「クリアボイスラボ」第2回・後編:参加者との質疑応答「小さな実験を戦略にする」
※ 2023年6月開催イベントのレポート記事です
私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ1000名もの多種多様な方々に受講していただいています。
私たちは今年から、これまで受講してくださったアラムナイ(同窓生)の方々を応援し、繋ぐ場となる「クリアボイスラボ」を開催することにしました。本イベントでは日本海外問わず、目的を持って人々を巻き込み、活躍している方々をゲストとしてお招きし、それぞれのクリアボイスについてお聞きします。日本社会におけるさまざまな課題を解決するために、デンマークで行われた実践がヒントになればと考えています。
私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ1000名もの多種多様な方々に受講していただいています。
今回は2023年6月に開催された第2回目より、ゲストスピーカーのウッフェ・エルベック氏による講義をまとめた前編に続き、参加者との質疑応答の様子をまとめた後編をお届けします!
●ゲストスピーカーの紹介
Uffe Elbæk(ウッフェ・エルベック)さん
デンマークのユースムーブメント「The Frontrunners」、ビジネスデザインスクール「KAOSPILOT」、コンサル企業「Change the Game」を立ち上げたのち、2011年に政界に進出。2019年まで政党「The Alternative」の代表を務めるなど、教育や政治、さまざまな分野でよりよい未来を創るための活動を行っている。
●世界中が揺れている今、考えるべきことは何か
【参加者からの質問】
デンマークでは昨年(2022年)12月に国防費を1%から2%に引き上げる際、国民の祝日を1日減らし、労働時間を増やすことで財源としたというニュースを聞きました(編集部注:2023年3月に法案可決)。それに対するデンマーク国民の反応は?
【ウッフェからの回答】
NATOの要請で国防費を倍にするため、祝日を減らす法案が可決されましたが、デンマーク国民の多くが「なんて馬鹿げた政策だ」と反発しています。私はこれを比喩的には「銃で自分の足を撃つようなものだ」と考えています。
これから政府がどのように対応するかは大きな課題ですが、その前に考えるべきことがあると思います。それは国民がどのような人生を歩みたいのか、ということです。この祝日をめぐる議論は、成功とは何か、人生とは何かという話に繋がってくるように感じます。
人々は、ハムスターが回し車を回すように働き続けてもどこにも行けないことに気づき始めています。その証拠に、週休3日にすることで、働く人々の有意義な人生をサポートする企業が増えています。よい人材によりよく働いてもらうため、組織づくりも柔軟になってきているのです。国防費をめぐる議論から、政府も「価値のある人生とは何か」に立ち返って考えるべきだと思います。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻によって、私たちには新たなマインドセットが必要になったのも確かです。第二次世界大戦以降、もう大きな戦争は起こらないと人々は思ってきましたが、すべてが変わったのです。私たちはもう平和な世界には暮らしていません。アメリカにももう頼れない。自分たちの国は自分たちで守るしかない、という考えが浸透した今、新たな観点が必要になっていると思います。
●意見を言わない日本人に声を挙げてもらうには?
【参加者からの質問】
お話を聞いていると、デンマークの人たちは国に対して声を上げ、行動できる国民だと感じます。実は日本でも防衛費が挙がっているのですが、日本人は何も言わない。意見を言わない日本の人々に声を挙げさせるために、ウッフェさんならどうしますか?
【ウッフェからの回答】
デンマークではボーンホルム島という小さな島で「民主主義フェス」が開催されています。そこにはプライベート・セクター、パブリック・セクター、シビラル・セクターすべての人々が集まり、3000種類くらいの民主主義に関する議論がなされます。
この取り組みはもともと、スウェーデンで始まった「人々のための集会(People’s meeting)」をベースとしています。その場では人々の心理的安全性は保たれ、個人的な問題から国レベルの問題まで、多岐にわたる課題を自由に話せる雰囲気が醸成されています。日本でも、このような取り組みが一般的になるとよいのではないでしょうか。
さらに、民主主義的な市民を育成するには、実際は幼少期からの教育も必要ですね。未来に対して希望を持った子どもたちを育てることもまた、民主主義国家には必要なのです。
●新しいシステムを立ち上げるときに必要なことは
【参加者からの質問】
私は普段、ベルリンで仕事をしていますが、どこの国でも行政というのは適応能力が低く、柔軟でないと感じます。特に法律を変える必要がある場合、あまりにスピードが遅いです。だから、たとえば小さな町だけで2年間、その法律を試してみるのはどうでしょうか? 市民にとって目に見える形での変化があると、それだけで投票率も変わってくるのではと思います。どう思われますか?
【ウッフェからの回答】
デンマーク政府も、システムを作る際の動きがスローだとよく言われています。私自身がイライラするのは、気候変動においてすでにそれについての知識や解決策が十分にあるのに、なぜ動き出すのがこんなに遅いのかということです。
ただ、デンマークにおいて「実験することを戦略のコア(軸)とする」という考え方が基本になっています。実験してみて、うまくいけば加速する流れを作る。逆にうまくいかなかったらやめる。そのような実験の姿勢がコアになっています。今、おっしゃった内容はその実験をローカルのレベルで行うということだと思います。小規模でテストして、よかったら国レベルに広げていくという実験を戦略的に行うことは必要だと思います。
また、新しいシステムを立ち上げるときに大切なのは、既存のシステムの是非を議論する以上に、新しいシステムがいかに魅力的かを伝えることです。人々が古いシステムから移行せざるを得ないほど魅力的なものをどうすれば作れるかを考えることが必要です。
そして、古いシステムと新しいシステムの人たちが出会う、共有のミーティング場所を作っていかなくてはいけません。互いをよく見て、効率的に協働することが重要だと考えています。
●セッションを通して得られたこと
ウッフェとのセッションを通して得られたこと、持ち帰りたいことを振り返りました。
◆デンマークでも97%の国民が政治活動を行っていないことに対し、ウッフェさんは「政党そのものを魅力的に見せること」「政治家と市民が対話する場を作ること」と言っていらっしゃいました(前編)が、日本でもそのような活動がされているのか思い当たるところがないので、身の周りで探してみたいと思います。
◆「小さな実験」のお話が興味深かったです。小さなテストを繰り返すことが、変化のきっかけになると思いました。
◆普段、企業の組織開発の仕事をしています。みんなで協働しようとしても、なかなか動いてもらえないのが課題です。でも今日のお話を聞いていて、組織を変えるだけでなく、社会から変えていかないといけないのかなと感じました。そもそも、組織と社会を分けて考えること自体、壁を作っていたのかもと思います。これからは両方を混ぜ合わせて考えていきたいです。
◆お話を聞いていて個人的に持ち帰りたいと思ったのは「価値のある人生を考える」というお話。自分にとって意味のある人生とはどんなものかを思い描けたとき、初めて自分自身の言葉が出てくるのかもしれません。それはまさにクリアボイスだと感じます。クリアボイスを探すところから始めていきたいと思います。
========
▼運営企業:株式会社Laere
株式会社レアは「人の想い」から始まるプロジェクトを北欧社会をヒントに、引き出し・支援し・実践する。共創型アクションデザインファームです。
北欧社会のインスピレーションなど定期的にお届けしているニュースレターのご登録はコチラより。