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Xジェンダー的「自分らしい」スーツスタイルを求めて(3)
「自分らしい」スーツにたどり着く方法
本記事の(1)と(2)では、それぞれオーダーメイドスーツを手掛ける2社の取材内容について紹介してきた。
(3)では、オーダーメイドスーツを手掛ける2社の取材を通して見えてきた、Xジェンダー的「自分らしい」スーツを手に入れるための方法についてまとめておきたい。
1.自分が欲しいスーツをイメージする
最初のこのハードルがなかなかに高いが、それでも出発点として必要な作業である。既製品のスーツでは何故しっくりこないのか、どこに違和感を感じるのか。頭の中で整理しているうちに、自ずと自分の在りたい姿が見えてくるのではないだろうか。
普段自分が着ている服について振り返ってみるのもいい。何かしら共通点があるはずだ。無意識に作っているマイルールを自覚することで、スーツ選びにも役立つことがあるかもしれない。
また、どの場面で着るためのスーツなのか、という点も明確にしておくとよさそうである。とりあえず大学の入学式のために買うのはいいとして、その後成人式や就職活動でも使えるようにしたいのか、など。
特に就職活動ではどの程度自分らしさを出していきたいのか、塩梅を考える必要がある。男性らしさ、女性らしさの枠に自分をはめ込むのは辛いが、かといって規範を無視するのも相当に勇気が要ることである。
現状では自分の心と規範の間で折り合いがつけられる点を探るしかないが、根本的には必要以上に男性らしさ、女性らしさを求める就活業界の風潮を何とかして変えていきたい。
2.ネットショップを利用する
実際にスーツを購入しようとしたとき、店員と対峙しなくていいという意味で、ネットショップは比較的気軽に利用することができる。試着して合わなかったときの返送料を自宅試着料と考えてある程度納得できるなら、おすすめの方法である。
以下のようなサイトではトールサイズのレディーススーツを扱っているようだ。特にニッセンはラインナップを豊富に取り揃えている。
また、小さいサイズのメンズスーツは大手のスーツ企業でも取り扱っているようだ。特に洋服の青山は身長とウエストでサイズを詳細に分類しているのでわかりやすい。
3.既製品スーツの店に行く
それができれば苦労はしない、という声が聞こえてきそうであるが、既製品スーツの店に挑戦している先人がいるので、是非参考にして頂きたい。実店舗に行く最大のメリットは無料で試着できることである。サイズ展開が豊富な店であれば、意外と違和感なく着られる可能性もある。
また以下の2019年のニュース記事では「洋服の青山」の担当者がメンズスーツを注文する女性が増えてきていることを指摘している。既製品スーツの会社も、そのようなニーズについて認識はしているのだ。スタッフの接客マニュアル改定やジェンダー教育の程度はまだまだかもしれないが、世の中は確実に変化してきている。
keuzesの田中さんによると、シスジェンダー女性の中にもカッコいいメンズスーツを着たいという人が一定数いるとのことだ。これはレディーススーツの機能性の低さなども理由の一つらしい。ということは、FtXの人が既製品スーツの店で自分のジェンダーを明らかにしなくても、シンプルにメンズスーツを着たい、と言えばいいのだ。
もしかしたらスタッフに「なんで?」という顔をされるかもしれない。その時は「レディーススーツだとポケットが小さいし、メンズスーツをカッコよく着こなしている女性を見かけたから、自分も試してみたくなった」とでも言っておけばいい。おそらくスタッフは「ああ、最近そういう方いますよね!」と答えるだろう。
なお、身体男性向けのレディーススーツについての情報は、残念ながら非常に少ない状態である。今後そのようなニーズに対する認知が広がることを期待したい。
4.オーダーメイドスーツを作る
既製品スーツの店ではなかなか欲しいスーツに出会えないというとき、最後の砦となるのがオーダーメイドスーツである。もちろんいきなり最初からオーダーメイドスーツに行くのもありだ。
取材の中で、当人のジェンダーにどちらかというと否定的だった家族が、オーダーメイドのスーツ作りを通してジェンダーに理解を示してくれるようになったという話があった。同じ悩みを抱える人にたくさん対応してきた店のスタッフならば、きっと家族の不安もやわらげて本人の背中を押すような言葉をかけてくれるだろう。
メンズ・レディースの枠にとらわれずその人らしいスーツを作ってくれるオーダーメイドスーツの会社は、ここ数年でどんどん増えてきているようだ。今回紹介した2社を含め、以下に掲載している会社が多様なジェンダーに対応可能と表明しているので、選択肢として検討してみてはいかがだろうか。
keuzes
keuzesは今回取材させて頂いた2社のうちのひとつ。全国に出張して採寸などの対応をしてくれる。スーツがどれもクールでカッコいい。
Fabric Rainbow
Fabric Rainbowも今回取材させて頂いた2社のうちのひとつ。千葉県船橋に店舗がある。「マジシャン」井出さんが絶妙なバランスを見立ててくれる。
Aster
AsterとFabric Rainbowは系列店であり、どちらも多様なジェンダーに対応している。Fabric Rainbowが完全予約制で人目につきにくい雑居ビル内の店舗であるのに対し、Asterはより一般向けとのこと。千葉県佐倉市と千葉県八千代市に店舗がある。
FABRIC TOKYO
FABRIC TOKYOの渋谷モディ店は2021年に「オールジェンダー」のコンセプトを掲げてリニューアルしている。イージーオーダーならではの気軽さがあるようだ。
インフィニット
インフィニットという店でもLGBT対応を謳っている。過去には日本セクシャルマイノリティ協会主催のオーダースーツ体験イベントもやっていた模様。
AlberoAlto、M&M
関西(大阪)で多様なジェンダーへの対応を表明しているオーダーメイドスーツ店としてAlbero AltoとM&Mがあるようなので、ここに紹介しておく。
オーダーメイドスーツは決して安い買い物ではない。けれど、スーツで悩む人にとって決して損な買い物にはならないはずだ。
最後に
容赦なく男女二択を迫ってくるスーツであるが、「普通」のメンズスーツや「普通」のレディーススーツを着るのが苦しいのなら、自分が自分らしくいられるスーツを追求していいのだ。
けれど道行く人に怪訝な目で見られるのは、やはり辛いものである。だからこそ、自分の心だけでなく自分の体にもフィットしているスーツがいい。それが自分にとっても他人にとっても違和感のないスーツなのだろう。
Xジェンダーであっても、そうでなくても、みんなが「自分らしさ」を身にまとってひかり輝ける世の中であってほしい。そして一人一人の「自分らしい」服が、世の中の「普通」をもっと色とりどりにしていく、小さくて大きな一歩であってほしい。切に願う。
今回の記事に関して、下記の方々にご協力を賜りました。
改めて御礼申し上げます。
取材を快諾して下さったkeuzesの田中さん
同じく取材を快諾して下さったFabric Rainbowの井出さんと小山さん
スーツに関するアンケートに回答して下さったlabel X会員の方
記事執筆者:やすよ