手の凄みを感じる。

冒頭で解説の渡辺保さんが「年季の入った名優の芸のツヤ」「老木の花」を見てもらいたいと言っていたが、見て納得した。

息子の尾上菊之助も野晒悟助と同様の“男伊達”浮世戸平として登場するが、これもまた目に力があり、かっこいい。
いずれ菊之助の野晒悟助が見てみたいと思いました。

初演当時から残る小ネタ

脚本上で注目すべきは、ストーリーには関係のないシーンが1つ盛り込まれていること。

それは、野晒悟助が侠客の浮世戸平と喧嘩になるが、土地の親分が仲裁に入り、2人は盃を交わす、というシーン。

実はこれは、河竹黙阿弥によって脚本が作られた当時の小ネタが今に残ったもの。

慶応元年(1865年)の初演当時、四代目市村家橘(=五代目尾上菊五郎)と五代目坂東彦三郎、という仲が悪かった2人の歌舞伎役者の共演を楽しむために、両者が仲直りをする場面が盛り込まれた、というのである。

観客もそういったバックグラウンドを分かって歌舞伎を見ている。

歌舞伎においては、こうして物語における登場人物と演じている人間をオーバーラップさせる演出はしばしばある。

知識がある見巧者に向けた演出を大胆に盛り込めるのは、当時の歌舞伎(今も?)が決して“マス”、大衆を相手にはしていたのではないことを表しているなあと。

六月の博多座でも「野晒悟助」をやるらしい。
時間があったら行こうかな。



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