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「AI x BI x ヒューマノイド 30年後のリアル」第11話

ぼくはベンチでコーヒーを飲みながら、アーティから話を聞いていた。ゴーグルの片隅に、映像が流れ出し、30年の間に何が起きたのか、その一端を垣間見ることができた。

「ベーシックインカム導入までには、多くの混乱がありました」とアーティは淡々と話し始める。

映像には、たくさんの人々が市役所の窓口に並ぶ様子が映し出された。「まず生活保護の申請数が前年比で10%増となり、過去最高を記録しました。震災復興の遅れや失業増加が影響したと見られます」と、アーティが説明する。この時点で、日本は既に不安定な状態にあったらしい。

失業者を支えるための策として「ロボット税」が導入された。しかしそれは、企業の負担を増やしただけで、景気回復にはほとんど繋がらなかったという。消費税や所得税も減税されず、法人税もそのままだった。アーティが話している間、映像には次々と破産を宣告される人々が映る。まさに時代の過渡期だったことがわかる。

「その後、電池の技術が大幅に進化し、ロボットの価格が下がりました。ロボット税はさらに引き上げられ、失業率はついに20%を突破しました」

事態は悪化の一途を辿る。電力不足の問題も深刻化し、電力税まで上がった。核融合発電の実用化が始まったが、技術の進展が追いつかず、電力供給が足りなくなっていた。破産者は増え、貧困層に健康被害まで出始めたという。映像には、暗い街の中、肩を落としながら歩く人々が映る。

「やがて、中央銀行デジタルキャッシュ、いわゆるCBDCの運用が可能になり、電子マネーでのベーシックインカム配布が技術的に実現しました。その頃、失業率は30%に達し、生活保護を補う形で、国民一人あたり月3万円のベーシックインカムが支給されるようになりました」

アーティは冷静に話を続けるが、その過程は混乱に満ちたものだったのだろうと、ぼくは想像してしまう。どこか別世界の話のようにも聞こえるが、これは現実だった。

その後、ベーシックインカムの額は少しずつ引き上げられていったが、そのためには犠牲も必要だった。生活保護と失業保険と国民年金の廃止が議論され、ロボット税と国債が財源として使われるようになった。結果、支給額は1人あたり月6万円に増えたが、雇用はますます失われていった。

その頃から「日本AI党」が躍進し、政権交代まで果たすことになった。「この党は、AIによる行政の最適化を掲げ、人間よりも効率的な行政運営を目指しました」とアーティが解説する。仕事はAIとロボットがこなし、人間には必要最低限のベーシックインカムが保証される社会が構築されつつあったのだ。

最終的に、統廃合された制度の中で、月11万円のベーシックインカムが国民一人一人に支給されることとなり、現在の制度へと至る。「以上、簡単にお伝えしました」とアーティが締めくくる。

ぼくは、改めてこの制度が実現するまでにどれだけの混乱があったかを思い知らされた。お金をもらえる制度と聞けば一見ありがたい話に思えたが、ここに至るまでの過酷な道のりを考えると、喜んで受け取るだけでいいのかと自分に問いかけてしまう。

コーヒーの温かさが、ぼくの胸の中に冷えたまま残る不安と交差するようだった。

(続く)

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