ラッセルの半生とともに学べる漫画!『ロジ・コミックス: ラッセルとめぐる論理哲学入門』
「よくぞ日本語翻訳版を出版してくれた!」と筑摩書房に感謝しかありません。
20世紀を代表する哲学者であり、数学者・論理学者のバートランド・ラッセル。
本書はラッセルの半生を振り返りながら論理学を学べるオールカラーのグラフィック・ノベルです。
舞台は晩年のラッセルの講演。そこで語られる半生を回想という体裁で描いていきます。ユニークなのは合間に制作者たちの「プロセス」が挿入されているところ。
メタ視点で補足・解説をしつつ、つくり手のメッセージを込めています。
ラッセルはフレーゲと直接会ったことはないだとか、細かな脚色はつくり手も断っています。ラッセルという人物像またその周囲の人々が、ビジュアル表現によってグッと身近になることはまちがいありません。
幼少期の家庭教師の縁でユークリッド幾何学に魅せられ、数学→哲学→論理学と世界についての知・真理を得ようと奮闘している様子がよくわかる。
ホワイトヘッドとの共著
ラッセルは論理学のパラドックス(集合論における自己言及問題)に気付きます。当時、世界にたいへんな衝撃を与えました。
そこで自身で空けた「穴」を修復するために、ホワイドヘッドと10年もの歳月をかけて『プリンキピア・マテマティカ』を書き上げる。
しかしそれは不名誉の自費出版だったし、なによりラッセル自身が内容に満足していない。ちなみにホワイトヘッドの妻・イヴリンとの精神的な恋愛模様も描かれています。
影響を与えたゲーデル
『プリンキピア・マテマティカ』とはかんたんにいうと「1+1=2」すべて論理形式に移し替えて記述するというもの。パラドックスを論理的に証明できないと主張しようとした。
「1+1=2」の証明に300頁以上も費やすような本です。完ぺきに内容を理解できる者が少ないなか、若きクルト・ゲーデルが読んでいました。
そのゲーデルはなんと数学そのもののが不完全であることを後に証明してしまう。数学そのものに数学の正しさを立証する論理は存在しない。
本書にある通り、偉大なるヒルベルトは思いっきり落胆します。
天才・ウィトゲンシュタイン
同じく『プリンキピア・マテマティカ』に影響を受け、ラッセルに称賛を贈ったのはウィトゲンシュタイン。フレーゲの紹介でラッセルにたどり着きます。
ラッセルは、教え子とも呼べるウィトゲンシュタインの『論考』によって論理学そのものでは世界を理解できないことを悟っていきます。それでも論理の力を信じて平和活動、教育に勤しみます。
ちなみに漫画ではラッセルとウィトゲンシュタインのやりとりはもちろん、変人とも呼ばれるウィトゲンシュタインの行動をしっかり漫画におさめています。
総じて、物語はけっして明るいとは言えません。だけど激動の時代、偉人たちが何を考えてどう生きたのかをいきいきと描いています。
というわけで以上です!