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逢瀬ーショートショート

重ねた手にじんわりと汗が滲む。どっちの汗か分からないくらい密着した手のひらの中で、流れるでもなく留まる水分。
(あ―――・・・尊い・・・)
 軽く目を閉じ、委ねた肩から感じる体温に脈拍すら聞こえてくるんじゃないかと耳を澄ます。
 さわさわと風が鳴り、一筋、髪を掬う。この鼓動は海斗にも届いているだろうか。

 昨日、梅雨が明けたと誰かが言っていた。今年の夏は例年より早いスタートを切って、灼熱の日々がやってくる。粛々とこなされるカリキュラムは事務的で、私たち生徒も淡々と受け流していく。全くときめかない夏の始まりだ。
 ピコンッ。スマホから通知を報せる音が鳴る。音を切ってなくて、慌てて確認して設定を直す。
『チョーあちぃ』
 海斗からだ。
『まだ授業中だよ』『集中集中!』
『ほーい』のスタンプ。
 学校も塾も画面越しの授業に切り替わり直接言葉を交わす機会を失った私たちは、ほぼ一日中メッセージを交換している。もちろん海斗だけじゃなく、友達のゆんちとミサ、幼馴染の晴花とも。
 まさしく『おはよう』から『おやすみ』までだ。
 海斗とは通話もしているけど、直でのやり取りじゃないのは同じなのでタイミングとか最初はちょっとダルかった。ある意味区切りがないんだよね。それも今はカイショ―したけど。
 逆に、直接会った時の価値はどんどん高まってる気がする。
 話したいことはメッセのやり取りでほとんどしてるし、中々会えないからこそ体温大事っていうか。最近はお互い喋らず、手を繋いで存在を感じるのが最高のご褒美ってカンジ。
 チラッとカレンダーを確認して日数を数える。
 次に会うのは8日後。晴れるといいなぁ・・・

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