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2007/03/20~2025/02/19 レディ


「はじめに」


17歳と10ヶ月と30日で「レディ」は虹の橋を渡った。
亡くなった今日、彼女との思い出を振り返りたくて、この日記を書いている。

僕が中2の時に君は来た。
2人の兄貴が上京して、毎日が少し静かになった実家。
そこに君は来た。

男3兄弟末っ子の僕に、初めて可愛い妹ができた。本当に可愛かった。
山形市の端っこのペットショップからやってきたトイプードルの女の子。父親の一目惚れだったらしい。
わんわん物語のヒロインから取った名前。「レディ」と名付けられた。
レディという名前にピッタリで、栗色の毛がふわふわで、目がくりっとしてて、弾むように歩いてた。そして何より楽しい時の感情表現、笑顔が可愛かった。
家族みんなから愛された子だった。

「たくさん」


たくさん名前があった。

"レディちゃん" "レディたん" "レデたん" "レデ"  
"レデさん" "レデ子" "モップ" 
アレンジ加わりすぎて、名前のバリエーションは何個あっただろう。
愛嬌のある子だった。

たくさん遊んだ。

ぬいぐるみを投げて取ってくるフェッチごっこをした。お気に入りのおもちゃは、うさぎちゃんとゾウさんとジーンズ生地の骨のぬいぐるみ、ウサギとゾウの目は遊びすぎて、糸がほつれてた。
ワインの箱をブンブン振り回してたり、お股が赤くなるくらい 棒状のクッションに腰を振り続けたり。
急にテトラポット型のおもちゃに母性が湧いて、口にくわえたまま、家中を歩きつづけたり。
アクティブな子だった。

たくさん寝た。

びっくりするくらい大きいなイビキをかいたり、
いつもの可愛さを帳消しにするくらい白目で寝てたり、母親との昼寝では母親の布団の上で仰向けで寝てたりもしてた。
睡眠に全力を注ぐ子だった。

たくさん芸を覚えた。

お座りにお手、おかわり、ふせ、待てを覚えた。
アヘー というコマンドをすると、仰向けになった。その状態でおやつをあげるとすごく喜んでくれた。おやつをちょんちょん触れさせながら、後ろ足から口まで持っていく遊びは何回しただろう。
チンチン、足をくぐるトンネル、足の上をジャンプ、アクロバティックな技も覚えた。
毎日実家の仏壇にお米を備える時は、米粒をもらう目的で、お参りにもついてくるようになった。 
覚える芸は増え続け、最終的には、自分の年齢の数だけ吠えられるようにもなったし、歌えるようにもなってた。
おしっこしたいときは、一人でトイレに行っていた。
賢い子だった。

たくさんちょっかいかけた。

レディが大好きだったお留守番中に食べる骨のガム。 彼女が食べている最中に口元に手を近づけると上の歯を剥き出しにして怒ってくる。
それが楽しくて、何度も仕掛けた。たまにかぷっと噛んでくる。でも絶対に甘噛みなのが彼女の偉いところだ。
節分の時は、鬼の被り物を被せた。頭に何かを被せられるのが嫌いな彼女は、動きがぎこちなくなる。 悲しげな顔が可愛かった。
みんなのアイドルとして癒してくれる子だった。

たくさん起こしてくれた。

朝、床と爪が擦れるチャカチャカという音が近づいてきて、レディは寝ている僕の上に乗っかってくる。
そこから起きるまで舐められる。 起きたふりをしても彼女は許さない。
起き上がるまでが彼女の仕事。
使命感のある子だった。

たくさんご飯を食べた。

誰かが台所に立っていると、私のご飯を作っているのね?と思う習性があった。
ほとんどが人間用の料理なのに、全てが自分の物だと思っていた。

料理中は離れてくれない。 つまみ食い的にたまに食べさせてあげる。
好きな野菜は喜んで食べるのに、
苦手な野菜だと笑顔でもらってたくせに、すぐ床に吐き出す。
家族でご飯を食べてる時は、ケージ(お部屋)でゆっくりするルールなのに、僕たちが楽しそうにしてると仲間に入れて欲しいのか、すぐ吠えてくる。
うるさすぎる時は、しょうがなく抱っこして混ぜてあげる。
その時のニコニコした表情は、彼女の家族への愛・飯への執着心を感じた。
食い意地のはった子だった。

たくさんおしゃれをしてた。

母親がブラッシングを毎日していたこともあって、いつもツヤツヤだった。
髪を伸ばしてちょんまげを作るようになってからは、色とりどりのヘアゴムで頭を飾っていた。
散歩の時は、おしゃれな服を着た。
半袖Tシャツ、ワンピース、ダウンジャケット、母親の手編みのセーターなど、何着持っていただろう。
ディズニー土産で買ったミニーちゃんの服は、サイズが小さくてパツパツだった。
何でも似合う子だった。

たくさんお見送りをしてくれた。

中学校に行く時、リュックを担ごうとすると出かけることを察して、後ろをずっとついてきた。
彼女なりに「いってらっしゃい」をしてくれた。
父親が仕事に出勤する時は、足に絡まりついていた。
いつも出かける家族たちに、行ってらっしゃいのチューをしてくれた。
帰ってくると、尻尾を振りながら座り込んだ僕の股に顔を擦り当ててくる。その後仰向けになり、撫でろと要求してくる。
父親が帰ってくる時は、車の音だけで帰宅を察してた。父が登ってくる階段の上で尻尾を振って待っていた。
人懐っこい子だった。

たくさんテレビを見た。

ソファに座ってると、ジャンプして登ってきて、僕の膝の上に乗ってくる。
彼女なりの特等席なのか、そこから顔を上げてテレビを見てる。
テレビに動物が出てくると、レディは吠える。侵入者だと思ってるのか、怒る。
しまいには、きょうのわんこのジングルが流れるだけで、犬が出てくることを覚え、朝から怒る。
めざましテレビはきょうのわんこ前にチャンネルを変えることになった。
テレビと現実の区別がつかない子だった。

たくさん散歩をした。

実家のそばにある河原でのびのびと歩いて、俊敏に走って、たまに散歩で通り過ぎる犬に吠え散らかして僕から怒られていた。
散歩の時、いつも僕が後ろをついてきてるか笑顔で振り返ってくれた。
散歩友達のわんちゃんもたくさんいた。友達にも怒ってた。 特にオスのプードル モカちゃんに怒ってた。 彼は怒られるとピーピー泣いてた。お似合いカップルだったと思う。
河原が大好きな子だった。

「ずっと」

ずっとそばにいてくれた。


僕は高2の時に、心を病んだ。
人が怖くて、窓から刺す太陽の光すら恐ろしかった。 自分の部屋から出たくなかった。家族がいる部屋すら怖い瞬間もあった。
でも、レディがいた。
こんな僕でもレディはそばにいてくれた。
レディは笑顔で、僕の近くにいてくれた。撫でるだけで癒された。彼女のおかげでどれだけ救われただろう。
久々に外に出た記憶は、レディを散歩に連れて行った時だ。 レディのためなら頑張れた。 レディが喜んでくれるならと、一歩を踏み出せた。
家に帰って、久しぶりの外にドキドキしたのを覚えてる。いつもの河原すら、怖かった。 でもレディはいつもの笑顔でこっちを見ていた。 いつもの腹ぺこ具合でおやつをせがんできた。
彼女からしたら、僕は変わらず僕だったんだと思う。
嬉しかった。
ずっと僕のそばにいてくれてくれる子だった。

「ありがとう」

僕が中学生から高校生になっても、病気をしても、留学をしても、家を離れても、大学生になっても、社会人になっても、結婚しても、離婚しても、レディはいつも尻尾を振っておかえりをしてくれた。
くりっとした目と濡れた鼻で人懐っこく笑顔を振り撒く妹、レディが大好きだ。

彼女のおかげで、僕は笑顔になれたし、元気になれたし、癒された。
別れの言葉よりも感謝の言葉を伝えたい。
レディちゃん 17年間ありがとう。

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