偶さか日記5(暗夜迷宮日記)
イラストは全て嘉又夢了氏
文中の凌司君は氏のキャラクター。
事前に関係を組んでいます。
3月19日
ファッキン。偶に世間話する仲だった陽桜市内住みのオッサンが手前の息子と息子の記憶を失くしちまった。
嗚呼、これは確かに許せねぇな。
他人だが、他人事じゃなくなった。
3月20日
凌司君が劇団の写真を選り分けてるのを後ろからガン見してたが、例の女の子は出てこなかった。
新しいヤツから遡ってるらしいから、進めば進む程…彼女の年齢は増すって事になるな。
劇団の歴史はそんなに古くないが、今の団長社長で既に二代目らしい。
これは素直に訊いた方が良いパターンか?
3月21日
正月に仲良くなった異星のキャレンタ君とナセリアナチャンがWBCに夢中だって言って、凌司君ち一階の劇場螺笑門のプロジェクタースクリーンに観戦しに来た。
午後は花見遠足。
夜は宴会からの二階客間で泊まり。
3月22日
朝7時から二階の厨房で男3人で6人分の朝食作り。キャレンタ君と凌司君と俺、料理の腕はキャレンタ君と俺がどっこいどっこい、凌司君は楽しそうだが経験不足ってトコかね。
先は長いからゆっくり覚えてけば良い。
俺は球技には大して興味なかったんだが、この二日は皆と一緒になってハマった。
良いモン見せてもらった。
3月23日
俺は係累になったヤツの事は一通り調べる。
外からしか分からない事ってのは結構有って、絶縁状態の親子なんかについては役所が絡んでる分、当人より先に知っちまう事もある。
今回がまさにソレだ。
凌司君は二十歳で親の戸籍から転籍、二十二歳で朗正の母親と入籍、五十歳で離婚。
凌司君の親父さんは三十六年前に凌司君の母親と離婚、三十五年前に最後の伴侶と再婚、昨夏死亡。
凌司君のお袋さんは三十年前に最後の伴侶と再婚、現在は伴侶と高級養老院暮らし。
凌司君は親父さんが亡くなってる事も知らなかったようだ。
こういう時、どうしたら良いか…分かる訳ねぇだろ。千差万別、時と場合にもよるからな。
とりま今回は当然のような顔して傍に居られるのが救いだ。
3月24日
昨日行けなかったウチの墓参りに、千夜と久実と大空と一緒に行った。
凌司君に頼んで描いてもらった十三佛を持って。
久実の祖母と両親で、千夜の妻と娘と娘の夫の墓。
俺は凌司君をデバガメしてたから行けなかったんだが、ヤツ等は宿酔いで動けなかったらしい。世界一を日本が獲ったなんて日に街に出て呑めばそうなるわな。昨日が祥月命日じゃなくて良かったぜ。
3月25日
凌司君は親父さんの件に背も向けず、イジケもせず、八つ当たりもせず、事実を受け入れて、爆発しそうに沸き上がったであろう複雑な感情をたった一日で昇華したようだ。
物事の対峙の仕方で合う合わないが垣間見える訳だが、長い付き合いになるヤツがマトモで良かった。
このマトモさを維持させられるよう最大限尽力する。