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【色をめぐる旅】 -マミーブラウン-
“マミーブラウン”
皆さんは“マミーブラウン”という色をご存知でしょうか。
“Mummy Brown“ もしくは、“エジプシャンブラウン”の名前でも知られています。
英語に詳しい方なら、うすうすお気づきかと思いますが、その名前の通り原料には“ミイラ”が使われているのです。
マミーブラウンの歴史
ゾッとすることですが、この色にはそういった過去がありました。
今でこそ、ミイラは博物館で目にする文化財としての印象が強いですが、かつては妙薬や高級絵具として重宝されていたのです。
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※イメージです。
19世紀、ラファエル前派の画家たちは、好んでこの色を使ったといわれています。
あの美しい絵画に使われていたとは…。
一体どこに使われたのかと、絵の中を探してしまいそうです。きっと画家たちにとって、とても魅力的な色だったのでしょう。
さて、今皆さんが思い浮かべているミイラは、どんな形の物でしょうか。
ぐるぐると包帯で巻かれた人間をイメージすることが多いかと思いますが、実は動物のミイラもあり、どちらも絵の具の原料とされ、松脂、没薬というメディウムと一緒に練られて絵具にされていました。
たとえ、人間ではなかったとしても、やはり好んで使いたい色ではないですね。
…とはいえ、今の私たちがこの絵具に関して恐ろしく感じるように、当時の人々も同じだったようです。
知らずに使っていた画家たちは、原料を知ると使うことを控えるようになり、またある画家は庭に持っていた絵具を埋葬したという話さえ、残っています。
※没薬…アフリカ自生する没薬樹から取れる樹脂のこと。メディウムだけでなく、お香や鎮痛剤、ミイラの防腐処理などにも用いられた。
現代のマミーブラウン
今でも絵の具に“マミーブラウン”の名はありますが、20世紀に入ってから使えるミイラの数が減り、作られることはなくなりました。現在では原料を変えて、その色名だけが残っているようです。
今では、安心してこの色を使うことが出来ます。
この色を手に取られた際には、是非その歴史を思い出し、使っていただけたらと思います。
この絵の具が誕生した背景には、そういった出来事があったのだと。
色の歴史は、なかなかに奥深いものです。
”ちょっと身近な美術”についてお伝えする、美術コラムです。
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©️ 2022 La Colle
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