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「AI x BI x ヒューマノイド 30年後のリアル」第3話
アーティが静かな声で語り始めた。「30年前、南海トラフ地震が発生しました」。視界に映し出された映像には、穏やかなBGMが流れ、まるでYouTubeの説明動画のように、淡々と事実が語られている。震災の記憶はぼくにはないが、アーティの声は容赦なく事実を突きつける。
「死者は20万人を超え、津波と地震による被害で、太平洋側の都市部の多くが大きな被害を受けました。復興は現在も難航している地域が少なくありません」
ぼくの家族も、その地震に巻き込まれて亡くなったという。鳥取に母方の親戚がいるが、そちらは全員無事だったらしい。アーティの冷静な説明の中に、救いのような情報も含まれていた。
「続けて良いですか?」とアーティが問いかけるので、ぼくは頷いた。
「あなたが勤めていた会社も、この震災の影響で倒産しました。ここまでの治療は復興支援と生活保護で賄われました。なお、その後、生活保護はベーシックインカムとベーシックサービスに移行しました」
「それって…新しい制度?」
アーティは「はい」と小さく応じた。「社会の仕組みが大きく変わったため、制度も新たに切り替わったのです」
ぼくは理解しようと努めたが、得た情報はAIによる一方的なものだ。現実感がどこか薄く、まるで自分が映画の登場人物にでもなったようだ。
そこで思い切ってアーティに尋ねてみる。「この施設には詰め所とかはある?係の人と直接話がしたいんだ」
「この建物には治療中の方のみがいらっしゃいます。係の者はオンラインで接続する形になりますが、つなぎましょうか?」
ぼくは頷いた。「頼むよ」
数分後、アーティが「おつなぎしました」と告げた瞬間、ディスプレイに映し出されたのは、人間の女性だった。30代くらいで、庭仕事の途中なのか、少し土埃がついたラフな服装。どこか不機嫌そうな表情が印象的だった。
(続く)