考えるための技法⇄思考ツール
教育現場では「・・・について考えましょう。」といった問いを投げかけることはよくある。家庭でも「よく考えて・・・。」といった声をかけることが多い。この「考える」という言葉は、子どもたちにとってとても抽象的でわかりにくいマジックワードである。しかも、この言葉を発している大人たちも、子どもたちに「何を」「どのように」考えて欲しいか明確にはわかってない・・・のではないか。
みなさんは、「夕食について考えましょう。」という問いに対してどう答えるだろう?毎晩夕食を作っている人は、献立を考えるために冷蔵庫の中を思い浮かべるかも?友人と外食をする人は、どのお店に行こうか考えるでだろうか?ダイエット中の人は、カロリーの計算かもしれない?このように「考える」といっても、人によって受け取り方はいろいろだ。子どもたちならなおさらである。
そこで、ここでは「考える」ことを考えながら、「考える」ことを手助けする「思考ツール」について探ってみる。
1.考えるための技法とは?
「考えるための技法」は、「考える」際に必要になる情報の処理を「比較する」「分類する」「関連付ける」のように具体化し、技法として整理したものとされている。つまり、「考える」ことを行動目標に落とし込んだものであるといえる。この「考えるための技法」は、小中高指導要領で示されている教育用語で、一般的には「思考スキル」と呼ばれている。また、「考えるための技法」は、思考力の下位概念であると捉えることもできる。
では、この「考えるための技法」には、どんなものがあるのか?先行研究等をみると、以下(表1)のようなものが確認できる。「考える」といってもこれだけの思考があるので、「・・・について考えましょう。」と言われても、子どもたちは困ってしまう。子どもたちに何かを問う時には、教員自身が「考える」ことを具体化しておく必要がある。
つまり、「・・・について考えましょう。」ではなく、「・・・と・・・を比べましょう。」や「・・・の理由を見つけましょう。」といった行動目標を示していくことが重要になる。
2.思考ツールとは?
「思考ツール」とは、紙の上などで思考を可視化することで、いわば道具のように「考えるための技法」を意図的に使えるようにするためのものである。簡単にいうと、「考える」ことを手助けする学習ツールであり、これを使うと「考えるための技法」が習得できる(?)という優れものである。また、協働学習においては、自分の考えを表現するために有効な支援ツールとなっている。思考が可視化されるといえる。教科書を出版している会社のHPには、「思考ツール」を活用した活動が紹介されており、ロイロノートにもシンキングツールとして「思考ツール」が用意されている。
教育現場において「思考ツール」を用いた取り組みは、さらに進んでいくと考えられる。そんな「思考ツール」について先行研究等をもとに整理した(表2)。表2を見ると、かなりたくさんの「思考ツール」がある一方で、「思考ツール」の活用で気をつけないといけないのは「思考ツール」を使うことが目的にならないことである。どのような思考をさせたいのかを明確にした後、それに紐づく「思考ツール」を選択することが必要である。ま
3.考えることを助ける方法とは?
「思考ツール」によく似たもので、「考えることを助ける方法」というものもあるようだ・・・。フリーカード法、短冊、質疑・質問マトリックス、6色帽子、地図、グラフ化、統計的手法、KJ法的な手法・・・などが、「考えることを助ける方法」と呼ばれている。これは、ややこしい・・・。文科省(2021)や黒上(2012)にも例示されている。
4.シンキングカードとは?
子どもたちに「考えるための技法」を身につけてもらいたい。「思考ツール」を使った授業をしたい。と思っても、何をどうしたらいいのだろう?という方の多いだろう。多忙化が進む学校現場では、本を読む余裕もないし、周りに詳しい人もいないといった現状があるのではないか。そこで、「考えるための技法」の習得を手助けする学習ツール「シンキングカード(6種類)」を作ってみた。
最上部には、児童が理解しやすい言葉を用いて「考えるための技法」とその定義を記載している。例えば、「分類する」を「分ける技」など、意味内容が損なわれない範囲で表現を変更した。定義には「考えるための技法」の用途を記している。ステップ1では、「思考ツール」を用いながら「考えるための技法」の習得を促す活動(テーマ:4つ、難易度:2段階)、ステップ2では、自分の考えを整理して、文章として表す活動を用意している。最下部には、教員が指導する際の手立てとして評価基準(B)を載せている。教員自身に高度な知識・技能がなくともこのカードを使えば、子どもたちと一緒に「考えるための技法」や「思考ツール」について学ことができる。そんなカードになっている・・といいな。
なお、このカードは、総合的な学習の探究過程(4プロセス)で活用することを想定して作成したが、各教科において「思考ツール」を活用した授業を実施するプレとして活用することもできる。現在(2023年4月〜2024年3月)、兵庫教育大学と共同研究をしながら、公立小学校において実証研究を実施しているプロジェクトであり、以下に示しているものは、試作版(α1)である。今後、現場の教員とともに開発を進めていく。