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「AI×BI×ヒューマノイド 30年後のリアル」第22話 インフルエンサー

ざわめきの中心に現れたのは、小柄な女性だった。背中を反らせ、軽やかなステップで前に進む彼女に、会場の視線が一斉に注がれる。ぼくもその場にいる誰もが釘付けになった。彼女の名前はアビー・・・SNSやライブ配信で絶大な人気を誇るインフルエンサーらしい。

アビーはマスクをしていなかった。その素顔は明るい肌にシャープな輪郭、炎のような髪型が特徴的だ。片目だけを覆うゴーグルは、時折データのようなエフェクトが光る。衣装は露出度こそ低いが、薄いウェットスーツのような質感で身体のラインを強調している。動くたびに光が波のように流れるそのデザインは、視線を奪うために計算し尽くされたものだろう。

「みなさーん、今日は来てくれてありがと!さあ、燃え上がる準備はできてる?」

アビーの声は軽やかで、どこか癖のあるイントネーションだった。彼女が勢いよく宙返りすると、背後に設置された巨大スクリーンが連動して炎のような映像を映し出す。会場全体が彼女の動きに合わせて盛り上がりを見せる。

その瞬間、人型ロボットが彼女を取り囲むように並んだ。すべてがアビーの演出に従い、ダンスの振り付けを正確に再現している。彼女がリズムに乗ってステージを跳ね回るたび、ロボットたちも完璧な同期で動き続けた。

「すごい…」ぼくはその光景に圧倒されていた。

やがてアビーは片手を挙げて観客に呼びかける。

「さあ、投げ銭タイムだよ!このショーがもっと楽しくなりたければ、みんなの応援を見せて!」

観客たちは一斉にデバイスを操作し始め、アビーの背後のスクリーンに表示されたゲージがぐんぐん上昇していく。一定ラインに到達した瞬間、彼女は大きくジャンプ。空中で複雑な回転を繰り返しながら、人型ロボットの腕にふわりと受け止められる。その動きに観客が大歓声を上げた。

ショーは約30分で終了した。ぼくが息をつく間もなく、馬刺しさんが説明を加える。

「あの人はこの時代でトップクラスのインフルエンサーですよ。さっきのパフォーマンスでも一瞬で数千万円を稼いだはずです。」

「数千万円…」ぼくは自分の口元に手をやりながらつぶやいた。

「ぼくもあんなに稼げたらなぁ…」

そのつぶやきに反応するように、アーティが解説を始める。

「ベーシックインカム以外での収入を得るには、いくつかの選択肢があります。第一に、才能を生かして人気を得ること。第二に、利益の出る事業を起こすこと。第三に、利益を生み出す資産を所有することです。あるいは、非常に高い技術を持つ開発人材として採用されることもありますが、その門は狭く、競争は激しいです。」

ぼくは少し肩を落としつつも、会場を見渡した。飲食や商品を提供している人たちは、皆生き生きとしていて、独自の工夫で売り上げを稼いでいる様子だった。

「このイベントに出店するには、業者登録をすれば参加できます」とアーティが付け加えた。「出店しますか?」

「いや、今はやめておくよ。」ぼくは苦笑いを浮かべながら答えた。

会場の賑やかな空気に包まれながら、ぼくは改めてこのイベントの魅力を感じていた。こうした場が、多くの人にとって生活や楽しみの一部になっているのだろう。

馬刺しさんがまた口を開いた。

「このイベントは毎週開催されているんです。定期的に新たなコミュニティに参加したり、商売のつながりを作ったりすることで、精神的な健康を保つ仕組みが作られています。気の合う人に会えると、また来週が楽しみになるでしょう?」

それを聞いて、隣の春雨DXさんが付け加えた。

「確かにね。SNSやメタバースでも出会いを求める人はいるけど、あれだと人なのかAIなのか区別がつかない。ここはフィジカルな感覚を大事にしたいって人が集まる場所って感じかな。」

「なるほど…」

ここで馬刺しさんがテーブル内での自己紹介を提案した。希望者だけが参加できるとのことだが、ぼくにとっては未来社会の情報をもっと知るチャンスだった。失われた30年を埋めるように、ぼくは興味を抱いて話に耳を傾けた。

(続く)

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