サッカーW杯に湧くカタールのトランスジェンダー差別問題
2022年開催のサッカーワールドカップ、男子日本代表チームはベスト16で敗れたものの決勝トーナメントに進出しメディアを賑わせました。
他方で、開催国であるカタールでは様々な人権課題が指摘されており、その問題は性的少数者に対しても例外ではありません。
カタールでは同性間の性交は違法とされています(難民研究フォーラム「LGBTの迫害状況一覧」より)。
その他にも移民労働者に対する人権侵害が指摘され続け、出場選手の間で抗議の声が広がりました。
※本記事では後半に暴力的な表現を記載しております。
見出し「勾留された6名の証言」以降を読み進める際にはご注意ください。
One Love腕章による抗議の動き
このような状況の中、社会における多様性と包括性が発展することを願うものとされる「One Love」の腕章をイングランド、ウェールズ、ベルギー、デンマーク、ドイツ、オランダ、スイスの7チームの主将が、キャプテンマークとして試合中に着けようとする動きがありました。
しかし、国際サッカー連盟(FIFA)の規則は、備品やキットで政治的な主張やジェスチャーをすることを禁じています。
FIFAは着用すれば制裁を科すと明言しているとし、各チームのサッカー協会は声明で「One Love」の腕章を着用しないと発表しました。
協会として選手たちを「制裁を受け得る立場」には置けないと説明しました。
性的少数者に対する弾圧
このように同性間の性交や、それに対する抗議に関する報道が日本でも多く見られます。
その中には、カタールにおけるトランスジェンダーに対する弾圧の報道も少なくありません。
ヒューマン・ライツ・ウオッチはLGBTに関して「2019年から2022年にかけて、警察に拘束されて繰り返し激しく殴打されるケースを6件、セクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)を受けるケースを5件記録した」と発表しました。
Xジェンダーは広義のトランスジェンダーに該当するため、とりわけ他人事ではありません。
ヒューマン・ライツ・ウォッチによる調査
ヒューマン・ライツ・ウォッチのHPでは、カタールでのトランスジェンダー弾圧の状況が生々しく語られていました(「カタール:治安部隊がLGBTの人々を逮捕、虐待」より)。
ヒューマン・ライツ・ウォッチは、トランスジェンダーの女性 4 人、バイセクシュアルの女性 1 人、ゲイの男性 1 人を含む LGBT のカタール人 6 人にインタビューしました。
その中から、トランスジェンダーに関する内容に着目してご紹介します。
勾留された6名の証言
今回インタビューを受けた6名全員が、予防治安局の職員によりドーハのアル・ダフネの地下刑務所に勾留されました。
6名は職員から口頭による嫌がらせ、平手打ちから蹴り、出血するほどの殴打などの身体的な虐待を受けました。
一人の女性は、意識を失ったと言いました。
警備員からもまた、言葉による虐待を加えられ、自白を強要され、弁護士、家族、および医者に連絡を取ることを許されませんでした。
6 人全員が、「不道徳な行為をやめる」ことを示す誓約書への署名を警察に強要されたそうです。
全員が起訴されずに勾留され続け、あるケースでは、2 か月間独房に監禁された方もいるとのことです。
トランスジェンダー女性の証言
トランスジェンダーのカタール人女性のケースです。
彼女は、治安部隊にドーハの路上で逮捕された後、彼女の性表現を理由に「女性を模倣している」と予防治安局に非難されました。
パトカーの中で彼女は、予防治安局員に唇と鼻が出血するまで殴られ、腹部を蹴られ、「お前を不道徳なゲイと同じ目に合わせてやる」と、ある警官に言い放たれました。
別のカタールのトランスジェンダーの女性は、彼女が化粧をしていたために予防治安局の部隊に逮捕されたと語りました。
彼女は部隊からウェットティッシュを渡され、「これで化粧を落とせ」と言われました。
彼らは化粧で汚れたウェットティッシュを証拠として使用するために、ウェットティッシュを手に持つ彼女の写真を撮りました。
彼らはその上、彼女の髪も剃ったそうです。
治安部隊は彼女に、釈放の条件として、二度と化粧をしないという誓約書に署名させたと言います。
ドーハの公衆の面前で予防警備隊に逮捕されたカタールのトランスジェンダーの女性は、次のように述べています。
「彼らは私を地下の独房に 2 ヶ月間と6 週間の 2 回勾留しました。
彼らは毎日私を殴り、髪を剃りました。
彼らはまた、私にシャツを脱がせ、胸の写真を撮りました。
私は勾留が原因でうつ病になり、苦しい思いをしました。
今でも悪夢を見るし、人前に出るのが怖い。」
終わりに
この中ではトランスジェンダー男性の話は出てきませんでしたが、恐らく可視化される以前の、表には出てこられない状況なのだと推測します。
ましてや、ノンバイナリーやXジェンダーといった人々の存在はそれ以前の状況だと考えられます。
W杯では男子日本代表からの抗議がほとんど見られなかった様子もありますが、先進諸国で抗議の声が広がったことには勇気づけられます。
日本においても、性的少数者に対する関心はもちろん、人権問題への関心が高まることを願います。
文責:Kazuki Fujiwara
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【参考】
PRIDE JAPAN「【カタールW杯】カタール当局がLGBTQに暴行を加えていると人権団体が報告」
https://www.outjapan.co.jp/pride_japan/news/2022/10/6619.html(画像)
時事通信「カタールにくすぶる人権問題=広がる抗議―W杯サッカー」
https://sp.m.jiji.com/article/show/2848788%EF%BF%BC%EF%BF%BCPRIDE(画像)
BBC「【2022年サッカーW杯】 多様性を象徴の「OneLove」腕章、欧州チーム主将は着用せず」
https://www.bbc.com/japanese/63713023(画像)
ヒューマン・ライツ・ウォッチ「Qatar: Security Forces Arrest, Abuse LGBT People」
https://www.hrw.org/news/2022/10/24/qatar-security-forces-arrest-abuse-lgbt-people(画像)