『ハムレット』(シェイクスピア)〜光文社古典新訳文庫を読もうシリーズ〜
一生をかけて光文社古典新訳文庫をじっくり読んでみる。そんなシリーズを始めてみようと思います。
『ハムレット』を読みました。
好みの光文社古典新訳文庫で、しかもKindle Unlimitedの読み放題ということで、こちらを手に取りました。
はじめて知ったのですが、どうやらハムレットには原著にバージョン違いがあります。どれを正とするか、これまで議論がずっとあったようです。
そう、タイトルのQ1って?
本書「Q1版」はもともと海賊版と呼ばれていたもの。昨今の研究では『ハムレット』として演じられる以前に使用されていた原型にちかい、と解釈されています。
「原型」と呼ばれるくらいですので、この後に出ているQ2と比べると、分量が少ない。いやたしかにコンパクトです。
シェイクスピアは「Q1版」を練り直し、書き足していって、いまのかたちとなったのでしょう。
そもそも分量が少なく、スッキリしすぎている印象も否めません。
母、ガートルードの位置付け
そのなかで本書でおもしろいと思ったのは、ハムレットの母、ガートルードの扱いについてです。
これまでなんとなくの記憶とイメージでは、母のガートルードは基本、劇中で起こる事柄についたとくに知りません。
そうしてハムレットとレアティーズの試合を迎えます。
「Q1版」では途中、ハムレットが母・ガートルードへ王殺しの事実を打ち明けるシーンがあります。
ガートルードは「気の迷いだ、妄想だ」など言いますが、着地としてはハムレットの言い分に納得しているように思えます。
ガートルード:私は、知らなかった、お前の父が、あの男に殺されたなどと、神にかけて、つゆ知らなかった。お前が復讐のためにどんな計略をめぐらそうと、けっして洩らすようなことはしません。さまたげるようなことは、けっしてしません。
「じゃまをしない」とまで言っています。ハムレットを信じています。味方です。
ここで親子としての絆のようなものが見えたのが新鮮でした。
ガートルードは最後、毒の入った杯を口にしてしまいます。息子ハムレットからの独白を聞いて知っている状態なのか、それともまったく知らないのか。
印象は変わってくるはずで、ぼくは前者のQ1が好みです。
それでは最後に父である王の亡霊とのやりとりを経て、覚悟を決めたハムレットの言葉をクリップして終えます。
さ、行くか。だが、秘密は洩らすなよ。この世の関節が外れてしまった。なんという呪われた運命か、このおれが、そいつを正すために生まれつくとは。さ、行こう。
「この世の関節が外れてしまった」というのはすさまじいワードです。
というわけで以上です!