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その65)ミサキの暮らし

※これは、作者が想定するベーシックインカム社会になった場合を想定した、近未来の物語です。

ベーシックインカムが始まる前からシングルマザーであるミサキさんの暮らしは苦しかった。幸せになるはずだった結婚生活は夫の浮気であっけなく3年で離婚。ミサキさんは一人娘を引き取った。夫がある程度高収入だったので結婚した時に仕事を辞めたのだが、元のキャリアには戻れなかった。

子育てしながらの生活はかなり厳しいものだった。両親はすでに病気で他界しており、親戚とも折り合いが悪い。夫は無責任な人で、子供に対する愛情もなかった。養育費も滞りがち。ミサキさんの人生設計は完全に崩壊してしまったのだ。

生活保護を申請して通ったが、ちょっと働き口が見つかると、結局は忙しくなるだけで収入も減ってしまう。そうしている中ベーシックインカムが始まったのと、夫の会社が倒産したことを知った。養育費はもう入ってこないかもしれない。

生活保護費はベーシックインカムの額が増えていくことでバーターのごとく減っていった。だが、ベーシックインカムのほうが受給にあたっての制限は少なかったので、ミサキさんは気分的に楽にはなった。子供に対するサービスも以前よりは手厚くなっていった感じだ。仕事はスーパーの品出しなど、娘を預けている間にでき、機械化されにくい仕事につくことができ、なんとか食いつないでいくことができた。

娘が小学校に上がるころ、ベーシックインカムの金額が5万円になり、仕事の収入とインカムと学校にかかる費用がほぼ無料になったこと、娘が留守番ができるようになったり、放課後も過ごせる場所ができたことでやっと生活に余裕が出てきた。

SNSもより便利になって情報収集や情報交換に役立った。シングルマザーどうしのコミュニティとも繋がりができ、同じような境遇のママ同士で協力しあえるようにもなった。ホワイトカラーの仕事はほぼなくなっていたが、まだブルーカラーの仕事で女性向きな仕事は色々あった。その仕事も娘が小学校を卒業する頃にはかなりなくなっていた。その分、ベーシックインカムの金額もかなり上がっていた。

可処分時間が増えた人が多く、PTAは活気を増した。行政AIの支援もあり、情報共有がしやすくなっていることも大きい。イベントや行事も増えたようだ。参加して活動する方のメリットも増えてきたので、ミサキさんはなにかしらの役を引き受けながら他の父兄や学校の先生とも親交を深めた。家族ぐるみで付き合う友人も増え、楽しく語らう時間も増えた。

娘は18になり、今までベーシックサービスで徴収されていた金額はゼロになり、満額のベーシックインカムをもらえるようになった。学校の成績は大学に進学できるほどではなかったので、このままミサキさんと同居しながら過ごしていく予定だ。ただ、現在同級生で付き合っている人がいるらしい。彼もまた親と暮らしていくという。

一方でミサキさんも、実は恋人がいる。彼は同じくらいの年の人で、やはりベーシックインカムのみで暮らしている。価値観も近いので結婚も考えているが、お互い収入は限られているので、どんな風に暮らしていくかを徹底的に相談した。

やがてミサキさんは42歳で結婚した。ミサキさんの彼も彼の家族も同じ家に住むことになった。彼の連れ子も同じ屋根の下になった。さらに娘も19歳で結婚した。一気に家族や親戚が増え賑やかになった。

家庭は賑やかだった。ベーシックインカムは一人で住むより家族単位で、協力しながら暮らしていったほうが余裕ある暮らしがしやすい。雇用がない人どうしは条件も同じだし、いつも一緒にいることも多い。だからお互い言いたいことを言って、相手の話を聞いて方針が決定していく。まるで毎日が学級会のような感じだ。今日も役割分担について議論がかわされている。来年にはまた1人家族が増える予定だ。




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