その31)タイムリッチ3・新しい掟社会
ベーシックインカムになると可処分時間が多いタイムリッチが大勢現れます。介護や保育の時間が確保できて、生活費を心配することなく誰かの世話をすることが可能になります。勉強や研究に明け暮れる人や趣味を極めようとする人もいるでしょう。そんな中でものすごくたくさん増えそうなのが、世話をする人もいないし、趣味もない。とにかく暇だという人々です。そんな人達も何もしないでいるのは難しいので、集まって何かを始めようとします。
人が集まって協力し合うと、あまりお金は使わずにいろいろなことができるようになります。生活の助けになるようなことは多いでしょう。人は、共同でなにかするのに連携しやすいのは最大10人程度、それが集まって一つの集落を構成するのには100〜200人程度の人数になるそうです。この比率は縄文時代から変わりません。
人が集まると、その価値観も多様になります。人それぞれ大切なものは違います。私はエニアグラムを参考に、大まかに性格の気質を「正しさ」「愛情」「優位性」「独自性」「知識」「支える」「理想」「癒やし」の9種類に分けています。それぞれのキーワードがその人の価値観の中心にあるという見方です。人の価値観は千差万別なので、あくまで目安です。
価値観が違うと、同じものを見ても反応が変わります。疑う、信じる、負けまいとする、他を探す、怒る・・・同じにならないのは遺伝子レベルでそうなっていることで、時代時代で適した人が生き残るようになっているからという説がありますが、確かに皆が違うなら生き残りの確率は上がります。
集まった人々が、何らかのスペシャリストであれば、その分野で大いに能力を発揮するでしょう。逆に、烏合の衆で、誰もが責任を押し付け合うような集団であれば、なんだかぎこちない集団になるかもしれません。ソーシャルなオンラインゲームをしていても違う気質の人に出会います。集団の雰囲気は集まった人のグルーブで決定していくのです。
小学校の25人くらいのクラスでも、クラスごとの雰囲気は全然違います。子供はまだ先生の指示に従ったりしますが、大人になると余計に価値観がぶつかるので、争いを避け、快適に暮らしていくためのローカルルールが必要になるでしょう。暇な人が大勢いるので、活発になる分、面倒くさい謎ルールもたくさんできていく可能性があります。最悪自治体内でカーストのような上下関係や主従関係ができる可能性もあります。
フィリップ・ホセ・ファーマーという作家の「果しなき河よ我を誘え」 (ハヤカワ文庫 SF 289 リバーワールド 1)という古い小説があります。現代人から古代人までが死後に同じ場所に集められ、ベーシックインカムのように暮らすという内容で、個別のカプセルによって毎日一定の食料や嗜好品を与えられるという内容でした。
最初はそれぞれで個別に消費していましたが、やがてその中から富や権力を集中させようとしたり、争いが発生したりします。コミュニケーションが難しかったり価値観が違って登場人物たちがとても苦労します。何らかの法的な縛りがなければ、平等に物資を与えられても人は凶暴化するのだということを示唆しています。
ベーシックインカムは確実にタイムリッチをもたらします。ローカルな謎ルールや新しい掟が不穏な空気を醸し出し、社会問題化する可能性は高いと思います。高度な情報化社会でもあるので、嫌なところからは逃げやすくなっているとは思うのですが・・・
次回はタイムリッチで若者がしそうなことを考えていきます。