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「AI×BI×ヒューマノイド 30年後のリアル」第19話 初心者テーブル
ぼくは初心者テーブルの前でおどおどしていた。どう話しかければいいのかわからない。テーブルには七人が座っているけれど、全員ゴーグルとマスクをしていて表情は見えない。
「こんにちは!初心者テーブルにいらした方ですね?」
突然、はっきりした声が聞こえた。顔は見えないが、体格や声の感じからして女性だろうか。その人が続けた。
「はじめまして。私はこのテーブルのファシリテーター、馬刺しと申します。空いている席にどうぞ。」
ぼくは少し戸惑いつつ、指示されるまま席に着いた。
「ここでは、市民音声チャットを利用して交流するのがルールになっています」とアーティがぼくに教えてくれる。ゴーグルのメニュー画面に参加用の設定が表示された。ハンドルネームを入力する必要があるらしい。
「ハンドルネーム…何にしよう?」ぼくはつぶやいた。
ふと浮かんだのは、「うらしま30Y」。30年間眠っていた自分を思い出して、少し自嘲気味にそう決めた。
ログインすると、他の人たちの頭上にアイコンとハンドルネームが浮かび上がる。馬刺しさんのアイコンは「馬刺し」そのものだ。
「うらしま30Yさん、ようこそ!」馬刺しさんの声が聞こえた。
「アイコンが初期設定のままですね。市民チャットも初心者なんですか?若い方なのかな?」
ぼくは「30年間眠っていて、最近この時代での生活を始めたばかりです」と伝えた。
「それで“うらしま”なんですね。面白い!心は20代、でも経験値は年上…なるほど、レアケースですね!」馬刺しさんが笑ったように見えた。
ぼくは不思議に思ったことを口にしてみた。
「でも、なぜリアルなイベントなのに、わざわざチャットを使って話すんですか?」
「それはね、話すのが苦手な人でも気軽に交流できるようにするためなんです」と馬刺しさん。
「こうすることで、もっとたくさんの人がコミュニティに参加できるんですよ。」
なるほど、この世界はぼくが知っていた常識とはかなり違う。人と話す場面ですら、こうして新しい形になっているなんて。
そんな考えに浸っていると、テーブルの端に座るアイコンが動き、名前「春雨DX」の文字が目に入った。
「うらしま30Yさん、どんな動画見る?」
思わぬ質問に少し戸惑いながら、「昨日はダンスパフォーマンスを見てました」と答えると、春雨DXさんはすぐに反応した。
「いいね!俺はDIY動画が好き。AIが設計図を作ってくれるけど、自分で手を動かすのが楽しいんだ。」
ぼくは未来でも人間の手で作ることは価値があるのだと感心した。
その隣は「ニワトリと小鳥とワニ」さん。今回はROM(リードオンリーメンバー)だそうだ。
あ、この名前、回文だ。
こうして、イベント会場での奇妙な交流が始まった。
(続く)
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