全国手話検定1級の受験記録と傾向と対策



1.はじめに

 2024年10月19日,第19回全国手話検定1級を受験しました.受験当日の様子(受験記録)と,私が1級を受験するまでに何をしたか(傾向と対策)を下に記そうと思います.

2.受験記録

2.1当日まで

 過去問を3年分解き,準1級の単語を覚えるなどの対策をしました.

注:準1級までは,その級に配当の単語が指定されていますが,1級にはありません.なので,1級に一番近い準1級の単語を覚えたということです.

2.2当日

 13時から受付開始だったため,12時50分ごろに会場に到着しました.会場に入ると,午前の試験を受けていた友人と偶然会い,会話をしました.友人曰く,知っているろう者が面接官だったとのことです.私も,そのろう者は知り合いだったため,少し緊張しました.

 受付で受験票を見せ,試験会場に入ると,受験者は9人だけでした.席は指定でしたが,人数が少ないため,映像が見やすい位置に移動していいよと言われました.私は見やすい中央に移動しました.9人のうち7人は30代以上の方で,私を含めた2人が大学生でした.

 試験の前に,手話の映像と音声で試験内容の説明がありました.試験官の説明は全て音声でした.

 まず,小論文の試験では,「きこえるひと・きこえないひとが必要としている合理的配慮は何か」という問題が出題されました.合理的配慮とは何かをまず書き,それが2024年4月から広い範囲で義務化されたことと,「機会を平等にすること」「情報の差をなくすこと」を具体例として800字ほど書きました.

 次は読み取り試験でした.下にも記しましたが,1問,過去問と全く同じ問題が出題され,驚きました.

 最後は,面接でした.面接は2人ずつ呼び出され,仕切りのある部屋で同時に2人が受けるという仕組みでした.面接が呼び出されるまでの間,他の受験者の方とお話をしました.全員初対面でしたが,会話が盛り上がりました.

 面接では「最近気になるニュースについて説明する」ことがテーマでした.とてもテーマが広く,自分の領域に持ち込みやすい比較的簡単な問いだったと思います.私は,準備していた「デフリンピック」についてスピーチをしました.ある程度スピーチをし,2分はゆうに超えただろうと思い,「まだですか?」と聞いたら「まだです」と言われました.想像以上に2分が長かったです.

 面接官の方々はとてもにこやかで,回答しやすかったです.会話の場面では「デフリンピックについて友達や親と話したことはあるか」「スポーツのニュースが好きなのはなぜか」「なぜ手話をはじめたのか」「他に気になっているろう関係のニュースはあるか」といった問いが聞かれました.

3.傾向と対策

 全国手話検定1級は,「筆記試験」「手話の読み取り試験」「手話での表現・手話での会話試験」の3つからなります.このノートでは,それぞれ「小論文」「読み取り試験」「面接」と呼ぶことにします.
 [1]によると,合格基準は,これら3つの試験結果がそれぞれおおむね70%であるとされています.

3.1小論文【傾向】

 小論文の問題は,与えられたテーマに対して,自分の考えを600字から800字程度で回答するものです.本番では,A3の大きさの紙が2枚渡され,それぞれ回答用紙とメモ用紙となっていました.

 過去三年間で出題された問題を見ると,聴覚障害者の生活,社会参加などがテーマになっていました.

 与えられたテーマに対して

  • どう思うか

  • 何が必要だと思うか

という非常に広いテーマが与えられるようです.広いテーマのもとで,答えのない「意見」を求める問いであることが特徴的です.

3.2小論文【対策】

 過去問を見る限り,細かい知識が必要な問題は出題されないと考えられます.むしろ,自分の知識と考えを整理して,小論文の正しいフォーマットで書けるように訓練することが必要だと思います.

 私は,小論文の正しいフォーマットは分かりませんが,いわゆる大学のレポートなど,アカデミックな場で用いられる標準的な書き方を採用しました.最初の段落では主張を簡潔に書き,次の段落でその主張を支える一つ目の理由を,さらに次の段落で二つ目の理由を,最後にもう一度自分の主張を書くという形式です

 また,各段落の一文目は,その段落で最も言いたいことを簡潔に書きます.例えば,一つ目の理由を説明する段落では,まず理由を簡潔に書き,次にその理由を詳しく述べたり,具体例を述べたりして,最初に述べた簡潔な理由がなぜ正しいのかを説明します.

主張
理由1
 2文目からさらに詳しく書いたり,具体例を書いたりする.
理由2
 2文目からさらに詳しく書いたり,具体例を書いたりする.
主張・まとめ

小論文のフォーマット

3.3読み取り試験【傾向】

 読み取り試験は,手話の映像を見て,問いに対する正しい選択肢を選ぶ形式です.映像は全てストーリー形式で,「この単語は何か?」といった問はありません.

 手話は,口型もはっきりしており,わからない単語があっても推測しやすくなっています.使われている単語や手話は,私の周りではあまり使われていないものもいくつか見かけましたが,読み取りに支障が出るレベルではないと思われます.

進んだ注:手話技能検定試験では,口型が一切ありませんでした.

 回答方法は択一式で,選択肢は全て4択となっています.8つの映像が流れ,それぞれに3つまたは4つの問題がある形式です.2022年から2024年までの間は,映像1から7には3つの問が,8には4つの問があり,合計25問に答える形式となっています.すなわち,1問あたり4点程度であると推測されるので,70%の得点率を取るためには,7問程度は間違えることができると考えられます.

 各問の間に,30秒間マークシートに回答する時間が与えられます.

:配点は公開されていません.全体の正答率などに応じて,配点が変わる可能性があります.

 回答の選択肢には,映像を見なくても明らかに誤りであると判断できるようなものもありました.また,2024年度第19回の問7は,2021年度第16回の問3と全く同じ問題で,選択肢と解答も同じでした.映像は違いましたが,内容はほぼ同じでした.

 また,読み取りに関して必要になる手話単語のレベルは高くはないと思われます.実際,最初に私が準1級配当の単語リストを見たところ,10分の1程度しか知りませんでしたが,その状態で2024年の過去問を解いた結果,満点を取ることができました.

3.4読み取り試験【対策】

 読み取り試験の対策として,まず,過去問を3年分ときました.そして,準1級配当の単語の中から必要だと思ったものを厳選して覚えました.実際には,6割程度を覚えたと思います.

 また,選択肢を先に見てから映像を見る方がストーリーが入ってきやすいと思います.解答用紙が配られてから実際に映像が流れるまでには,名前を記入したりするための時間があるので,その間に選択肢を確認して「どのような話か」を想定しておき,「何が聞かれるのか」を理解しておくと良いと思います.

 問の中には,単語を知らなければ答えるのが難しいものもありました.2021年,2024年の問題では「ケアマネージャー」という手話単語を読み取らなければ回答できない問がありました.しかし,3回見るチャンスがあるので,答えだと思われるところの口の形を見たり,手の形が指文字になっていないかなどを見ることで,知らない単語でも推測で回答することができると思います.

3.5面接【傾向】

 過去三年間で出題された問題を見ると,災害,ろう者のスポーツ,情報保障などがテーマになっていました.

 与えられたテーマに対して

  • 何をしているか

  • どう思うか

という非常に広いテーマが与えられるようです.小論文と同じで,広いテーマの答えがない問いであることが特徴的です.

 与えられたテーマに対して答える形で,まず2分間のスピーチを行います.その後,3分間,面接官からの質問に答えます

 実際の面接の様子が収録されたDVDを見ると,行ったスピーチに対する質問だけではなく,地域のろう者との交流はあるか,と言った質問もありました.

 実際に合格された方の映像を二年分見ましたが,完全な対応手話でも,完全な日本手話でもない,中間の手話だと感じました.ろう者とコミュニケーションを取ることが重要なので,手話がどちらであるかというのは,本質的ではないと考えられます.

 また,試験の前に声を出しながら回答しても良い,という説明がありました.

3.6面接【対策】

  面接の対策として,まず過去問を3年分確認し,自分だったらどのように答えるかを練習しました.

 また,想定される質問を事前にリストアップし,それに対する答えを事前にある程度考えました.考える際には,chatGPTなどのAIを用いることで,一般的な考え方などを知ることができるので,とても参考になります.例えば,想定できる質問として,「SDGsについて思うことは何か?」であれば,「SDGsとは何か」「SDGsについて個人ができることは何か」といった内容をchatGPTに聞けば,一般的な回答を得られます.それらを頭に入れておくと,面接で回答する時に使えるかもしれません.

 そして,回答のリストを作っておくことがとても重要だと思います.どのような問いが来ても,最終的に「手話の理解を広めることが需要だと思った」「これからはろう者ともっとコミュニケーションを取れるようにしたい」といった,定番の回答に結びつけることは可能です.これらを準備すればするほど,回答を「思いつく」のではなく「結びつける」ことで十分になるので,とても楽になります.

 また,定番のエピソードも準備しておきました.「友達が手話通訳はなくても字幕だけでいいのではないかと言っていた」「友達が手話は日本語を手で表したものだと思っていた」といった実際にあったエピソードを整理しておくということです.このようなエピソードも,おそらくどのような問いが来ても結びつけることができます.つまり,「定番の回答」「定番のエピソード」を整理して,大体の手話表現を覚えておくことで,スピーチや面接での会話の際に,手持ちのコマが増え,会話の構成などがスムーズになると思います.


4.文献

[1] 社会福祉法人全国手話研修センター(2024)『これで合格!2024全国手話検定試験DVD付き 第18回全国手話検定試験解説集』,社会福祉法人全国手話研修センター,中央法規出版株式会社,東京.

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