
【Vol.1収録】little lights memo - 其の1(無料)
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【〈著〉いきなり編集長】
▶︎著者紹介
---深夜2時。なぜかぴったりその時間によく目が覚めてしまう……。なぜだろうね。---
家は少し小高いところにあって、3歳の頃この家が建ち、ここで育った。
2階の部屋の大きな窓からは、小さい森や林の間に街並みが見渡せる。子供の頃から見ていた景色。晴れの日、雨の日、雪の日、へこんだ日、嬉しかった日、様々な記憶が残るこの窓辺。
そしていつの日も、夕焼けの時間が終わり、街に夜がくる。この街は大きな都市でもなく、でも山奥すぎることもなく、小さな街だ。夜深くなり、信号機が点滅する時間になり、明かりの数を数える。お店の明かりなんては無く、必要最小限の両手でおさまるくらいの数の街灯の明かりが点々とあるだけ。そんな記憶。
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大人になってこの街に戻ってきた。駅から繋がるメインストリートにかつてあった八百屋さんやおもちゃ屋さん、地元のスーパーはもう無くなっていた。昔通っていた本屋さんもアパートになった。新しくラーメン屋とケーキ屋さんができたが、昔この商店街にあった専門店はシャッターが閉まっている。
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この街に戻ってきて何日が経ったろう…。僕はこの街に戻ってきて、仕事に就き、学生時代東京で出会った人がこの街に来てくれて、その後結婚をし、子供も産まれた…。
そんなある日の深夜2時。
僕は起き上がって時計を見る。『また2時か…』と今まで何度繰り返したか分からないが心の中でつぶやき、子供たちが起きないように静かに少しだけ窓を開けてみる。夜のひんやりした風の匂いを吸い込んで、ふと子供時代を思い出し、街の明かりを見る…。あれ?……明かりの数が多いぞ?しかも森だったはずのところに明かりがつながって見える。そして突然鮮やかな明かりのホテルのどでかい看板まで!
そういえば真っ暗に明かりだけで一瞬気づかなかったが、あの森は半分切り崩されて新たな道路と大手ショッピングモールを建設中だったところだ。そういえばホテルも同時に建てていたような…。この田舎で、誰がホテルに泊まるんだろう。
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そして今日もまた深夜2時がやってきた。おきまりの『また2時か…』に、おきまりの外の冷えた空気を吸い込み、街の明かりを眺めながらいろんなことを考える。子供たちが産まれてからは、子供たちがこれからこの街をどう感じて生きていくのだろうとか、シャッター街になったメインストリートを想い、なんでこの街はこうなんだろうとか、、、
そんなことを止めどなく考えたり、携帯をいじくったり、また考えたり。そしてまた窓辺から街の景色をながめて………。だんだんと空が白み始め、薄紫色に色づきうっすらと街の建物が見え始めたその時に、突然自分に気合を入れてみた。
でも別に悪いことじゃない……
そう、少なくともこの窓辺から見える明かりの数は増えたじゃないか!
子供のころ夜の闇に塗りつぶされていた場所には今では道路が走り、街灯が灯り、大きなお店も、ホテルもできてるじゃないか!
そして僕らみんなこの街に暮らし、息づいてるじゃないか!!
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無くなったものはすごく目につきやすいし、感傷的になることができる。でもそれより新たにできたものに、そして今もなお続いているものに、もっと目を向けなきゃと思った。今この瞬間、一緒に生きているのだから。
そんなことをぐちゃぐちゃ考えている間に、一番おおきな明かりが東からのぼり、街を照らし始めた。
もう浸る時間は終わり。いつもの日常の始まりだ。いまでは奥さんとよく"日常"について話しをする。今日も、保つための、進むための、そして楽しみを目指す日常が幕を開ける。結局進んだり戻ったり立ち止まったりの繰り返しだけれど、僕たちはこの地獄のような日常を愛してもいる。
さぁ今日も!この街や人、生活、家族、いろんな日常の中に灯る明かりを探しに。
(終わり)
〈著〉いきなり編集長
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