美味しすぎない「ブレンドコーヒー(深煎り)と自家製チーズケーキ」
社長と二名の常務らが参加する、比較的重要な打ち合わせがある。それなりの面子に気を遣い12:45には会議室入りしたのだが、午前の会議が押したらしい。スタートの一時間後ろ倒しが無情にも通知された。だがこれ幸いと近場の喫茶店へ向かい、ノマドを気取る。
明治〜大正時代に隆盛を誇ったらしいミルクホールという軽食店業。その名を東北の、さらに田舎でそのまま語るとは本当にズルい。大柄なマスターはずるりと禿げ上がってはいるものの、後ろ髪をキュッと結うスタイルが洒落ている。ランチを過ぎたばかりだからか、今日はマンツーマンの営業だ。
限られた時間を太く短く過ごそうと、深煎りのブレンドコーヒー(450円)と自家製チーズケーキ(200円)を頼む。その価格にも驚きだが、小豆とチーズを組み合わせようと試みたオリジナリティが素晴らしい。当然、特段美味いわけではないのだが、濃い目のコーヒーとの相性は意外にも悪くない。
店内はジャズが流れてきそうな雰囲気であるものの、実際聴こえてくるのは童謡のラジオだ。この曲知ってる…とメロディラインを三倍速にし、先読みした歌詞から曲名を振り絞る。
「おーぼーろづきよー」
そうだ朧月夜だ。サビを前に解答できたのだが、もちろん点数が与えられることもなく、誰かが褒めてくれるわけでもない。ノマドワークの前に背面に並ぶ漫画の品定めをする。
次の曲が流れると同時に鳴る携帯電話。社長だ。予定が変わったから今すぐ戻って来いと催促された。熱々のコーヒーをゴクゴクと飲み、チーズケーキを大振りに切って頬張る。味合う余裕も残す気概もない。慌ただしくレジへ向かう。
これだからサラリーマンは大変だと憐むマスター。味わってもいない癖に「美味しかったです」と声をかけて車に乗り込んだ。
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