「AI×BI×ヒューマノイド 30年後のリアル」第32話 宇宙に夢を
昼食はタカシの家族と一緒だった。
広々としたダイニングルームで、調理から給仕まですべてロボットが行っている。まるでSF映画のような光景だ。
タカシの子どもたちは長男、長女、次女の三人。トーキーさんがその末っ子だと聞いて驚いた。奥さんはタカシと同い年だというが、どう見ても20代後半にしか見えない。思わず「若すぎる」と感嘆してしまった。彼女は柔らかく笑って「ありがとうございます」と答えた。老化しないテクノロジーもどんどん発達しているのだろう。
家族全員がVRゴーグルをしていないのも新鮮だった。確かにVRゴーグルは便利な端末だが、どれだけ素顔モードが進化しても、微妙な表情までは感じ取りにくい。こうして直接顔を合わせながらの食事には、何とも言えない温かさがあった。
そして食事そのものが格別だった。
新鮮な魚介類や収穫したばかりの野菜。品種改良や最先端の栽培技術のおかげだろうが、どれも驚くほど美味しい。久しぶりに「本物の味」に触れた気がする。これが毎日の食卓だなんて、ここでの暮らしは本当に理想郷だ。
タカシの子どもたちは、みんな明るくてハキハキしている。それぞれ夢を持ち、その話を熱心に語ってくれた。
彼らの興味は主に宇宙に向いているらしい。農場は数十年後には完全自動化が進み、管理者が一人いれば十分になるという予測があるため、次世代は外の世界へ飛び出したいのだそうだ。
「月への中継宇宙ステーションは15年前に完成してるし、月には核融合発電のプラントができているし、居住空間も工場も建設中なんですよ!」と、次女が目を輝かせて話す。
長男が続ける。「さらに月軌道で筒の直径が6kmのスペースコロニーの建設が計画されています。遠心力を利用した人工重力で、地球と同じ1Gで生活できるそうです。」
さらに火星には人類が到達済みだし、宇宙遊泳は少しずつ手の届く価格になりつつあり、セレブの間ではすでに人気のレジャーだとか。ぼくにとっては完全にSF映画の世界だが、子どもたちにとっては現実そのものらしい。
その話を聞きながら、タカシは「宇宙なんて……」と肩をすくめた。その仕草と口調が少しだけ老け込んで見えて、ぼくは思わず吹き出してしまった。
食事のあと、タカシがヒロに連絡を取ってくれた。彼が快く応じてくれて、明日会えることになった。30年ぶりに会うヒロはどんな風に変わっているのだろう。福祉の現場で働いていると聞いているが、どんな暮らしをしているのか興味が尽きない。
期待と少しの緊張感を胸に、ぼくは明日を待つことにした。
(続く)
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