見出し画像

Xジェンダー的「自分らしい」スーツスタイルを求めて(2)

Fabric Rainbow

LGBTQ+専門を謳うオーダーメイドスーツの会社が千葉県船橋にある。Fabric Rainbowである。今回の取材では店舗にお邪魔させて頂いた。

代表の井出さんは以前からオーダーメイドスーツを手掛けていたが、スーツに悩むトランスジェンダーなどの存在を知り、それなら自分が対応しようじゃないかと一念発起、LGBTQ+向けのオーダーメイドスーツ専門店としてFabric Rainbowを立上げられたそう。※2

井出さんと一緒に取材に対応してくれたのが新人スタッフの小山さん。小山さん自身も学生時代にスーツについて悩み、大学の入学式には念願のメンズスーツを着たものの、今振り返ってみるとちょっと合っていなかったらしい。

井出さん(左)と小山さん(右)、Fabric Rainbow店舗にて

一般的に女性の体格は男性に比べて肩幅が小さく、ウエストが細く、ヒップが大きい。メンズスーツを着ると、肩やウエストがだぼっとなり、ヒップがきつくなる。そのままではうまく着こなすことができないのだ。

それでは女性らしく見える特徴をどのようになくしていくのか。その技術的なコツは「バランス感」だと井出さんは言う。

例えばメンズベストのウエストを少しゆったりめに作り、ウエストを絞っていない、けれどぶかぶかでもない絶妙なバランスにする。例えば肩幅が小さめのときは着丈も小さめにすることで縦横のバランスを調整する。

Fabric Rainbow提供

また、男性の体格を女性らしく見せたい場合にはバスト、ウエスト、ヒップの差寸(寸法差)をつけたり、肩幅を小さめに見せたりしてバランスを調整する。

多くの人が無意識に持つバランス感があり、そこから外れると違和感が出てきてしまう。なので、井出さんはその人の体格と無意識のバランス感を擦り合わせるようにして、絶妙なラインを作るらしい。魔法のような職人技である。小山さんが井出さんをマジシャンと表現するのも頷ける。

取材に同行したlabel X会員の方がFabric Rainbowのジャケットを試着してみると、一同から感嘆の声が上がった。女性らしさと男性らしさのあわいを漂うような不思議な恰好よさがあり、そしてそれが体型にすんなり馴染んでいる。

Fabric Rainbowのジャケット試着

当然のことながら、井出さんが見立ててくれたバランスが素晴らしくても、その人が着たいスーツになっていなければ意味がない。自分の着たいスーツがどのようなスーツなのか、当人がイメージできていることが大事なのだ。しかしそのイメージが難しいのも事実である。

だからこそ、店舗でいろいろなスーツを試着する意味があるのだと井出さんは言う。実際に着てみると、自分の中の違和感がはっきりする。すると、欲しいスーツのイメージが見えてくる。そういったプロセスの重要性を認識してサポートしてくれるというのは、Xジェンダー当事者だけでなく自分らしいスーツを作りたい人にとって非常にありがたいことだと思う。

店内にはたくさんの生地が並んでいる。3~4万円台で作れるお求めやすい生地から、手触りが良くてしわになりにくいイタリア製の高級生地まで幅広いラインナップを取り揃えているのも魅力的。

Fabric RainbowのHPより引用

Fabric Rainbowにはスーツの悩みを抱えた人が全国から訪れる。そんな状況を憂い、井出さんは過去にスーツ業界の中で仲間を増やそうとしたが、なかなかうまくいかなかったらしい。当時はまだ今ほど多様なジェンダーへの理解が一般に広がっておらず、必要性を訴えても今一つピンとこない人が多かったのだとか。

それでも井出さんは怯むことなく取組みを続けてきた。その根底には井出さんの生い立ちに基づいた信念がある。

「話していてわかると思うのですが、私ちょっと変わっているんですよ。小さな頃からいろんな人にそう言われて、苦しかったんですよね。その後勉強ができたことで自信を取り戻すことができたけれど、普通でなくちゃいけないことに対する抵抗感がすごくあるんです。だから幼い頃の自分にお前そのままでいいよって言ってあげたいし、例えば性の自認が生まれ持った性と違ってても、それでいいじゃんって思う。だってあなたはそう生まれたんだから、何がいけないのって。」

誰もがその人らしく生きていけることが大事なのだと井出さんは言う。就職活動をするときに自分を無理矢理型にはめて苦しそうにしている学生の何と多いことか、と。そんなに無理して型にはまらなくても、自分らしく生きていったらいいのだと言ってくれるその言葉に、思わず胸が熱くなった。

※2 Fabric Rainbowは男性の体向けレディーススーツも含め、多様なスーツに対応されている。客層としては身体女性と身体男性の比率が5対1程度とのこと。
またスーツだけでなく、皮靴(大きいサイズのレディースデザイン&小さいサイズのメンズデザイン)、身体女性に適した短めでスリムなネクタイ、オーダーメイドのシャツなども扱っている。

革靴とネクタイ、Fabric Rainbow店舗にて

今後はコスプレ衣装などスーツ以外にも対応したいと井出さんが意気込みを話してくれた。

Fabric Rainbow
URL:https://fabric-rainbow.com/
adress:千葉県船橋市南本町1-16クリスタル船橋ビル403
e-mail:fabric-rainbow@sebiro-aster.com

なお、本記事は3部構成になっております。

いいなと思ったら応援しよう!