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原田マハ『たゆたえども沈まず』読了。

昔から印象派が好きです。特にモネ、ルノワール。
ルノワールの「ポン・ヌフ」がいっとう好きで、暫く部屋に飾っていたほどに。

そして近世、19世紀については、好きを通り越して、研究対象にしていたほど。時代の終わり、爛熟した江戸文化。
英泉の描く美人は艶やかな着物を着こなし、弘重の描く風景は、まちとそこに生きる人々を生き生きと描き出していました。
出身が静岡のため、東海道五十三次に深い親しみがあったのも一因だと思っています。

そんな私が原田マハさんの作品に出合ったのはもう、だいぶ前。
モネが好きな私に『ジヴェルニーの食卓』を知人が紹介してくれたのがきっかけ。

原田マハさんの描く印象派画家の物語は、フィクションながら、どれも「実はそうだったのかもしれない」と思わせてくれるものばかり。『たゆたえども沈まず』も、読了後に調べなければ、危うく加納重吉が実在の人物だと思っていたところでした。

しかし、作中に出てくる林忠正は実在の人物です。
不勉強で存じ上げなかったのですが、当時パリに赴き、浮世絵を広め、日本に印象派を広めた立役者だというではないですか。
この人がいなければ日本でこんなに印象派が流行ることはなかった!彼が今の日本を見たら、驚くことと思います。存命中は不遇だったようですが、彼の仕事は確実に、この国に影響を与えたのですから。
彼がいなければ私も印象派を知ることはなかったのだと思えば、感謝しかありません。
作中の彼は冷静で厳格、類まれな才能と先見の明を持つ、一見近寄り難い人物として描かれていますが、その根底にあるのはフランスへの憧憬と浮世絵を広めるという強い情熱。きっと、親しくなれば熱い話が聞けたのではないかと、そう感じました。

さて、『たゆたえども沈まず』における、林忠正のもう半面にゴッホ兄弟がいます。フィンセント・ファン・ゴッホといえば、印象派を代表する画家。彼の画業を弟のテオが支えていたというのは周知でしたが、その弟に焦点を当てた話は読んだことがなかったので新鮮でした。
今でこそ、印象派といえばゴッホという認識が広まっていますが、彼も存命中はやはり不遇であったということが、作中では、次第にねじれていく兄弟の関係性に現れていました。ゴッホの作品は「夜のカフェテラス」が一番好きですが、晩年の「糸杉」は、モネの晩年の「睡蓮」とも違った気迫の籠もった作品だと思います。


印象派の作品に惹かれるのは、それが美しい絵画であることはもとより、画家の目に映る景色を、見たままに、見た以上に描き出し、彼らの目に映る世界を受け取れるからではないかと思います。
そして、彼らの目に映る世界は、太陽の光を受けて輝く水面や、風に揺られてそよぐ草花、そしてそこに暮らす人々のありのままの姿を通して、実物より美しく、穏やかにそこに在り、見る人の心を打つのだと思うのです。

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