何も心配せずに来てほしい。旅好きのオーナーが不満からつくった理想の宿|LAC大阪今里 コミュニティマネージャー・ 村上研さんインタビュー
場所やライフライン、仕事など、あらゆる制約に縛られることなく、好きな場所でやりたいことをしながら暮らす生き方「LivingAnywhere(リビングエニウェア)」。
そんな暮らしをユーザーと共に実践していくコミュニティLivingAnywhere Commons(リビングエニウェアコモンズ)から、今回は初の大阪拠点となるLivingAnywhere Commons大阪今里(以下、LAC大阪今里)を取材させていただきました。
LAC大阪今里は「Hostel Caranashi」という施設がパートナー拠点として登録。「もともと旅が好きだった」と話すコミュニティマネージャー(以下、コミュマネ)の村上研さんが、施設の工事から手がけた場所となっています。
今回はそんな村上さんに、LAC大阪今里の概要や過ごし方、ご自身の人生ストーリーについて伺いました。
LAC大阪今里の施設概要と楽しみ方
ーー村上さん、今回はよろしくお願いします。すでにLAC大阪今里を訪れたユーザーから、緑の多い施設でとても素敵なところだったと聞いています。公式サイトでは "泊まれる植物園"と紹介されているHostel Caranashiですが、いったいどんな施設なんでしょうか?
Hostel Caranashiは、元割烹料亭をリノベーションしてつくった宿になります。
緑が多いのは、もともと僕が遺跡が好きだから。人工物が破壊したところに植物が共生している姿に魅力を感じ、「遺跡のあの感じを再現できる建物を作れたら面白いな」と思ったのが "泊まれる植物園 "のきっかけです。
ーーHostel Caranashiという名前は、奈良の「奈(からなし)」からとったんですよね。ここにはどんな意味が込められているのですか?
正直、宿の名前に関しては悩みすぎて訳がわからなくなり、「奈」という文字をみていたらゲシュタルト崩壊して、なんか記号っぽくていいなとつけたんです(笑)。
「奈」って意味もよくわからないし、「な」以外の読み方も知らない。この字が何を指すのかもわからないなかで、宿の名前としてつけたあといろいろと調べてみると発見があって。
例えば、奈(からなし)は野生のりんごを指し、「唐(から)=中国」から伝わった梨(なし)のようなものというのが語源なんです。「からなし=宿に空(から)の日がない」で、ずっと誰かがいるような施設になると思い、めちゃくちゃ後付けなんですけど「お、この名前ええやん」と思いました。
ーーHostel Caranashiさんは今回LACのパートナー拠点として登録することとなりましたが、LACのコンセプトである「住む・働く・交流する」という観点からも施設の概要を教えてください。
まず働くに関して、Hostel Caranashiは他のLAC拠点のように、一部屋丸ごとワークスペースという場所はありません。ただ、共有部に椅子とテーブルがあったり、こたつの周りをソファーが囲んでいたりするので、コミュニティスペースをワークスペースとして使うことができます。
お部屋は全室個室でゆっくり過ごしていただくことができ、「地域の人と交流はあるか?」という点では、レンタルスペースとして貸し出しもしているので、普通に地域の人が扉を開けて入ってきます。
小さい子供連れのお母さんたちが食事会をしたり、写真撮影で利用する方がいたり。あとは拠点の近くに大学があって、そこの学校関係者が泊まりにくることもあります。
ーーそんなHostel Caranashiのある大阪今里では、この拠点を中心にどんな過ごし方ができるのでしょう?おすすめの過ごし方があれば伺いたいです。
大阪今里のいいところは、めちゃくちゃアジアを感じられるところです。
今里は生野区という場所にあるんですが、住民の20%以上が外国籍。戦前から韓国の方が多かったのに加え、戦後から中国やベトナムの方も増え出して、LAC大阪今里から徒歩10〜15分圏内にコリアンタウンが、宿周辺には韓国・中華・ベトナム料理屋などがあります。
最近増えたベトナムの方は、いい意味でも悪い意味でも商売が下手。メニューの名前が翻訳機にかけたままだったりするので、見ていてとても面白いですよ。
例えば、以前あったのは「落とし卵のスープ」。翻訳の間違いで「落とした孫のスープ」になっていて、これだいぶやばいこと書いてるやんって思いましたね(笑)。
ーーそれはだいぶやばいですね(笑)。でも、大阪今里が日本にいながらアジアの異国感を味わえる場所だということがよくわかりました。LACに宿泊する際、ユーザーとしてはどのくらいの滞在日数で行くか?ということが一つ悩むポイントなんですが、村上さんはHostel Caranashiの滞在期間は何泊くらいがおすすめですか?
それでいうと1週間くらいがベストなんじゃないかな。1泊じゃ見るものが多すぎて全然足りないですから。
あと、僕は今里にきたら絶対「人」を見てほしいんですよね。大阪は良くも悪くもお笑いの町。個性的で不思議な人が多いんです。
例えば「さすべえ」って知ってますか?大阪のおばちゃんが自転車の真ん中に傘を設置する道具なんですが、外からきた人は必ず「あれなに?」となるんです。1週間ほど滞在しながら、異国感や人の面白さを味わってもらえたら嬉しいです。
ーーLAC大阪今里では、海外の雰囲気だけでなく、関西ならではの面白さも楽しめそうですね。今回Hostel CaranashiがLACに登録した背景には、一体なにがあったのでしょう?
ちょうど半年くらい前に、LACユーザーの方が泊まりにきて「大阪に拠点がないから登録して」と言われたんです。
正直その時の僕は、ホテルのサブスクサービスがあるのも知らなかったんですが、ユーザーさんに言われたことをきっかけにとんとん拍子に話が進み、LAC大阪今里として登録することになりました。
ブラック企業から転職!会社員時代の仕事と旅
ーーではここからは、村上さんがこれまでどんな人生を歩まれてきたのか伺いたいのですが、Hostel Caranashiを作った2020年まで、村上さんはどんな経歴を辿ってきたのでしょう?
僕は大学卒業後、材木屋に就職しました。就職活動のとき家具が好きで、家具系の仕事を探していたんですがうまくいかず、少し間口を広げて住宅系も探すなかで材木屋を見つけたんです。
材木というと山から木を切ってきて…ということをイメージする方が多いんですが、僕がいたのは新建材を扱う会社。わかりやすくいうと、家の中にあるドアやクローゼットなど、すでに加工された商品を扱っていました。
他にも、お風呂やキッチンをメーカーから購入して工務店に卸す仕事を約4年ほどしていたんですが、当時はかなり睡眠時間が少なく、夜中の0〜1時に仕事を終え、朝5〜6時には出社するような生活をしていたんです。
ーーおぉ、それは今でいうブラック企業のような…
はい、しっかりブラックでした(笑)。もうええわと思ってその会社を退職したあと、商社の苦しさは十分わかったので今度はメーカーを希望したんです。
そこで水処理設備の会社に入り、製薬会社の工場で点滴液や注射用水を作るための設備をつくっていました。その会社では約8年ほど働いたのですが、出張の多い会社でいろいろな地域に行く機会があり、そこでホステルに泊まったんです。
「こうやって収入を得る方法があるんだな」と思い、試しにどういう収支になったらちゃんと仕事として成り立つのか計算してみたところ、ある程度の広さがあれば収入の目処が立ちやすいとわかり、だったらあとは実行してみようと思ったんです。
他にも僕自身、まとまった休みで海外旅行に行くことが多く、そのなかで「好きなことを仕事にしたい」と思ったのも一つのきっかけ。
あとは少し暗い話になるのですが、僕の周りでは30歳になる前に友人や知人が3人他界しました。人間いつ死ぬかわからない、やりたいことはやっておかないと。そんな気持ちもありました。
ーーメーカー時代の経験や海外旅行での思いが、今のホステル運営に繋がっているんですね。LACユーザーも旅好きが多いのですが、村上さんはどんな場所を旅していたのでしょうか?
それはやっぱり遺跡のあるところですね。マチュピチュとかアンコールワットとか、誰かががんばって造った建物に、何かが起こったその「跡」をみると、僕はロマンを感じるんです。
特にスリランカのシギリヤロックなんか最高でした。シギリヤロックは大きな一枚岩の上に宮殿が築かれたものなんですが、そこに向かう一本道の両端に大きなライオンの前足が鎮座してるんです。1500年前の人のデザイン性もすごいし、今でもしっかりとその前足が残っているのもすごい。めちゃくちゃロマンを感じました。
あと僕、日本史も大好きなので、国内だとお城を目がけて旅することもありますよ。
旅先での不満がつくった「すべてを改善した宿をやろう」という選択肢
ーー旅が好きだった村上さんが、「旅人が宿泊するホステルを作る」という方向にシフトしたのは、そうやって泊まってきたホステルでなにかいい思い出ができたからなのでしょうか?
もちろん旅人同士の交流も楽しかったのですが、それでいうと僕は不満のほうが多かったんです。「こうすればいいのに」が積もり積もって、「じゃあそれを全て改善する宿をやろう」とつくったのが今のHostel Caranashiです。
ーー例えば、どんな不満があったんですか?
例えば僕は、朝にシャワーを浴びる派なんですが、そうするとその日は1日中濡れたタオルを持ち運ばなきゃいけなくなるじゃないですか?それがいやで、うちの宿はバスタオルがすべて無料貸出。当時の僕が感じていた不満を、改善した結果です。
あとは僕、ドミトリーが嫌いだったんです。早起きするときに周りに気を遣うし、そんななかでガサゴソするのもいや。だから僕は、基本ドミトリーの部屋は作らないと決めて、全室個室にしています。
他にも、僕は初めていく宿で、すでに滞在中のゲストと交流する「最初の一歩」が苦手でした。だからこの宿では、僕がチェックインのお客さんを案内しているときに、勝手に他己紹介をしてしまうんです。「最初の一歩」さえ作ってしてしまえば、あとは放っておいても交流がうまれるので。
もっというと、Hostel Caranashiはフリードリンクも充実させています。僕はコーヒーよりも紅茶派。お茶だけで30種類以上用意して、ゲストが心地よく過ごせるよう準備をしています。
ーー村上さん自身が旅をして、そのなかで不安や不満に感じたからこその改善点を、宿に反映させているのがとても素敵ですね。2020年に宿をオープンしてから、大変だったことや苦労したこともあるかと思うのですがいかがですか?
工事が大変でしたね。基本自分で工事をしたんですが、僕は人を集めるのが苦手、かつ手を動かすことが好きで「人に任せるなんてもったいない」と思ってしまったんです。
おかげで工事にかかった期間は半年。途中嫌になってラオスに2週間くらい逃げちゃいました(笑)。ラオスから帰ってきて「まぁしゃあない、やるか」と工事を再開。材木屋時代になんとなく構造は理解してはいたんですが、実際に手を動かしたことはなかったので大変でした。
ーー工事を一人で半年間…確かに逃げ出したくなりますね(笑)。では反対にHostel Caranashiをオープンしてよかったことは?
宿をオープンするにあたってInstagramを頻繁にアップしていたら、疎遠になっていた友達から連絡がきて、また仲良くなったことですね。
もう10年近く会っていなかった友達が、宿をオープンしたことで普通に飲みにいく仲になれた。そのことがすごく嬉しかったです。
あとは、うちって割と個性を全面に出した予約サイトにしているので、同じものが好きな人が集まりやすく、そこで面白い情報交換が起こるんですよ。
「この植物育てやすいよ」とか、「今治タオルを安く買えるタオルフェスがあってな…」とか、地元の人しか知らないような情報も集まりやすく、そういうところはいいなと思います。
改善できないことは何もない。コミュマネとして大事にしていること
ーー村上さんはコミュマネとしてユーザーと関わるうえで、どんなことを大事にしていますか?
僕が大事にしているのは、ゲストとの会話です。仕事で営業ばかりしてきたこともあって、当時から上司に「お客さんを自分のファンにしろ」とよく言われていたんですが、その考えが自分の中でカチッとはまるところがあって。
要はどれだけいい製品でも、嫌いな人から物を買いたくないじゃないですか。反対に、宿の設備が多少古くても、いい接客ができれば宿の評価は高くなる。
喋らなければゲストの不満はわかりません。だから僕は、ゲストとの会話を大事にしています。
僕はこのホステルに住んでいるので常にここにいますし、そうやって会話をすることで出た要望もなるべく聞いて反映させるようにしているんです。
これまでにも部屋にファブリーズを置いたり、お部屋に消臭ミストをしてからゲストを迎えたり、化粧水と乳液とクレンジングとフェイシャルなんたらも女性ゲストの要望ですべてアメニティとして設置しました。
改善できないことは何もない。自分に作れないものは何一つない。だから僕はゲストと会話をし、不満や要望を聞くことを大切にしています。
ーー旅好きな村上さんだからこその配慮とこだわりがみえるお話をありがとうございました。最後に、この記事を読んでくれているLACユーザーに一言メッセージをお願いします。
何も心配せず、気軽に来てください。僕が伝えたいのは、それだけです。
▶︎Instagram:https://www.instagram.com/hostel_caranashi/
〈取材ライター:蓑口あずさ〉