良きリスナーになるために (Spiral Life)
●1995年6月発売『月刊歌謡曲』 インタビュー記事より~
優れた小説家がほとんどの場合、優れた読み手であるように、良い音楽家になるにはまず聴くことから始めるのがいいらしい。今回は優秀な作り手であると同時にリスナーとしての定評もあるSpiral Lifeの二人に良きリスナーになるためのヒントを、最新アルバムの話題ともども、聞いてみた。
ーー前回の取材の時に言ってましたけど、いまでもCDやレコードを買い漁っているんですか?
石田小吉・・僕らは音楽家である以前にいち音楽ファンなわけですよ。音楽ファンだったら音楽を聴くのは当たり前なわけで。いたって普通のことだと思うんですよね。“音楽道”としては。ちょっと仰々しい言い方だけど(笑)。
車谷浩司・・当たり前で普通。音楽に敬意を持ってやっていけば自然にそうなると思います。逆に「それがそんなに珍しいかい?」って感じですね。
ーー良い音楽と出会った時ってどんな気持ちになりますか?
石田小吉・・そのメロディを聴いた途端、それをずっと歌っていたくてしょうがなくなる。その人たちの音楽を全部聴きたくなる、いても立ってもいられなくなる・・・・、僕の場合はビートルズだったけど、日本の音楽でも同じじゃないかな?
車谷浩司・・特にデッカイ音で好みの音聴いちゃったりすると、鳥肌立つじゃないですか。それが良くて音楽続けてるようなところもあるし。もちろんそのミュージシャンの作品を遡って聴いたりもします。また、さらにその人の敬愛していたミュージシャンのものまで、ずっと、ね。
石田小吉・・大げさに言えば、探す努力、出会う努力なんだと思うけど、でも良いものに触れるためには多少は労力払わないと。特に音楽の聴き始めの頃はね。僕らがそんな人たちに言えるのは、まだまだ君が知っているその800倍の数、良いグループがいるんだよってこと。知らないで済ますには惜しい音楽が世の中にはまだまだ沢山あるんだよってことですね。
車谷浩司・・手がかりとしては何でもいいと思うんですよ。別に音楽なんて人に教えられて聴くようなものじゃないし、僕らがこれを聴けっていう筋合いのものでもないし。作り手の一人っていうだけで偉いわけじゃない。ただ、誇り高い職業だとは思ってますけどね、音楽家は。
ーー街でかかっていた曲を「いいな!」と思ったら自分の曲だった、なんて経験あります?
石田小吉・・あ、一回あった(笑)。車でラジオを付けたらすごい良い音色の弦の音がして、「こんな曲かけて、やるじゃん~」と思ったら、自分たちのアルバム『Freaks of Go Go Spectators』の中の一曲でした。
車谷浩司・・そういうのって、小さな幸せって感じで嬉しいですよね。
ーー今回のアルバムはそうした無数の良い音楽へたどり着くための道標的役割も果たしていますよね? 良い音楽にまだ出会えていない人たちのための・・・・・。
石田小吉・・良いこと言って下さる!
車谷浩司・・今回のアルバム『FLOURISH』はタイトル通り、“花咲きました”って感じで、僕らの目指していた音楽の到達点のような意味合いがあるんです。ファースト『FURTHER ALONG』、セカンド『spiral move~TELEGENIC2』含めて三部作のニュアンスです。後はもうこの三つのカタログをじっくり聞いて欲しいですよね。そして自分自身の感動する音楽を見つけて欲しい。音楽を作りたいって人も、まずいっぱい曲を聴いてメロディというものを身体で覚えないと。字を覚えなきゃ文を書けないのと同じで、まず自分の中に音楽を入れて、それから作曲や演奏など自由にやるのがいいと思いますね。
★編集後記★ 私の編集者人生初のインタビュー取材は、学生時代から愛聴していた彼ら、Spiral Lifeでした。これは当時の上司である編集長の粋な計らいであり、その後のインタビュー取材の指針となる貴重な経験ができました。自分がもともとファンだったバンドにビジネスの場で出会い、取材をする・・・・・・。当時の私が学んだことは、「仕事を私物化しない。すべてはファン、読者のために」でした。