パスポートの性別表記「X」をXジェンダーと誤って説明する日本のメディア状況
パスポートの性別欄ではM(男性)、F(女性)の他に、男性あるいは女性ではない人が用いることができる「X」という表示が可能です。
このXはノンバイナリー、インターセックス、ジェンダー・ノンコンフォーミング、Xジェンダー等、様々な人々が該当し得るものです。
従来、各国の実際のパスポートの運用では使われていなかったこのルールですが、喜ばしいことに近年、Xを使用できる国が増えている状況です。
しかしこの「X」の解釈として、Xジェンダーを表記するものであるという、誤ったニュースが日本で配信される例が増えてきています。
例えるなら
この状況は例えるなら、パスポートに「好きなデザート欄(性別)」で和菓子(男性)と洋菓子(女性)しか選べなかったのに対して、果物(X)を選べるようになったことになります。それに対して「パスポートで、好きなデザートとして"りんご"(Xジェンダー)を選べるようになった」と報じている状況です。これではパスポート上の果物(X)が"りんご(Xジェンダー)だけ"を表すことになります。つまりメディアが好きな果物(X)としてバナナ(ジェンダークィア)や、みかん(ノンバイナリー)などの存在を無視している事態となってしまっています。
実際の記事の様子①
label Xが把握している範囲で最初の誤りは、2021年10月28日の以下のように報じられた『米パスポート 性別欄に「Xジェンダー」(NNN)』の記事です。
実際の記事の様子②
加えて、2022年7月4日には『米主要航空会社、24年末までに「Xジェンダー」の航空券購入可能に(ロイター通信)』の記事で、以下のように報じています。
どうしてこのような状況になったのか?
ロイター通信の誤訳が起こった原因の1つとしては、原文の英語の記事の『"X" gender marker』の誤訳が考えられます。
この文章の訳を「性別の表示が”X“」ではなく「”Xジェンダー”の表示」と誤訳した可能性です。
もしくは、単に「X」という言葉が使われており、ジェンダーに関連していて、意味が似ている「Xジェンダー」をあてがったのかもしれません。
現地のアメリカではどう考えているのか?
アメリカ国務省のPress Releasesでは、Xの表記を「ノンバイナリー、インターセックス、ジェンダー・ノンコンフォーミングのための性別X表記」と記載しています。
これはXジェンダーに限定するよりは幾分かマシですが、それらに限定しない旨を明記する必要があります。
最後に
誤報の理由がなんであれ、男性あるいは女性ではない人々全てがXジェンダーであるということは、あり得ません。
他のXに該当しうるものとしては、上記の他には例えばQueer(クィア)やQuestioning(クエスチョニング)、Bi-gender(バイジェンダー)はもちろん、まだまだ様々な人々が存在します。
それにも関わらず、パスポートの性別欄で「X」を選ぶ人々をXジェンダーだと他者が勝手に決めつける状況となっています。
性別欄でXが利用できる人々が増えることは大変喜ばしいですが、個々人のあり方がより尊重される表現が増えることが望まれます。
参考記事・サイト
米パスポート 性別欄に「Xジェンダー」(NNN)(画像)
米主要航空会社、24年末までに「Xジェンダー」の航空券購入可能に(ロイター通信)(画像)
U.S. issues first passport with "X" gender marker(REUTERS)(画像)
Major U.S. airlines to allow gender-neutral option on ticket reservations(REUTERS)(画像)
Issuance of the First U.S. Passport with an X Gender Marker(The U.S. State Department)(画像)
文責:Kazuki Fujiwara