「けい」人間賛歌の総まとめレポート
初めまして。
関東で役者をしています、
地域密着型一人演劇ユニット『赤キノコ山と蒸したお酢』代表、
創作広場「けい」作家部・俳優部のオガワジョージです。
今回は create model けい で2022年3月~10月に世田谷区の経堂で開催した、
地域密着型展示会「人間賛歌」の総まとめレポートになります。
人間賛歌の過程や「けい」の記録に興味のある方は下のリンクからご覧になれます。
このnoteマガジンはブランディングの一つとして、地域に向けての活動記録を公開し、経験を共有することを目的に行っています。地域への表現活動に関心のあるクリエイターさんに見ていただけたら嬉しいです。
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はじめに 「人間賛歌」に至った経緯
地域密着型展示会「人間賛歌」を開催するに至った経緯についてです。
活動を開始した2019年から、演劇を”地域に開く”活動がしたいと思っていました。
当時は演劇教育や、演劇を用いた街おこしのような活動を考えていました。
以降の活動で演劇について学び、舞台の現場で経験を積んでいくうちに、
東京の(小劇場)演劇界に“閉じている”印象を持つようになりました。
”閉じている”は「周りとの関わりを断つ壁がある状態」のイメージです。
その状態が演劇界のさまざまな問題とつながっているのではないか、
という問題意識がありました。内容は後ほど記載します。
そして、それらの問題のいくつかは”地域に開く”活動で解決に向かうのではないかと考えていました。
しかし、実際に効果的なのかどうかをさまざまな方の意見を参考にしながら検討したいと感じました。
そこで、2022年2月に(小劇場)演劇界の実態意見交換会をTwitterのスペースにて行いました。
こちらの記事が意見交換会のレポートになります。
実態意見交換会を経て感じたこと、考えたことを実践するために「人間賛歌」を行ってみました。
「人間賛歌」とは何かをステートメントを引用してご説明します。
人間賛歌は「1人の俳優が経堂の人と街とかかわり、長期の滞在制作を行うことで、関係性を深める1年間の過程を見せる企画」としていました。
過程を見せる方法として展示を行ったりレポートを書いたりしました。
レポートには2種類あり、展示の様子を残すイベントレポートと、制作過程を残す制作レポートを書いています。
この総まとめレポートでは、
地域密着型展示会「人間賛歌」のレポートをもとに、
僕が関心のある演劇界の3つの問題を、
”地域に開く”活動で解決に向けられそうか検証していきます。
検証スタート 3つの問題と3つの視点
まず、僕が関心のある3つの問題についてです。
次に、「人間賛歌」が”地域に開く”活動だったかを3つの視点で判断します。
最後に、問題とそれに対応できそうな視点を整理します。
※演劇コミュニティとは、さまざまな表現をするコミュニティ(人の集まり)のうちの一つです。他には、音楽・映像・美術などなどがあります。
演劇コミュニティ内部にいる、演劇に関わっている人たち(観劇者を含む)を「演劇人」とします。
「人間賛歌」を3つの視点で眺めて、”地域に開く”活動だったと言えたら、
3つの問題の解決に取り組めていたと考えられる気がします。
どうしてそれぞれの問題と視点を対応させたのか、考えていきます。
「お金の巡りが悪く、助成金に頼らないと創作ができない」
現在の演劇コミュニティは、演劇人でお金を巡らせている状況だと考えています。
演劇人が自分たちのお金で作った演劇を、演劇人が観る状況です。
助成金に頼って演劇を作ったりもしますが、申請が通らない劇団は難しく、自分たちの収入・実績がそもそも少ない若手はさらに難しいです。
その状況は「コミュニティ外からお金を払ってくれる人(新規客層)」を創れたら改善できそうな気がします。
そのため、イベント情報をPRするときはコミュニティ外に届くようにする必要があります。(1の視点)
しかし、仮に情報を届けられたとしても、「コミュニティ外の人」たちにとって関心が薄いイベント内容だったら観に来ない可能性が高いと思います。
僕の場合の「コミュニティ外の人」は「演劇にあまりふれたことがない地域の人」です。
そのため、地域の人や街といった身近な題材から、ならではの制作を行う必要があります。(2の視点)
「つながりが弱く、情報を得られない」「ハラスメントが起きやすい場になっている」
演劇コミュニティは、内部にも外部にもつながりが弱い状況だと考えます。
1の視点とも重なりますが、情報の巡りが限定されているように思います。
例えば、演劇コミュニティでよく使われているSNSはTwitterです。
Twitterは基本的にフォロワーへ情報が届きます。
フォロワーが演劇人だけだと、内部で情報が止まります。
フォロワーの中にいる、
「演劇コミュニティ外の人」
「コミュニティをまたいで活動している人」
がRTをしてくれたら、
その人たちの表現分野のフォロワーに情報を届けられそうです。
※Twitterの仕様変更で、フォロワーにも情報が届きにくくなったようです。
※ハッシュタグは外部に情報を届ける手段になりそうです。
※Instagramなど他のSNSについては、この検証では省きます。
しかし、個々人の内外へのつながりが弱い(若手はなおさら弱い)ため、
そういった人ともつながりにくい感じがします。
逆もしかりで、外部からの情報も入りにくいです。
原因は、演劇コミュニティ内の人たちが普段関わり合う場が舞台現場だからだと思います。
現場には基本的に「コミュニティ外の人」はおらず、作る側の演劇人で固まっています。
その状況は、演劇人が率先して外部の人たちと関わる場を作り、外とつながらないと改善されません。
ハラスメントも同様で、現場は演劇人が多く集まる”閉じられた”場です。
「第三者(外部の人)がいない状況」は、場のバランスに偏りが生まれて状況を俯瞰しにくく、ハラスメントが起きやすいと考えます。
僕の場合の「現場」は「地域の場所」で、「第三者」は「地域の人」です。
地域の人という第三者の目や関心に常にふれるような状況を作れたら、
ハラスメントを起こす可能性を予防できそうです。
そのため、演劇コミュニティ外の地域の人と持続的に関わる場が必要になります。(3の視点)
こじつけっぽい部分もありますが、
3つの問題と視点の対応のさせ方について書きました。
この部分がそもそもズレている場合は検証ができないと思うので、
ズレを感じた方がいましたらぜひご指摘ください…!
企画書作成から各4回の開催で感じたことや得られた結果を見ていきます。
第0場 企画書作成
企画書作成は、実態意見交換会でお知り合いになったプロデューサーの方や、広報の方にご協力いただいていました。
それぞれの場ごとに、展示目的や内容、展示を経てどうなってほしいかのビジョンなどを整理していきました。
この整理の作業が、地域の人にどのようにイベント情報を伝えたら良いか、どんな制作を行えばよいかなど、今後の活動を考える上での土台になったように感じます。
(1の視点)(2の視点)
企画書にはPRを考える上で必要な「メインターゲット」は書いていませんでしたが、それぞれの場の制作準備をするうちに自然と届けたいターゲットが定まっていきました。
第1場「人」
企画書の学びで得たことからブラッシュアップを行いました。
PR戦略シートを作成して、事前に想定していた第1場「人」の企画書の内容を変更していきました。
テーマが「自己紹介」となり、メインターゲットは「僕のことを知らない地域の方」となりました。
僕のことを知ってもらうように、フライヤーには僕の地元の写真を用いました。
そのフライヤーを経堂地域の掲示板に掲載したり、経堂経済新聞さん、Yahoo!ニュースに掲載していただき、地域の方々の目にふれるようにできたと思います。
地域の掲示板を見ていらした方が2名いらっしゃいました。
(1の視点)
開催場所の経堂アトリエさんのイベントにいらした、演劇コミュニティ外の方々とも交流ができ、関係性を始めることができました。
そのうち、3名の方に「人間賛歌」の朗読上演に足を運んでいただくことができました。
(3の視点)
展示内容はオガワ関係のものがメインでしたが、経堂アトリエの代表の方にインタビューを行い、経堂アトリエを紹介しました。
(2の視点)
第2場「間」
第1場「人」の制作中に感じたこと、制作の学びで得たものから企画書のブラッシュアップを行いました。
テーマが「(心の)距離を測る」となり、メインターゲットは「経堂をあまり知らない方」となりました。
考えていたワーク内容と絡めるために、フライヤーには経堂アトリエさんが写っている写真を用いました。
フライヤーは地域の掲示板、経堂経済新聞さん、Yahoo!ニュースに掲載され、第2場も地域の方々の目にふれるようにできたと思います。
地域の掲示板を見ていらした方が1名いらっしゃいました。
(1の視点)
第2場では経堂アトリエさんのイベントはありませんでした。
しかし、第1場に来てくださった方々や、Twitterの宣伝から企画内容に興味を持ったという面識のない方、関心があると体験しに来てくれたコミュニティ外部の友人などと関わることができました。
(3の視点)
ワーク内容は、経堂アトリエから4つの場所に向かって、お客様自身に街を「たんけん」してもらうワークでした。
そこでそれぞれの場所について創作した短編のお話「しおり」を読み、食事などをして、帰ってきてもらいました。
朗読は経堂アトリエ内で「しおり」を朗読しました。
(2の視点)
第3場「賛」
第2場「間」の制作中に感じたこと、向き合うことの学びで得たものから企画書のブラッシュアップを行いました。
テーマは「思いを馳せる」として、メインターゲットは「オガワと面識のある方、関係者の方」としました。
考えていたワーク内容と絡めるために、お盆の季節感がある写真を用いました。
第3場はスケジュールの都合により、地域の掲示板にのみフライヤーを掲載していただきました。
地域の掲示板による宣伝効果はありませんでした。
(1の視点)
第3場でも経堂アトリエさんのイベントはありませんでした。
しかし、Twitterによる宣伝や個別の声かけにより、オガワと面識のある方々と主に関わることができました。コミュニティ内部ではありますが、お連れ様の中に初めて出会う方もいました。
(3の視点)
ワーク内容は「大切な人・もの」についての哲学対話でした。対話の場として経堂アトリエ内のカフェスペースを使わせていただきました。
経堂アトリエさんの雰囲気ならではの空気感になっていたように思います。
しかし、ワーク内容自体はどんな空間でも一応可能なものでした。
(2の視点)
第4場「歌」
第3場「賛」の制作中に感じたこと、バランス感覚の学びで得たものから企画書のブラッシュアップを行いました。
テーマは「想いを伝える」として、メインターゲットは「人間賛歌の企画に興味を持ってくださっている方」でした。
考えていた上演内容と絡めるために、経堂アトリエさんの屋上の写真を用いました。
第4場もスケジュールの都合により、地域の掲示板のみフライヤーを掲載していただきました。
地域の掲示板を見ていらした方が1名いらっしゃいました。
(1の視点)
第4場では経堂アトリエさんのイベントがあり、多くの方とお話することができました。イベント目当てでいらしていた方が1名、朗読上演に足を運んでくださいました。
また、以前からお付き合いのある演劇コミュニティ内外の友人や知人に声かけを行い、イベント目当てでいらしていた方々との交流があったりしました。
さらに、第1場で地域の掲示板を見ていらした方が再度ご来場くださいました。
(3の視点)
朗読上演は、屋上で経堂の景色を眺めながらの上演となりました。
テキストの内容も、これまでの人間賛歌の流れを汲んだ内容となり、
経堂での長期制作を経た「ならでは」の上演になったように思います。
(2の視点)
検証結果
3つの問題と3つの視点を対応させたものを再褐します。
1の視点と2の視点より
(1の視点)は「演劇にあまりふれたことのない地域の人」に向けた、
地域の掲示板や経堂経済新聞さんによる宣伝効果を見てきました。
効果があるときとないときがありましたが、少なくとも効果があり、演劇コミュニティ外の地域の人の創客につながることが分かりました。
ちなみに「演劇コミュニティ外の地域の人」から「他の表現コミュニティの人」にターゲットをズラして考えてみても、創客につながったと言える結果となりました。
お金の巡りを改善できたと言えるほどの収支はありませんでしたが、
「コミュニティ外からお金を払ってくれる人(新規客層)」はわずかながら得られたように思います。
(2の視点)は経堂の人と街ならではの制作ができていたかを見てきました。「演劇にあまりふれたことのない地域の人」の”関心を高める題材”となっていたら達成です。
しかし、地域の方々が掲示板を見た段階で、”制作内容に関心を持って”足を運ばれたのかが具体的には分からないため、いただいた感想から推察していきます。
ざっくりと、
「地域の場所でやっている表現系のイベントだから」
「演劇に関することだから」
の2つでしょうか。
制作内容よりも「地域の場所」が”関心を高める題材”になっているのではないかと考えられました。
3の視点より
(3の視点)は、「地域の場所」である経堂アトリエさんで、「演劇にあまりふれたことのない地域の人・コミュニティ外の人(第三者)」と交流し、関係性を作っていけたかを見てきました。
持続的な関係性を保つ場となり、それぞれのコミュニティの情報が行き来し、ハラスメントの予防につながれば達成です。
第1場~4場の間でメインターゲットのばらつきがあったため、
すべての場で「地域の人・コミュニティ外の人(第三者)」と関係性を作れたとは言えませんでした。
しかし、「地域の場所」で長期制作を行えたことが大きかったです。
すでにつながった「地域の人・コミュニティ内外の人」との持続的な関係性を保つ場は作れたように思います。
それぞれのコミュニティの情報もある程度行き来している状態です。
ネット上では各種SNSのつながりから、情報の行き来が可能になりました。
アナログ面でも経堂アトリエさんにフライヤーを置かせていただくなど、
広報できる範囲の幅が広がったように思います。
ハラスメントの予防につながるかは個人的な感覚になってしまいますが、「問題を起こせば、信頼を大きく損なう」ことをより強く感じています。
2月のときと比べて、人とのつながりが増え、関係性が深まりました。
大切な人や場所、過ごした時間、今後の活動への責任感を感じるようになりました。
人間賛歌のレポートをもとにした検証は以上になります。検証の結果は、
”地域に開く”活動は演劇界の3つの問題を解決に向けられる方法として、
「(場所によっては)効果的だと言える」
としたいです。
検証をしてみて「人間賛歌」の活動例は、最初から活動がしやすかったケースのように思いました。
”地域に開く”活動のケース
「人間賛歌」の場合は、
・経堂でパフォーマンスの経験があり、少なからず縁があった
・経堂の地域を良く知っている方(道案内人)と初めから知り合っていた
・経堂アトリエさんがそもそも”開かれた”場所で、さまざまなコミュニティの方が出入りしていた
・経堂という街・住んでいる人の地域性に支えられていた
ケースかなと思いました。
最初から僕が経堂に入っていきやすいつながりができており、地域を良く知っている方にたくさんの方々をご紹介していただいていました。
そのご縁でつながった方々が企画にご協力してくださったりもしました。
経堂アトリエさん自体もさまざまなイベントを企画・運営されており、幅広い年齢層の方が出入りしています。
この「来るもの拒まず」のような経堂の地域性にとても良い影響を受けていたと思います。
やっぱり別の場所で”地域に開く”活動を行うとしたら、その場所ごとのケースがありそうです。
※実態意見交換会の3日目に、すでにこのお話が出ていました。
今後も「人間賛歌」の活動を行うとしたら、まったくつながりのない場所ではなく、つながりのある場所を転々と巡るようにして活動するのが良いのかなと考えています。
動員数・収支など
今後のために、ざっくりとでも動員数や収支などのデータをまとめようと思います。
動員数(アンケート回答者)
第1場「人」 13名
第2場「間」 12名
第3場「賛」 9名
第4場「歌」 13名
計 47名
※同一含む
※アンケート未回答かつワーク・朗読参加で約50名
収支
第1場「人」 支出 約40,000円 収入 7,500円
第2場「間」 支出 約57,500円 収入 7,000円
第3場「賛」 支出 約37,700円 収入 4,800円
第4場「歌」 支出 約33,000円 収入 6,000円
総支出 約168,200円 総収入 25,300円(-約142,900円)
※25,300円÷50名=一人当たりの単価506円
年齢層
20代 16名
30代 6名
40代 1名
50代 6名
60代 3名
70代 1名
未回答 2名
計 35名
※同一除く
住んでいる地域
東京都 23名(うち世田谷区 7名)
埼玉県 6名
神奈川県 5名
青森県 1名
イベントを何で知ったか
関係者から 20名
Twitter 9名
掲示板 3名
その他(本人、アトリエHPから) 5名
※複数回答あり
リピーター
演劇コミュニティ内 5名
演劇コミュニティ外 6名
総まとめ
このレポートでやっとこ「人間賛歌」が終わりになります。
2月の(小劇場)演劇界の実態意見交換会で、地域に向けた活動について他の方々が仰っていたことを、自分で体感していくような期間でした。
規模感的には舞台公演と比べてとてもとても小さなイベントでしたが、
本当に色々な方の手をお借りしてやり切れたように思います。
自分だけで制作を行っているときはとても寂しく、本当に意味がある活動なのかと不安にもなりましたが、周りの気にかけてくださる方々のおかげで、何とか走り切れました。
本当に、本当にありがとうございました!
制作面で自分がやりたかったことは、すべてやり尽くしたように思います。
やり尽くして、まだまだ足りない部分がたくさんあるなと感じます。
場の作り方しかり、ファシリテートしかり。
レポートもなんだか長いし、文体も固いし、学びが足りず自分では語り切れないところもありました。
これからも反省を活かし、進んでいきます。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!