美味しすぎない「ワイワイサデコ」
三連休というロングバケーションながらも、もちろん海外に行ける時間も金もなく、そもそも世界情勢がそれを許すわけがない。それでは気分だけでもと異国情緒を求めて街に出る。
やってきたエベレストは仙台駅前店をうたっているが、むしろ裏手にあたる東口のさらに外れに店を構える。店内にほとんど日本語は見当たらず、おそらくネパール人であろう店員の日本語も片言だ。日用品を買いに来たカップルから放たれる言葉も聞き覚えがない。まるで日本とネパールの狭間にいるような感覚に襲われる。
タカリプーリセット(980円)を食べようと決めた後は、しばしメニューを謎解く時間だ。「マトンぐじいのいためもの。」の「ぐじい」とは何ものだろうか。そして砂糖に漬けられているものの正体は一体…。ニタリ顔でページをめくっていると眼に飛び込んできたワイワイサデコ(380円)の文字。どうにも楽しそうなその名前に惹かれて衝動的にオーダーを重ねる。一か八かの注文もこういう店の醍醐味だ。
運ばれてきた謎のワイワイサデコは、酸味と辛味で半分湿気たようなインスタントラーメンだった。夏に似合いそうな味わいは、ネパール料理界の美味すぎない料理ナンバーワンに違いない。どうにもクセになり止まらない。だがこれ以上こだわり様がないであろうあたりが素晴らしい。ちなみにワイワイとはネパールで人気のインスタントラーメンの名称とのこと。サデコは「和える」と言った意味らしい。チキンラーメンでつくればニッシンサデコと言った具合だろうか。
薄い揚げパンのようなプーリーに豆のカレーと羊肉のカレーを浸けて食べる。骨付きマトンのせいか、気がつけば手食に移行している。ネパールと日本の狭間に居たはずが、どうやらネパール側に歩を進めていたようだ。
ふと外を眺めていると、窓辺の花器に挿された造花が水を吸っている。後ろを振り向くと大きな金魚が背泳ぎをしている。ネパールでも日本でもない何処かに迷い入った感覚に襲われた。
家に戻り花粉症気味の鼻を触ると、指に残るネパールのにおい。この刺激的な感覚はどうにも暫く戻らない予感がする。