コミックエッセイで知るXジェンダーのジェンダー感覚
Xジェンダーの4つのタイプ
世の中には一般的な「男性」「女性」というカテゴリーとは異なるジェンダーアイデンティティを持つ人たちがいる。そのような人たちは、日本においては主に「Xジェンダー」という名前で呼ばれている。
しかしこの「Xジェンダー」は90年代後半に生まれた比較的新しいことばであり、当事者がどのような感覚をもって自らのジェンダーを認識しているのか、まだあまり知られていない。
Xジェンダーの中には中性、両性、無性、不定性の4つのタイプがあるとされている。もちろんそれらにあてはまらない人や4つのタイプの要素を複数兼ね備えている人もいるので、あくまで大雑把にわかりやすくタイプ分けをした場合の話である。
2020年以降にXジェンダー当事者によるコミックエッセイが3作立て続けに書籍化された。今回はXジェンダー当事者のコミックエッセイを通して、多様なジェンダーの感覚を具体的に見ていきたい。
女(じぶん)のからだをゆるすまで
一つ目のコミックエッセイはペス山ポピー作、「女(じぶん)のからだをゆるすまで」である。2020年から2021年にかけて「やわらかスピリッツ」に掲載され、書籍化されている。Xジェンダー当事者であるペス山さんがセクハラ被害を受け、その後さまざまな人との対話を通して、女(じぶん)の体をゆるすまでを描いた実録コミックである。
ペス山さんの戸籍上の性別は女性だが、自身のジェンダーを男性寄りの中性と表現する。
子どもの頃から自然にそういう感覚だったとのことである。髭や陰茎が生えたりすることを待っていたが、中学生活が終わる頃、そのような奇跡が起きないことに気づいて愕然としたという。
自分の体の女性性、あるいは男性性に違和感や嫌悪を感じる感覚が、ジェンダーアイデンティティを考えるきっかけになることは多い。けれどもペス山さんは、セクハラ加害者にカミングアウトした際に、体への嫌悪感から女性性を否定したがる潔癖な女性というレッテルを貼られてしまった。
ペス山さんは長らくそのようなセクハラ被害に苦しみ、自分と向き合った結果、体への嫌悪感と性別の違和感を分けて考えられるようになった。体への嫌悪感とは別に違和感がある、そしてそれは男性寄りの中性という表現が当てはまる、そんな感覚ということだ。
性別X
二つ目のコミックエッセイはみやざき明日香作、「性別X」である。2020年から2021年にかけて「ヤングマガジンサード」と「ヤンマガWeb」に掲載され、書籍化されている。Xジェンダー当事者であるみやざきさんが女性と幸せになるべく奮闘する日々を描いた実録コミックである。
みやざきさんの戸籍上の性別は女性だが、自身のジェンダーを両性と表現する。女性の自分と男性の自分が同時に存在している感覚だという。
セクシャリティについても、両方の自分にそれぞれの指向があるらしい。
二つの性が交じり合わない状態で存在していることが中性との違いになるようだ。ちなみに脳内の男女比率は時に変化するそうで、女性比率が高いときは可愛いもの美しいものを欲するとのこと。
ぼくは性別モラトリアム
三つ目のコミックエッセイはからたちはじめ作、「ぼくは性別モラトリアム」である。pixivで公表したものをまとめ直した内容で、2020年に書籍化されている。Xジェンダー当事者であるからたちさんが自分のジェンダーアイデンティティについて悩み考えた道のりを描いた実録コミックである。
からたちさんの戸籍上の性別は女性だが、性別違和があり、男になりたいと思ってきた。けれども、突き詰めて考えた結果、自分に性があることそのものが嫌ということがわかった。
からたちさんは自分のジェンダーアイデンティティについて、「しいて言うなら無性かな?」と言っている。おおもとに「性対象として見られる可能性」に対する嫌悪感があり、そのため「自分にある女性性の記号を全部消したい」とのこと。
一方で、大学1年生の頃まで定期的に「女の子になろうキャンペーン」期間が訪れたと言っていることは興味深い。キャンペーン期間中は女性的になりたい気持ちになったそうだ。
しかしキャンペーンは突然始まって突然終わるので、終わった後に我に返る。そのような意味では、もしかしたらからたちさんは不定性から無性に移行した事例なのかもしれない。
最後に
2021年にXジェンダーの団体であるlabel Xでアンケートを行った結果、4つのタイプに当てはまる人がそれぞれ一定数いることがわかった。しかし、複数に当てはまる人やいずれにも当てはまらない人も多く、そもそも性別の概念がない人などもいた。
ジェンダーアイデンティティは実に多様である。
もしあなたが自分のジェンダーアイデンティティに悩んでいるなら、今回紹介したコミックエッセイを参考にしてみてはいかがだろうか。
今回紹介したコミックエッセイ
ペス山ポピー著 「女(じぶん)のからだをゆるすまで」
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からたちはじめ著 「ぼくは性別モラトリアム」
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記事執筆者:やすよ