スポーツ復帰に向けたハムストリングス肉離れに対するアプローチ
ハムストリングスの肉離れはスプリント、ジャンプ、ストップなど多くのスポーツにおいて発生し、スポーツ現場で活動するトレーナーが対応する代表的な下肢の疾患の一つです。
しかし、ハムストリングスの肉離れは、患部や患部外の機能改善が不十分なまま復帰することによって再受傷する可能性も高い特徴も持ち合わせています。
そのため受傷後には損傷部位の安静だけではなく、スポーツ復帰にむけた機能改善のアプローチを積極的に行う必要があります。
そこで今回はハムストリングス肉離れに対するスポーツ復帰に向けたアプローチをご紹介していきたいと思います。
このnoteではハムストリングス肉離れに対するアプローチを段階ごとにリリース、ストレッチ、エクササイズなどをスライドと実技で紹介しています。
スポーツや臨床の現場でハムストリングス肉離れの対応が多いトレーナー(アスレティックトレーナー・理学療法士・柔道整復師・鍼灸あん摩マッサージ指圧師など)の方にはオススメの内容となっています。
ダイジェスト動画
note概要
1.病態
2.急性期~亜急性期アプローチ
3.回復期アプローチ
・回復期前半
・回復期中盤
・回復期後半
4.アスレティックリハビリテーション
1.病態
ハムストリングスは大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋で構成され、股関節の伸展、膝関節の屈曲作用を持ちます。
肉離れは二関節筋が過度に伸張されることに発生する特徴があり、ハムストリングス肉離れは大腿二頭筋長頭に最も多く発生し、筋腱移行部に発生することが多いと知られています。
発生機転
ハムストリングス肉離れの受傷機転としてスプリント型とストレッチ型の二つに分類することができます。
両者ともに股関節屈曲・膝関節伸展で受傷することが多く、スプリント型では脚が前方に振り出される遊脚側、ストレッチ型では接地する立脚側での受傷が多いという特徴があります。
ハムストリングスのタイプ分類
①スプリント型
大腿二頭筋に多く、遊脚が前方に振り出され、股関節屈曲・膝関節伸展が強制されるタイミングでの損傷する。
初期症状は強い
②ストレッチ型
足部の接地時に立脚が股関節屈曲・膝関節伸展が強制されることによる損傷が多い。初期症状は弱い。
重症度
ハムストリングス肉離れは損傷部位により重症度が分類され、スポーツ復帰までの期間が異なります。
特に損傷が腱にまで及んでいる場合には筋線維の損傷よりも予後不良となるため注意が必要になります。
また損傷部位が坐骨結節に近くなればなるほど、予後が不良という特徴もあるため重症後の損傷部位の特定は非常に重要なポイントとなります。
大腿二頭筋長頭の損傷部位による分類
Ⅰ型|筋線維・筋周膜周辺を含む
Ⅱ型|腱膜・筋腱移行部を含む
Ⅲ型|筋腱付着部から腱性部
※奥脇による分類(大腿二頭筋長頭)をもとに作成
診断
画像診断
確定診断は主にMRIによる画像診断が有用となります。
MRIによってハムストリングスの出血などから損傷部位を特定していきます。
先述した通り、損傷部位が坐骨結節に近い筋腱付着部の損傷では競技復帰までの期間が長期化する恐れがあるため、損傷が疑われる場合には確実に画像診断が必要になります。
その他、超音波を用いた検査が行われ運動時の患部の状態を観察でき、筋の動態なども確認できる利点があります。
損傷部位の特定や重症度の判定、損傷組織の修復度を確認するうえでもMRIによる画像検査は必須のため、受傷後は可能な限り医療機関を受診することが求められます。
症状
ハムストリングスの肉離れは
股関節屈曲・膝関節伸展などが強制されることにより、ハムストリングスに過剰な伸張ストレスがかかることが主な発症の原因となります。
歩行時痛、ハムストリングスの収縮時痛、伸張痛が症状として挙げられ、特にストレッチ痛は受傷直後の重症度や、リハビリテーションの修復過程を評価する上では重要な指標となります。
特に股関節屈曲位での膝関節伸展する active knee extension test による伸張痛が重症度の指標として用いられます。
active knee extension test
股関節・膝関節屈曲90°からの膝関節伸展を自動運動で行い、疼痛、違和感、伸展角度を健側・患側で確認していきます。
スポーツ復帰までのアプローチ
スポーツ復帰にむけたアプローチではハムストリングス肉離れの確定診断後の、機能改善のための段階的なアプローチ方法をご紹介していきます。
1.亜急性期アプローチ
急性期|受傷後~3日
受傷後の急性期(受傷~約3日)にはRICE処置などを行い損傷の拡大を最小限に抑える必要があります。
基本的にハムストリングスに対し、圧迫を行い患部の出血をおさえます。
また患部を挙上することために過度に下肢を挙上してしまうと、股関節が屈曲されハムストリングスが伸張されるため、挙上角度には注意が必要になります。
亜急性期|受傷後約3~5日
①損傷部位の滑走不全の予防
急性期を過ぎた亜急性期(受傷後約3~5日)ではハムストリングス肉離れでは損傷した筋線維の修復過程で発生する腫脹などによる、軟部組織の滑走不全、股関節や膝関節の不動によって生じる関節の機能不全の予防が求められます。
不動期間の長期化により、瘢痕組織の過剰形成によるハムストリングス周囲の筋の滑走不全は筋の伸張性・筋出力の低下を引き起こす可能性があります。
そのため不動は損傷部位の疼痛の無い範囲から、リリースや患部外のエクササイズを行うことが重要になります。
患部外機能の改善
またハムストリングスが起始する骨盤帯のマルアライメントや仙腸関節の機能不全は、ハムストリングスの機能にも影響を及ぼします。
①仙腸関節の機能不全の予防
仙腸関節を構成する仙骨は仙結節靭帯を介してハムストリングスと連結します。
ハムストリングス肉離れ後は仙結節靭帯を通じて仙骨の前傾などを制限し仙腸関節の機能を低下させる恐れがあります。
損傷したハムストリングスに伸張負荷がかからない範囲で仙骨の前傾を促すエクササイズを実施することによって、仙腸関節の機能を保っていきます。
②対側股関節の伸展制限
対側(後脚)の股関節の伸展可動域制限は、前脚の寛骨前傾による代償動作を生じさせる可能性があります。
寛骨の前傾は坐骨結節に付着するハムストリングスを伸張ストレスを増加させる要因となるため、早期からアプローチすることが求められます。
亜急性期アプローチ
・ハムストリングスリリース
・仙腸関節エクササイズ
・股関節伸展ストレッチ
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