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【日々、想】七草にちか 感想【シャニマス】

※本記事は【日々、想】七草にちかのネタバレが多分に含まれています。閲覧の際はご注意ください。


はじめに

 こんにちは。こちらは先日実装されたパラレルコレクション【日々、想】七草にちかの感想記事となります。今回はアイドルのifの未来が垣間見えるパラレルコレクションということで、にちかのifについて期待と不安が膨らみます。早速以下で内容を見ていきましょう。

第1話「風光:may, BE」


 オフィスの置き菓子サービスに従事しているにちかが描かれ、彼女がアイドルを辞めたことが最初に明示されます。少し成長したにちかの声色や喋り方は、はづきに近づいているようにも感じられます。
 にちかはかつてのファンという少女に声をかけられますが人違いだと逃げるように去ってしまいます。彼女は引退を後悔していないと自らに言い、美琴に思いを馳せます。


 飛行機というモチーフはそれ自体が美琴を想起させます。また同時に彼女が今は手の届かない高みにいることも示唆されます。しかし美琴を応援するにちかの言葉からは、アイドル引退は不本意な形ではなく自らの意思で行ったこと、美琴との関係が破綻したわけではないことが伝わります。陶酔でも畏怖でもない応援という姿勢は寂しさを感じる反面、二人の信頼関係が確かにあったことを感じさせます。
 後日ファンの少女に再会するにちか。足を痛めた彼女に思わず駆け寄り絆創膏を渡します。自販機で水を選んだり絆創膏を持ち歩いたり、別に普通のことだと言われればそれまでの描写ですが、何となくアイドル時代の生活がにちかの中に根付いているようにも感じられます。


 にちかはアイドルを夢見る少女に色んな可能性や先のことを考えろと後ろ向きなアドバイスをします。それは自身の経験に由来するものでしょうが、かつて自分が姉から言われたことでもあります。逆に言えば「現実的なアドバイス」程度で夢や憧れは止められないということを彼女は誰よりもよく分かっているはずです。

第2話「選ばれる、とか」


 街中でにちかを見つけるシャニP。二人の会話からはにちかとシャニPの関係も破綻していないことが分かり、前話と併せアイドル引退はあくまでにちか本人の意思に基づくことが推察されます。
 これからオーディションだというシャニPに対してにちかは最初のジャッジはちゃんと行うよう伝えます。彼女はオーディションでもスカウトでもない特殊な方法を経てアイドルになっています。プロデューサーがちゃんと実力や才能をジャッジせずにアイドルになっていいと伝えると、アイドルはその言葉に縋って夢を見続けてしまうのだと自嘲的に言います。アイドルになっても、なれなくても、辞めても、人生は続いていく。それはかつて姉が言っていたこととも重なります。

イベントシナリオ「ノー・カラット」『Ⅶ』より

 だからこそ簡単に夢を預かるのではなく、最初に身の程を知らせるべきだと言いたいのかも知れません。
 そんな彼女に対してシャニPは今もにちかを待っているのだと伝えます。彼は改めてジャッジをしたうえで、にちかをアイドルの道にスカウトします。


 かつては雑踏に埋もれ自ら動かざるを得なかったにちか。今度はシャニPが雑踏の中から彼女をみつけ出しアイドルにスカウトします。美しい逆転の構図です。にちかをスカウトするシャニPというシーンは今回パラレル世界で描きたかったことの一つなのかもしれません。
 誰からも望まれなくても誰よりもアイドルになりたかったにちかは、アイドルとして成長と実績を積み重ね、そして引退しました。今はファンやプロデューサーなど周りの人たちが彼女が再びアイドルになることを望んでいます。

True End「ROOT→×××」


 ROOTは根、根源など(和音の基礎となる根音という訳もシーズらしさがありますが)。×××に入る言葉は何でしょうか。


 我々の知る世界に戻ってきました。カムバックした女優の再現ドラマを演じるにちか。一度は引退した女優、その復帰には傍にいたマネージャーの存在が大きかったようです。女優自身もよく考えて辞めたはずだというにちかの指摘は正しいでしょう。しかし同時にマネージャーは女優の「まだここにいたい」という本心に気付いていたのではないかとするシャニPの考えにも一理あり、にちか自身も理解を示します。
 シャニPは若かりし女優のビッグマウスについても大きな言葉で自分を奮起させたのではないかと推察します。にちかはそんな考えはよくわからないとしつつ、歯切れ悪く言い淀みます。


 にちかとこの女優の考えは違うから、理解していけるように一緒に考えようとシャニPは言います。自分で考えると突っぱねるにちかの「普段通り」な会話の空気感の中コミュが終わります。
 
 パラレルコレクションのTrue Endではありますが最後は現実の世界に帰ってきました。この現実の視点も踏まえ、パラレル世界で描かれたものが何だったのか改めて考えてみたいと思います。
 まずパラレル世界は「にちかがアイドルを辞めた世界」です。これはにちかのifと言われて多くの人が真っ先に思い浮かぶ設定ではないでしょうか。WINGで優勝できなければアイドルを諦めろと言われたところから始まり、その後も彼女は度々追い詰められ、時には自らを傷つけ破滅して全てを終わらせようとさえしました。また彼女が憧れる八雲なみは合わない靴に苦しみアイドルを引退した存在です。にちかの物語とアイドルを辞めることは決して無縁ではなく両者は近くにありました。アイドル引退はそうあって欲しくない未来かもしれませんが、同時ににちかのifの未来で扱うべきテーマの筆頭にも思われます。
 
 パラレルにちかの結末は描かれませんでした。そこで「彼女は再びアイドルになったのか」という疑問が浮かびます。ここには二つの考え方があると思います。一つは描くまでもなく彼女はアイドルに戻ってくるという考えです。作中のパラレルシャニPと共通する考えでもあります。にちかの中にはまだステージに立ちたいという思いが確実に存在しており、彼女を待つ人がいます。そうであるならばいつか必ず彼女は帰って来るはずです。
 もう一つの考え方は、それでもなお彼女には帰って来ない選択肢があるというものです。パラレルにちかは自らの意思に基づき納得のうえで引退したようですが、その「納得」の及ぶ範囲は広いのではないかと感じます。彼女は自分を信じて待つ人がいることも、夢や憧れは簡単に捨てられないことも、よく理解しているように思います。自分の中でくすぶる熱を感じ、信じる人たちの声を聴き、その上でなおアイドルではない道を選んだのかもしれません。
 今回にちかがアイドルを辞めた直接的な理由は言及されておらず、またifの未来のその先までは描かれなかったですが、そのことがパラレル世界の捉え方に幅を持たせているように感じます。
 
 また本コミュにおいて生じる別の疑問が「今回描かれたパラレル世界はあり得ない未来なのか」というものです。
 True Endはある種の「ネタばらし」のようなコミュです。若くして引退しその後カムバックした女優の生き様についてにちかとシャニPがやり取りし、にちかはこの女優とは異なると言います。パラレル世界の展開を他者の話として相対化し、現実世界の視点からにちかの未来はそうならないのだと強調しているようにも見えます。
 しかし本当ににちかはこの女優と違う考えなのでしょうか。大きな言葉で自分を奮い立たせ糧としたという話を聞いて、にちかは「にちかはビッグになるぞ」と叫び合った時の会話を思い起こします。糧とかよく分からないと言いつつどこか歯切れの悪い喋りは、実際には自身にも心当たりがあったことを指し示しているように思われます。2話でも言及されましたが「アイドルになれる」「ビッグになる」そういう言葉ににちかはずっと支えられ、その言葉を糧に自らを奮い立たせてきたのではないでしょうか。それは彼女の根源(root)とも言える決意の言葉なのかもしれません。(ビッグという言葉を伏せ字にした回想シーンの表現なども併せると「ROOT→×××」の×××に入る言葉はBIGではないかと推察されます。)

pSSR【♡まっクろはムウサぎ♡】七草にちか 『家』より


 女優の生き様はにちかにとって決して理解できない他人事ではないように思います。「にちかは絶対にアイドルを辞めたりしない」ということはなく、むしろ引退は常に彼女の近くにある可能性なのかもしれません。
 表題【日々、想】はifのにちかが様々な想いを抱えて生きていることを指しているように思われます。しかし同時に、現実世界のにちかが日々想っていること=このコミュの内容であるという捉え方もできます。本コミュのパラレル世界とは、女優の仕事をきっかけに自らの引退に想い馳せるにちかの内面が描いた、可能性の世界という表現もできるかもしれません。

おわりに


 アイドルがアイドルを辞めた世界とは我々からすれば通常悲劇であり、そんなものは明確に否定すべきなのかもしれません。アイドルゲームで道半ばのアイドルが引退するルートは一般にBAD ENDと呼ばれます。しかし人生はゲームではありません。夢の後も人生は続いていくのです。夢の熱を感じながら折り合いをつけて生きていくかもしれませんし、夢にもう一度手を伸ばすかもしれません。新たな夢を見つけるかもしれません。アイドルを辞めた後も人生は続いていくというテーマは以前からにちかに提示されており、今回パラコレにちかという絶好の機会で実践してみせた形にも見えます。
 本コミュのifにちかは夢を諦めた負い目やくすぶる熱が垣間見えるものの、焦燥感はなくどこか受容的で、BAD ENDとするまでの悲壮感はありません。夢を諦めても人生は続きます。そしてそれはふしあわせな人生とは限らないのです。

イベントシナリオ「モノラル・ダイアローグス」『O』より


 私個人としては、パラレルの世界は何かが狂ってしまった間違った未来というよりは今ある世界の先に充分あり得る可能性の一つとして感じられました。これが正解だとか望ましい未来だとか言う訳ではなく、一人の人生としての説得力を持った内容だと感じました。
 にちかの人間性や環境に寄り添った形でアイドルではない未来を提示することは、彼女の人生が持つ可能性の幅広さを伝えることに繋がります。そしてそのことは、彼女が今アイドルをしている現実をより輝かせてくれるのではないかと思います。


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