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「AI x BI x ヒューマノイド 30年後のリアル」第14話 施設を出る

ぼくは、左腕につけている腕時計型のデバイスと、サングラス型のVRゴーグルを通して、AIアシスタントの「アーティ」と日々の会話を行っている。アーティは驚くほどスムーズに情報をくれるため、まるで人と話しているような感覚だ。その便利さゆえに、仕事がAIに奪われていった理由もなんとなく理解できる気がした。

ここ数日は、この施設から退所できるかどうかの検査が続いていた。例の「頭がモニターになっている人間型ロボット」がぼくの胸や頭にいくつかの装置をつけ、映像を見せられながら質問に答える、そんな奇妙な時間を過ごした。その結果、どうやらぼくは来週にはここを出て新しい生活を始めることができることになった。ラッキーなことに退所にあたって費用はかからないそうだ。わからないことは全てアーティが教えてくれる。頼もしい相棒だ。

施設を出る前に、まずは新しい住まい探しだ。現代の独身男性がどんな暮らしをしているのかを、アーティに教えてもらう。いまの収入はベーシックインカムだけなので、できるだけそれに見合った住居を探す必要がある。アーティによれば、人気なのは8平米ほどのワンルーム。あるのはエアコンと小さな押入れだけという、かなり質素な空間だった。窓があるかどうかで家賃が大きく変わる。窓なしでも換気システムで問題がないため、窓無しの部屋も人気が高い。

驚いたのは、風呂やキッチン、洗濯機、冷蔵庫までもが部屋のほうにはなく、共同で利用する施設が隣接しているという点だ。利用者が空き時間を予約し、必要なときだけ使う仕組みだが、冷蔵庫まで共用というのには少し戸惑いを感じた。

ぼくのように最低限の生活費しかない人にとって、ベーシックインカム制度はありがたいが、住居費だけで毎月の収入の6割近くが消えることには、未来の生活は案外ハードかもしれないと感じた。

新しい住まいはここから歩いていける距離にある窓付きの安い部屋に決めた。VRゴーグルに映し出された契約書を確認し、画面上で手続きは完了した。

そして、いよいよ施設を出る日がやってきた。荷物は施設で使っていた僅かな道具だけだ。玄関付近で1台のモニター頭のロボットが画面に「フジシロ様、お元気で」と映して見送ってくれた。

「さあ、行きましょうか」とアーティの声がぼくの耳に響く。

期待と不安を胸に抱えながら、未来の一人暮らしへの一歩を踏み出す。30年も経って、ぼくはいきなり「おじさん」になってしまったけれど、なんとかやっていければいいな。

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