山路を登る『草枕』は全クリエイターに読んでほしい作品だった @derami_no
おはようございます。今週、弊社ラブソルでは「私を変えた一冊」と題して、noteテーマウィークを実施中です。
わたくしデザイナーの小野寺は夏目漱石の名作『草枕』をご紹介します。
出会いは、書店ではなくPC上 それも、とあるツールの上で
「山路を登りながら、こう考えた。」
皆さん、この一文、ご存知ですか?
Illustratorを使う方はお馴染み。文字ツールでテキストを打ち込もうとすると入力されるアレです。(私は心の中で「ヤマミチ」と呼んでいます。)
時々悪さもする、ヤマミチ。
この有名な一冊をしっかりと認識したのは、3年前。Adobeのデザインソフト・ Illustratorを開くPC画面上で。
以前にもどこかで耳にしたことはあったかもしれませんが、その時は取り立てて、気にも留めていませんでした。
当時23歳。高校生の頃から憧れてはいたものの「自分には無理だろう」と諦めたデザインの世界に、やはり、と心決め足を踏み入れた時期でした。
とはいってもいきなりデザイナーになれたわけではなく。人材紹介会社で営業職として働きながら、仕事の休憩時間や帰宅後、休日を利用してグラフィックデザインを始めたのです。
ある日の夜。慣れないIllustratorに悪戦苦闘している最中、ふと、このヤマミチが気になって仕方がなくなりました。
「たしか、誰かの何かの小説の一部だったよな…。」
早速Google検索をしてみると、どうやら夏目漱石の小説『草枕』の一節らしい。かの文豪の名の前に、少したじろぎつつ、青空文庫に掲載されていたので読んでみることにしました。
〈青空文庫とは〉
著作権の消滅した作品や自由に閲覧できる作品を、有志が電子化、ネット上に掲載している。いわば、ネット上の図書館。
冒頭から衝撃をうけた
当時の私は、誰かがつくってくれたものを享受するだけでなく、自分も生み出すひとになりたい。そう願う一方で
そんなことが本当に自分にできるのか?
私は、なくても良いものをなぜつくるのか?
つくって何がしたいのか?
単なるエゴなんじゃないか?
自分に問うては、せっかく踏み出したにも関わらず、まだ自分を小さく押し込めようとしていました。
『草枕』の冒頭は、そんな私の背中をターーーーーンっと叩き、一緒につくっていこうぜ! と爽やかに訴えかけてくれているかのようでした。
これだけは読んで帰ってほしい
『草枕』冒頭部をご紹介
そんな冒頭部分より、ここだけは読んでほしい! という箇所を抜粋してご紹介します。
山路を登りながら、こう考えた。
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通とおせば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。
お馴染みの。意味もさることながら、言葉のテンポの気持ちよさも、この小説の魅力です。口に出して音読してしまうくらい好き。
住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟さとった時、詩が生れて、画が出来る。
この時点で私はすでにはっとしています。初めて読んだ時「私のこのつくりたいと思う気持ちは、とても自然なものなのだ」と、不思議と肯定された心地になりました。
〈中略〉住みにくい所をどれほどか、寛容(くつろげ)て、束つかの間の命を、束の間でも住みよくせねばならぬ。
住みにくき世から、住みにくき煩いを引き抜いて、ありがたい世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。あるは音楽と彫刻である。
ここまで来るともう、大拍手、大号泣です。数々の歌や、絵や、映画やお芝居がそうしてくれたように、生きにくいこのせかいを少しでも楽しく、やさしいものにしたい。
デザイナーという職業を目指すと決めた時、小っ恥ずかしくて誰にも言えずにいた志を、初めて誰かと共有したような心地になりました。
そして、デザイナーを志すと決めた自分が何だか誇らしく感じられるようになりました。
おわりに
2年前、ラブソルにジョインし、デザイナーという肩書きでお仕事をさせていただけるようになった今も、時折『草枕』を開いている自分がいます。
その時は決まって、ものづくりの本質を見失いそうになっていて。クリエイターとしての私が帰ってくる場所になっているんだなあ思うと同時に、「帰る場所があってよかったね」という気持ちになります。
ものづくりとは時に孤独で、一人、本質を見失いそうになることが誰しもあると思います。自信を失う日だってあります。
そんな時は『草枕』を訪ねてみるのはどうでしょうか。
青空文庫で無料で読むこともできます。
言葉のリズムが非常に気持ち良い作品なので、耳での視聴もおすすめです。
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〈ラブソルについて〉
私たちラブソル/LA BOUSSOLEは、2014年にノベルティ制作を基幹事業として創業した、恵比寿にある会社です。
“オリジナル”を求めるひとにとっての羅針盤になることを目指しています。
思いをかたちにするのには、ちょっとだけパワーがいりますよね。
ものをつくるのも、会社をつくるのも、好きなことを仕事にするのも。
だからこそ、その時ちょっとだけ行く末を明るく照らせる存在でありたい。LA BOSSOLEが目指すのは、ものづくりとデザインの力で世界をちょっとだけ明るく照らすことです。
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