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スルガ銀行の労働環境問題~かぼちゃの馬車事件を契機として

 皆さまは「かぼちゃの馬車事件」を覚えているだろうか。
 このnoteでは「かぼちゃの馬車事件」そのものを問題とするつもりはないからざっくりとした説明に済ませる。
 すなわち、不動産投資家が融資を受けて不動産投資をする際に、スルガ銀行に提出する書類(本業たる勤め先の年収・元手となる現在の預貯金額等の記載のある書類等)を改竄して、本来、受けられるはずのない額の多額の融資を不動産投資家がスルガ銀行から受けてしまい、結果、不動産投資家が弁済に窮してしまった事件である。

 この事件については、スルガ銀行本体ではなく不動産業者に一番の問題があるとか、融資を受ける不動産投資家も融資額を認識していたわけだから被害者面するなとか色々と意見はあるところだが、今回はかぼちゃの馬車事件を契機としたスルガ銀行の労働環境について論じてみたい。

 そもそも、私はスルガ銀行の企業体質に関しては、この「かぼちゃの馬車事件」以前から「ちょっと変わっているな」と思っていた。
 そのきっかけとなったのは、スルガ銀行が日本IBMに発注した勘定系システムの開発失敗を巡り、スルガ銀行が日本IBMを訴えた裁判である。
 企業法務の世界ではかなり注目されていた事件でもあり、結果的にこの訴訟ではスルガ銀行の全面的勝訴に終わった(最高裁判所 平成 27年 7月 8日)。

 私は知財の専門家ではないし、その点についてはとやかく論じるつもりはない。
 私が注目したいのは以下の部分である。
 すなわち、2010年06月18日の日経クロステックの記事によると、

『日本IBMのメンバーは、スルガ銀行の責任者や担当者に大声で怒鳴られることが珍しくなかったという。「厳しい叱責を受けるのはしょっちゅうだった。提出した資料をその場で放り返されたり、都合のいい答えを返すまで会議室に軟禁されたりしたこともあった」(同)。新幹線の終電の時間にも帰してもらえず、「東京から(スルガ銀行の開発拠点がある静岡・三島に)通っていたメンバーは、三島駅近くのホテルに宿泊せざるを得ないことになった日もあった」』
 『金田副会長(筆者注:当時、日本IBM幹部)は「たいへん申し訳ないが」と断った上で、「本当に特殊なお客様だと思った。その感想は最後まで変わらなかった」と述べた。 』

 身内の社内でのやり取りでの罵声・恫喝等ですら近年(当時ですら)のコンプライアンスの高まりから問題視されてはいるが、社外の人間に対してまでこのようなことをしていたことが事実であるとするならば、かなり特殊な企業と言わざるを得ない。

 こういった企業体質が不正な不動産融資につながったと言われても文句は言えないのではないだろうか。
 スルガ銀行は当然ながら銀行であるので、その収益の一翼を担うのが融資、特に投資用不動産融資であった。
 融資残高を増やすことで利ザヤを稼ぎスルガ銀行の収益に貢献する、それが本筋でありその点はとやかく言うことではない。
 しかし、かぼちゃの馬車事件で明るみに出たように、スルガ銀行の融資残高は不正にまみれたものであったから、当然、融資の回収ができないケースも他の金融機関と比べれば多かったであろう。
 実際、サービサーの世界では、不良債権の供給元としてスルガ銀行は有名であり、サービサー業界では「なぜ、あんなにスルガ銀行は不良債権を抱えているのだろう」と訝しがった者もいたと聞く。
 おまけに、当時のスルガ銀行のサービサー担当者は、不良債権を購入するサービサー会社の担当者に対しても非常に傲慢で威圧的な態度であったことも、一部のサービサー業界関係者の間では有名であった


 これはおそらくだが、大量の不良債権が発生しサービサー会社に譲渡せざるを得なかったということは、それはつまり、我々が思うほどスルガ銀行は不動産融資では儲かっていなかった、いや、もっと正確に言うと「結果的に薄利多売」の状況で不動産融資を実行せざるを得なかったのであろう。
 そういった収益構造が、(当時の森信親・金融庁長官からの評価のためにも)少しでもノルマを達成させて収益を上げようと、スルガ銀行内部のパワーハラスメントを蔓延させてしまっていたのであろう。

 さんざんマスコミがスルガ銀行内のパワーハラスメントを報道しているので、その内容はスルガ銀行が公表した報告書に譲りたい(ただし、330ページ以上もあるうえ、パワーハラスメントの内容も虫唾が走る内容であることに読む際には注意されたい)。
 このようなパワーハラスメントが横行する会社の特徴の一つとして、権力の分散がうまく働いていないことが挙げられる。
 権力の分散がきちんと働いていれば相互監視が行われ、ある程度の不正(パワーハラスメントも含む)を防ぐことができる。
 スルガ銀行でいうなら、岡野一族に権限が集中しすぎていた(そもそも、この時代に一族経営の銀行があったことに私は驚いた)といわれる。
 絶対的な権力は絶対的な不正・腐敗を生むのは歴史が証明する通りである。
 某大手総合商社などは、3親等内の人間がすでに社員にいる場合はそもそも入社できないようになっている。
 このように、うまくコーポレートガバナンスが行われている企業は、権力の集中を事前に防止し、不正・腐敗に厳しく対処しているものと考えられる。

 転職や就職をする際、外部からは、パワーハラスメントが行われているか等、当該企業のコンプライアンス体制が構築されているか、なかなか分かりづらい。
 そのため、転職や就職をした際、「こんなはずではなかった」との後悔が生まれることも珍しくない。
 そうならないためにも、転職や就職の際には、年収や福利厚生といったことも重要だが、きちんとコーポレートガバナンスが行われているかどうかに着目することも重要と思われる。

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労働環境等社会問題研究室
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