【アートのミカタ21】クールベ Gustave Courbet
【概要】印象派前夜の写実主義リーダー
イケメン画家ギュスターヴ・クールべ(1819-1877)
歴史的にはヨーロッパ諸国1848年革命の真っ只中で、労働者階級の不満が爆発したことによる、国をあげてのいざこざが相次ぎました。
私は世界史の畑に居ないので詳しくないのですが、確かにこの18-19世紀は革命ばっかりなようですね。
ヨーロッパ中が、これまでの「当たり前」に反論し、ゼロイチで変えていこうと躍起だっていたのだと感じます。
さて美術史の分野では、その革命の着地点として「印象派」など新たな芸術のあり方が、幾つも生まれてきました。
その印象派より少し前(むしろ被ってるくらい)に登場したのが、『写実主義(リアリスム)』でした。
今回はそんな写実主義を代表するフランス人画家、クールべについてお話を広げて行きたいと思います。
今月、某コミュニティの会報誌にクルーべのネタを出しまして。そういった個人的な理由から、今回はこの方を選びました。
自画像「絶望した男」1843年、ギュスターヴ・クールべ(写真提供:下記記載書籍より、私物)
なぜ美的センスをくのか。科学の発展に伴い、心を作る芸術的思考もより広く知ってもらいたい。このブログは、歴史上の偉大な画家たちをテーマに、少しでも多くの人にアート思考を築くきっかけにならないかと書いています。まずはそれぞれの画家の特徴を左脳で理解し苦手意識を払拭するのがこのブログの目標です。その後展示等でその画家に触れる前の下準備として御活用下さい。私たちの味方となり、見方を変える彼らの創造性を共有します。
画家のアトリエ 私の芸術的人生の7年間を要約する現実的寓意,1855年
【背景】偏屈イケメン、年くや激デブ
1819年フランスのオルナン(スイスの近くらしい)に生まれたクールべさん。印象派の発端となったクロード・モネよりも19歳お兄さんです。
またモネが初めてサロン・ド・パリで入選したのが1865年、クールべ46歳。クールべが花開いたのが30歳くらい…*1と考えると、少し先輩くらいかな?
実際に印象派は、このクールべの描く「写実主義」が、伝統からの自立を表しているとし影響されたと語られています。
わりと裕福だった農民の息子として生まれたクールべは、法律の勉強をして欲しい両親の思いに反し、20歳で単身パリへ行きます。そこで芸術家としての修行をしますが、傍で行きつけの居酒屋に集まる芸術家仲間と酒を交わしていたようです。
その芸術家仲間こそ、「レアリスムの殿堂/写実主義の殿堂」と呼ばれる、写実主義の発端グループでした。
クールべが中心となって始まった写実主義ですが、その独創的な思想には反感も多かったようです。それに逆らうように、クールべはどんどん唯我独尊ぶりを強めていったようです。
歳をとるとぶくぶく太り、たくましい口髭をはやし、さらに尊大な態度になって行きます。スキャンダルの中心として、よく風刺画に登場する有様。
しかし、新しいことをするにはスキャンダルでも名前を売らねば始まらないということで、本人は歓迎していたようです。
個人的には、なんだか現代の村上隆のようだなあ、と思うところ。視点が長いというか革命人の匂いがします。
*1)1848年、サロンに10点を出品。『オルナンの食休み』は国家買い上げとなり、芸術家として花開き始める。
石割人夫,1849年農民たちの生活をありのままに描いた作品。
【核心】伝統からの脱却『写実主義』
彼が『写実主義』と呼ばれた所以は、何と言ってもその題材にあります。
古典的な宗教絵画は、当然ですがフィクション絵画です。また当時同じく流行っていた「ロマン主義」という派閥もありましたが、ざっっくりいうと、事実を脚色して描く感じに思います(*これはあくまで個人的意見ですが)
ロマン主義といえば、「民衆を導く自由の女神,1830年」
彼の提唱する写実主義は、「見たものしか書かない」主張です。
オルナンの埋葬,1849年故郷の町外れで行われた埋葬シーンを、とっても大きなキャンバスにまるで壮大な風に描いた作品。シーンとしては、普通の農民階級の葬式です。当時、これほど壮大な絵画といえば、宗教絵画(神様すごい!を表現するために大きく描く)や貴族絵画(この王様偉い!を表現した)くらいでした。まさか労働階級のワンシーンが、こんな御誂え向きに描かれるとは、当時は予想だにしなかったわけです。ということで、この作品は非常に酷評を受けたと言われています。
彼の代表作であり、写実主義者が言いたかったことが如実に現れたがために大顰蹙をくらったのが「オルナンの埋葬」です。
当時のアバンギャルドな生き方・描き方をするクールべは、なんとも挑発的というか尊大な態度を思わせます。
水浴びをする女たち,1853年
先ほどの「オルナンの埋葬」と同様に、クールべは当時の常識やら伝統をことごとく覆す作品ばかりです。
女性が絵の中で裸でいることは、ヴィーナスやエヴァ、少女の形をした精霊(ニンフ)くらいでした。それほど女性が裸でいることはとっても神聖なことで、むやみに脱がすことなどありえなかったわけです。
しかしクールべは、普通の庶民とおぼしき2人の女性を。しかもあんまりナイスバディじゃないタイプの女性を、大してオシャレでもない女性を描いています。まさしく古典のアンチテーゼと言えるでしょう。
「世界の起源,1866年」の作品は、作品というよりポルノです。
こうしてみると、写実主義とはなんともアバンギャルドで、しまいには品格さえ疑う方向へと進んでいったように思います。
しかし悲しいかな、こうゆう突飛もない変革を乗り越えて、今私たちが住む時代では、実に幅広い表現を受け入れるだけの体制が揃いつつあるのではないでしょうか。
実際に、このクールべの作品に影響を受け、印象派であるマネもまた、なんの理由もなしに女性がおもむろに服をぬいだ姿を描いています。
彼単体での作品展開は、確かに好みが別れると思います。
ですが美術史の大きな流れを思うと、成る可くしてなったのではないでしょうか。
ここまで読んでくださってありがとうございます。画家一人一人に焦点を当てると、環境や時代の中で見つけた生き方や姿勢を知ることができます。現代の私たちにヒントを与えてくれる画家も多くいます。また次回、頑張って書くのでお楽しみに。