「クリアボイスラボ」第1回・前編:助け合いながら問題解決に取り組む”Citizen Change“とは
※ 2023年4月開催イベントのレポート記事です
私たちが2015年から毎年開催してきた「Creative Leadership」。職種や組織、地域を超えて、のべ1000名もの多種多様な方々に受講していただいています。
私たちは今年から、これまで受講してくださったアラムナイ(同窓生)の方々を応援し、繋ぐ場となる「クリアボイスラボ」を開催することにしました。本イベントでは日本海外問わず、目的を持って人々を巻き込み、活躍している方々をゲストとしてお招きし、それぞれのクリアボイスについてお聞きします。日本社会におけるさまざまな課題を解決するために、デンマークで行われた実践がヒントになればと考えています。
今回は2023年4月に開催された第1回目より、ゲストスピーカーのポール・ナトルプ氏による「個人のアクティブシティズンシップを呼び覚ます”Citizen Change“」と題した講義の様子を前・後編に分けてお届けします!
目次
●助け合いながら問題解決につなげる場を作る
●フィジカルな場だからこそ、変化の力が生まれる
●人々がつながることで生まれたプロジェクト
●自分が主体となって動くことで前進できる
<プロフィール>
●ゲストスピーカーの紹介
Paul Natorp(ポール・ナトープ)さん
デンマークにある市民主導の変革プラットフォーム「Sager der Samler」の共同代表を務める。Creative Leadership Programの共同開発者でもあり、リーダーシップトレーナーとして世界でCreative Leadership プログラムを展開しながら、アクティビスト兼ソーシャルアントレプレナーとして、市民や学校、企業、政府、NGOなどを巻き込む共創の場やリーダーシップのあり方を創造している。
●助け合いながら問題解決につなげる場を作る
「What a wonderful world(なんて素晴らしい世界だろう)」
そんな歌詞の歌がよくありますが、現実はいつもそうとは限りません。私たちは個人的にも、属するコミュニティでも、社会においても、さまざまな課題を抱えています。
今から10年前、私は5人の仲間とともにデンマークで「Sager der Samler」という組織を立ち上げました。これは英語では「Citizen Change(市民の変革)」を意味します。健康、教育、環境、気候など、複雑で切迫した問題を解決し、未来の生活を自分たちの手で形作るために、社会のあらゆる分野の人々が協力するよう呼びかけることが、私のクリアボイスでした。
私のクリアボイスの原点は子どものころにあります。それは父が帆船を購入し、私や弟たちにヨットを教えてくれたときのことです。
最初は風や波が強く、怖がっていた私に父は安心感を与え、良い船乗りになるようにと教えてくれました。その後、私と弟は遠くへ旅することを夢見るようになり、19歳のとき、小さなヨットでデンマークから南米まで一緒に航海しました。その経験を通じて、お互いに勇気を出して協力し合えば素晴らしいことができ、夢を実現できることを学びました。
私のクリアボイスは、この経験から生まれたと感じています。私たちに必要なのは、想像すること、手を使って実際に動き出すこと、そして人々と手を取り合って課題に向き合うことです。そこではコミュニティという概念が重要になります。人々が互いのリソースを共有し、つながり合い、ともに行動するための場を持つことが必要なのです。
●フィジカルな場だからこそ、変化の力が生まれる
私たちの「Sager der Samler」では、課題を抱えた人々が集まり、つながり、行動を起こすための場(プラットフォーム)を提供しています。実際に対面する「フィジカルスペース」とSNSなどの「ヴァーチャルスペース」のふたつの場を設けていますが、とくにフィジカルスペースを重視しています。
私はよくフィジカルスペースでこんな質問をします。
「What would you engage yourself in if you could?(もしできるなら、あなたは何に携わりたいですか?)」
この質問で大切なのは「if you could」の部分です。アイデアを思いついて行動しようと思うとき、多くの人が「知識がない」「ひとりではできない」「やったことがない」と尻込みしますが、そんな思いを一度取っ払って考えていただきたいのです。そこで出てきた答えは、その人にとってもっとも重要なことだと言えるでしょう。
そしてその答えを私たちが提供するランチ会などの場で話し、そこにいる人々と意見交換を行います。その際は、次のことを大切にしています。
1:YES=対話の際に「YES」と言うこと
2:Courage=勇気を与え合うこと
3:Network:人脈を共有し合うこと
4:Reputation=評判を共有のものとして使うこと
5:Knowledge and experience=互いの経験を共有すること
互いの話をよく聞き、勇気を与え合い、人脈や評判、経験など、持っているリソースを共有し合うこと。フィジカルな場では帰属意識が高まるので、互いに助け合うようになります。人々が助け合い、互いのプロジェクトに参画し、リソースを共有し合う関係になることで、各プロジェクトは社会に変革を起こすものに進化していくのです。
●人々がつながることで生まれたプロジェクト
ここからは私たちが作った場を通して生まれた、いくつかのプロジェクトをご紹介します。
【Tours on Wheels】
車椅子生活を送る女性が「車椅子の人もオープンな場所でアクティブに生きるためにはどうすればよいか?」という課題に向き合うことで生まれたプロジェクトです。車椅子では街中を移動しにくく、彼女はずっと町から排除されているような気分で生きてきました。
そこで彼女は、健常者も車椅子に乗って街中をめぐるツアーを企画しました。そして、初めて車椅子に乗る人々が気づいた通りにくい場所など、街の状況を記録するようにしたのです。彼女はずっと自分は犠牲者だと感じてきたそうですが、この活動を通して、自分が媒介となる場を見つけることができました。
【The Well-being Alliance for Children and Youth】
デンマークでは近年、ストレスを抱えて不登校になる若者が増えています。このプロジェクトを立ち上げた女性の孫も問題を起こし、家族が何年も苦労しながらサポートしてきました。元看護師だった彼女は、引退した同業者を集め、自分と同じように問題を抱えた若者がいる家族を支援する組織を作りました。後に、より規模の大きなNGOや若者で構成された政党のメンバーなどともつながっています。
【Embassy of the Species】
自分の声を持たない動植物のアンバサダーとなった人々が集まり、彼らの声を代弁することで課題に取り組むユニークな組織です。たとえば高層ビルが建つとき、鳥のアンバサダーが「鳥が巣を作れなくなる」と代弁し、議論します。
【The Repair Consortium】
高齢者は手を使って修理することに長けているので、彼らの持つスキルを若者に伝えるための団体です。若者が修理したいものを持ってきて、上の世代の人たちに修理方法を教わりながら、一緒に直していきます。サステナビリティの課題に取り組む意味も持つ団体です。
【Social Health】
デンマークは医療費が無料ですが、たとえば障がいのある方はドクターの予約を取ったり、言われた内容を理解したりすることが難しい場合もあります。そのように医療制度を活用しきれていない社会的弱者の方々を、医療従事者をめざす医学生たちがサポートする組織です。
これはデンマーク国内でも重要な位置にあるNGOで、今では250人の医学生がボランティアで活動し、3000人ほどの市民をサポートしています。ここでの経験を通して医学生たちは社会的弱者への共感や理解を学ぶことができ、さらにいずれ現在の医療システムを内側から変えるためのヒントを得られるのです。
【Morning Politics】
月に一回、朝に地域の市議会議員と市民が集まって話し合う場です。フレンドリーな雰囲気の中で、市民と政治家は互いを知り、さまざまな課題を話し合います。
●自分が主体となって動くことで前進できる
私たちは、動き始める際に次のようなルールを設けています。
1:Own reality
あなたの今の生活を出発点にすること。自分の生活の中でリアルに抱えている悩みや課題から始めることで、自分が主体となって考え、動くことができます。
2:Eye level
互いのリソースを活用しながら動くとき、他者と同じ目線で一緒に行うこと。間違えてはいけないのは「他者のために行う」のではないということ。
3:Freedom
誰かの許可やお金を求めることなく始めること。たとえばスポンサーがいる場合、スポンサーにお伺いを立ててしまうと、物事を自分で決められません。
この考え方であれば、自分が主体となって動くことができ、自らを励ましながら進んでいくことができます。
私は「Sager der Samler」の活動を通じて、社会や人々についてより深いレベルで学んできました。解決策を生み出すことだけに集中するのではなく、勇気を持って学び、ともに行動する能力をコミュニティの中で育むことがいかに重要かを学んだのです。
ですから、私は今、希望のために立っています。私たちのクリエイティビティ、手、そしてお互いを使って、毎日少しずつ世界を良くしていこうと呼びかけるのが、私のクリアボイスなのです。
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★次回、後編では参加者との対話や振り返りの様子をお伝えします。
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