「けい」(小劇場)演劇界の実態意見交換会 レポート
初めまして。
関東で役者をしています、
地域密着型一人演劇ユニット『赤キノコ山と蒸したお酢』代表、
創作広場「けい」作家部・俳優部のオガワジョージです。
今回はcreate model けい が今後のための調査として、2022年2月21日(月)~2月23日(水)にTwitterのスペースで行った、
【(小劇場)演劇界の実態意見交換会】のレポートです。
本編と3日分の会話ログの計4つに分割して書きました。
けいの詳しい情報は下記のリンクから閲覧できます。
(レポートは2月当時のツイートを引用しながら進みます。今と考え方の変化があったりします)
(小劇場)演劇界の実態意見交換会を簡単にまとめるとこんな会です。
本編では、スペースの録音から得たことをこのようにまとめていきます。
長くなりますので、目次を活用しながらご覧いただけたらと思います。
よろしくお願いいたします!
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0.どうして意見交換会をする必要があったか。
create model けい でオガワは「演劇を開いていく活動」を行います。
2022年の1~2月は「演劇を地域に開いていく創作企画」を実践する企画書を作成していました。地域密着型展示会「人間賛歌」という企画です。以下のnoteで企画書の第3稿を見れます。その後、この企画書の内容を変更、実践、改善しながら全8つのレポートを作成しました。
マガジンから読めますので、ご興味ありましたらご一読ください。
この記事の【なぜこの企画をやるのか】の部分ではこのように書いていました。
それを見た友人が「この企画は、ジョージの問題意識を解決するための企画として適切なのか」を聞いてくれました。
そのとき、僕個人の感覚で”閉じた業界”だと感じていたけど他の演劇人はどう思っているのかがとても気になりました。また、演劇界の全体像を把握していないまま”閉じた業界”だと決めつけるのはどうなんだろう…という考えになりました。そこから、企画書を練るために、実態を調査する必要が出てきたため、意見交換会をしました。
ちなみに、”閉じている”と”開いている”の言葉は役者のお芝居をするときの感覚から来ています。
という感じです。演劇界隈の外側(他の業界、一般社会、地域)まで、演劇を届けようとしているかどうかに引っかかっています。(2022年2月当時)
2022年11月現在は少し異なっており、壁のイメージを持っています。
です。
また、「界隈」という言葉についてふれておきます。
今までは演劇「界隈」という言葉を使ってきましたが、「コミュニティ」に変更しました。
「界隈」では「そのあたり一帯のエリア」のような意味合いになって、人がいることをあまり感じられないなと思ったためです。
以降は「コミュニティ」で説明していきます。
1.僕の問題意識・実態のイメージ共有。
オガワが演劇界のどの部分を”閉じている”と感じるのかをできる限り言葉に当てはめてみました。以下、灰色の枠の部分は2月にツイートした内容になります。
まとめると、
(小劇場)演劇界は”壁”があり、コミュニティの外から様子が分からない。
コミュニティの内にいる個人・劇団・劇場もそれぞれ”壁”がある。
”壁”があるから、以下の問題があるのではないか。
・つながりが弱く、情報を得られない。
・ハラスメントが起きやすい場になっている。
・お金の巡りが悪く、助成金に頼らないと創作ができない。
という感じでしょうか。
この問題意識をもとに、”壁をなくす”ための解決策を考えていました。
壁を壊し、コミュニティの外へ向ける活動をすることで、このような問題は解決に向かいやすいのではないかと思いました。
これを実態意見交換会のたたき台にする予定でした。
オガワのような問題意識をどのくらいの方が感じているのか、アンケートも取っていました。
21日~23日の間で3日間アンケートを取り、リアルタイムで更新されていきました。
初日から”閉じていると感じる”は高く、”開いていると感じる”は低かったです。また、僕の言葉がつたなかったのもあって”問題意識が伝わらない”が2番目に高かったです。
ちなみに、僕自身は”徐々に開きつつあると感じる”の立場です。
そして、この実態意見交換会を開いた理由を載せていました。
オガワは”壁をなくす”ために「地域に向けた演劇活動の公開・共有」をしようとしていました。
しかし、本当に”壁”があり、個人的に感じていることが問題になっているのか分かりませんでした。
きちんと調べたうえで問題解決の方法を考えようと思い、実施しました。
ここから1日目がスタートしました。
2.話された内容の整理、実態の把握。
ここでは1日目~3日目の会話ログでまとめた内容を掲載します。
会話ログのリンクも載せますので、ぜひそちらもご参照ください。
1日目 まとめ
演劇コミュニティ内の人は外に向けてアプローチするための力・観点・余裕がない。(企画書作成、マーケティングの観点、自団体の制作で忙しいなどから)
コミュニティ内の縦・横・後ろの人たちとつながるための導線があまりなく、コミュニティ外の人とつながる導線もない。(合同劇団説明会、一般人に向けた演劇ジャーナリズム、ポータルサイトなどから)
演劇コミュニティ内でも分かたれており、視点の違いがある。
「演劇」を語るには、全体を俯瞰する視点が必要。
演劇コミュニティ以外の表現分野でも、同じようなことが起きているらしい。
さらに言えば、”社会に開いていく”ためには「演劇」ないし「表現」のコミュニティ全体を俯瞰して見る必要がありそう。
”社会に開いていく”活動は、やりようによってはいくらでもありそう。
いくらでもあるが、それまでの道のりがやはり共有されていない。
”閉じている”と感じる人たちが集まり、俯瞰した視点でお互いに情報交換ができる場が必要。
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1日目だけでも、かなり参考になる意見をたくさんいただけたという印象です。特に「演劇」コミュニティの外側にいる、「他の表現(美術)」コミュニティの方にご意見をいただけたことが大きかったです。
2回目、3回目と意見交換会を続けていくとしたら、コミュニティをまたいだ”開かれた場”になった方が良いと感じました。
また、「演劇」コミュニティの内側にいる、観劇者の方にもご意見をいただけたことが良かったです。
作る側と観る側のコミュニケーションの場は、コロナ禍ではほとんどなくなってしまったように思います。
今までは舞台終演後に、劇場のロビーでお互いに話す時間がありました。
そのような、コミュニティ内の人たちとも話し合える場がもっとあっても良いと感じました。
僕の考えていた問題意識、解決策と照らし合わせてみます。
稽古場が原因でハラスメントにつながりやすいという考えについては、
参考になる部分はやり取りの中であまりなかったように感じます。
コミュニティ内でつながりが弱く情報が得られないという考えについては、
惑星詩人協会さんや演カツといった場のような、つながりをもてる場をつくることで解決に向かうのではないかと感じました。
お金の巡りが悪く助成金に頼らないと創作できないという考えについては、
マーケティングの知識を学んだり、地域や会社などに向けた活動をすることで創客の幅を広げていくことが必要だと感じました。
それが結果的にお金の巡りを改善し、助成金に頼らない経済の仕組みを形づくるのかなと思います。
2日目 まとめ
【ログの2本目について】
劇団側の制作面の考え方(予算組みの方法、キャスティング、物販)から、現在の小劇場興行の在り方が垣間見えた。
その在り方の背景には音楽界のアイドル興行の考え方があり、観る側⇔作る側の関係性において「観る/観られる」ではなく「応援する/される」になっている。
観る側は「お芝居を観たい」が作る側は「応援されたい」と考えている。
”応援される方法として演劇をしている層”が演劇コミュニティ内にあるのではないか。
劇団や俳優は「応援してくれるよね」という強い立場をとることもあり、「応援する/される」のバランスが崩れることで問題が起きる。
アイドル興行を行っている劇団が収益化できているという結果もある。
金銭的に余裕のある観客がファンについているという結果でもあり、未経験者や初心者がアイドル興行を行う劇団にハマると危ういのではないか。
「お芝居をやりたい/お芝居を観たい」「応援してもらいたい/応援したい」など、それぞれが持つ別々のニーズをきちんとすり合わせられる仕組みや導線を設けたら良いのではないか。
(リーグ制区分、ジャーナリズム、Webサイトなど)
互いにすり合わせられない現状が”閉じている”ということではないか。
相手に意識を向け、すり合わせようと働きかける力がないのではないか。
働きかける力を磨くときに必要なのが、マーケティングやPRの視点ではないか。
【ログの1本目について】
1本目では、オガワが考えていた企画の検討作業があった。
2本目での流れにつなげると、
オガワは「演劇を身近な文化にしたい」というニーズを「地域の一般人」とすり合わせるための仕組みや導線を整えようとしていると感じた。
しかし現状では、すり合わせる「地域の一般人側からのニーズ」が分からないため、調査を重ねて実践を行っていくべきだ。
そのすり合わせがきっと、壁をなくして”開いていく”力のひとつなのではないか。
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2日目は演劇コミュニティ内部での意見交換になった印象です。
当時は後半部の会話をどうまとめるか考えながら聞いていました。
しかし、現在の自分が振り返ってまとめてみると”開く”と”閉じる”の中身につながる内容だったと感じました。
個人的には、この辺りの言葉が良いなと思いました。
「作り手側のやりたいこと観る側の求めているものが一致していない」
「パフォーマンスを観てもらいたいのか、自分たちをマネタイズしたいのか分からなくなる」
興行についてのお話と絡めると「やりたいこと」の中身が複雑に思います。
この一連のお話で考えたのは、”観る=応援する”ではないから、すり合わせが必要なんだということでした。
観客として、僕自身も応援のために観ることもありますが、確かに面白さを求めて観ることもあると思いました。
劇団によってはどちらの気持ちも持って観ることもあるため、こちらも複雑に思います。
また、俳優として客演するときや自身のユニットの活動で宣伝するときは、
応援してほしいという気持ちも混ざっています。
複雑なニーズのすり合わせを行っていくとき、
おそらく、どんな姿勢ですり合わせようとするかが大切な気がしました。
1本目でお話にあがった姿勢がとても参考になります。
これは地域の人たちとすり合わせるための働きかけでした。
また、社会派のテーマを扱った作品を新聞に取り上げてもらおうと、広報に力を入れて、多くの人の目に触れようとすることも働きかけな気がします。
演劇コミュニティの人たちだけでなく、社会の人たちのニーズ(隠された声)にも応えようとしているのではないかと感じました。
3日目 まとめ
2日目同様、3日目も演劇コミュニティ内での意見交換になった印象です。
3日目はコミュニティ内にいる方々の具体的な実践例を聞けたと感じます。
1本目は、演劇コミュニティ外に”開いていく”活動の実践例。
2本目は、演劇コミュニティ内のさらに小さなコミュニティ「劇団・会社」の運営についての実践例でした。
個人的に、そういった活動例を行うときの前提にある(と思われる)、
問題意識や実態がちょっと透けて見えたようにも感じました。
現在の劇団の実態や、ジェンダーへの考え方、ハラスメントについてです。
僕自身がまだまだそれらについて知らないことがたくさんあったため、このようにさまざまな意見を聞くことができてとても良かったです。
これらの意見を全体的な意見だと短絡的にまとめるのは違うと思いますが、何も知らなかった演劇界の側面を捉えられたように感じました。
もやもやっとしていた部分が少し明るくなった印象です。
2本目後半のこの辺りの言葉がとても良かったなと思います。
「私の事例ですが、コミュニティの中で褒める文化を作った」
「ナチュラルに『良いね』と言える環境は意見も言いやすい」
「普段から言い合うと壊れない信頼関係ができる」
「オガワさんがやりたいようなコミュニケーションの環境を作るのが大事」
個人的に、褒める文化のある劇団や舞台の現場をあまり知りません。
さらに言うと「真剣さ」もありながら「褒める文化」があるところです。
おそらく「真剣さ」が一方的になるとハラスメントになると感じます。
劇団でいうと主宰→劇団員、現場でいうと演出→俳優・スタッフという構図です。先の言葉からは「双方向のコミュニケーションが常にされている場」があると感じました。きっと「真剣さ」があっても一方的にならずに済むのではないかと思います。
ログの発言を参考に、
主宰目線で集団立ち上げ→持続的な集団経営に至るまでに発生しそうな、問題と解決策を段階ごとにざっくりとまとめていきます。
少しずつ問題を解決し、「双方向コミュニケーションの場」を作っていきたいです。
主宰が考えている活動の規模感によって、集団の規模も変わるように考えました。
さらに、集団を法人化するかどうかで段階の区分や問題、解決方法に違いが出てくるかと思います。
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演劇を”開いていく”活動もそうですが、”開いた”あとこそ重要で、開いた先にいるコミュニティ内外の人たちとコミュニケーションをずっと図り続け、双方向で関係性をより良くし続けるのが大切だとも感じました。
2日目では”開いていく”力のひとつに「すり合わせること」があるのではと書いていましたが、「すり合わせ」は一方的にはできず、お互いがやろうとして初めてできるものだと、ふと思いました。
そして「すり合わせ」ができる関係性は、お互いをある程度知っている、知るために相手のことを学んでいる、信頼のある関係性だとも思いました。
演劇コミュニティの内外で「すり合わせ」がちゃんと行えたら、きっとより良くなれるのではないかと思います。
3.最初の問題意識・イメージがどう変わったか。
僕の問題意識と、問題だと考えていたことを再褐します。
アンケートの結果や会話の内容も合わせて考えると、
(小劇場)演劇界は”閉じた”業界だというイメージは変わりませんでした。
僕の”徐々に開きつつある”という立場も変わりませんでした。
他の表現分野でも、さらに言うと一般社会の集団・会社などでも”閉じている”ことで生まれている問題はあると分かりました。
興味のある問題として挙げていた3つの事柄も、解決できそうな方法を知れました。あとはそれを学びながら実践していくだけです。
さまざまな立場の方からお話を聞くことができ、(小劇場)演劇界の具体的な中身・実態がわずかながら知れたように思います。
自分の立っている場所からは見えなかった業界の全体像がぼんやりと浮かんできたようです。
演劇界のことを”開いていく”ためには、よく知っていないといけないと思います。知っていれば、きちんと自分の言葉で語ることができるはずです。
語るために、自分の立場から見える景色をより鮮明に見ることが必要です。
見た景色を他の人と「すり合わせる」ことで、また少し景色が広がる気がします。
もっと内側と外側から、角度を変えてながら、さまざまな人と話していくことが必要だと感じました。
会話に参加してくださった方々/聞きにいらした方々の問題意識は、まったく同じなわけではなく、具体的なところでは別々だと考えたいです。
別々だと考えて初めて「すり合わせる」意識が生まれる気がしていて、大切に思える気がします。
その意識があればどんなことでも相手を無視せず、「相手を知ろう」と思えるはずです。
「すり合わせよう」「相手を知ろう」の意識を持つ人は学ぼうとするはずだし、学んでいれば少なくともハラスメントの問題は起きにくい、と思いたいです。
2022年2月~11月現在で(小劇場)演劇界が変わったところというと、ハラスメントの告発がいくつもあったことです。
2月以前にも告発はあったように思いますが、被害者の方々に連帯し、非当事者の間にハラスメントを許さない・防ごうとする雰囲気ができつつあると感じます。
僕はハラスメント講習を受けたことが、今までを振り返るきっかけになりました。ハラスメントを受けていたんだと感じる場面や、していたと感じる場面、無意識にも加担してしまっていた場面が、いくつも思い当たりました。
ハラスメントを起こさない、起こさせない、無視せずに「ダメだ」と堂々と指摘するために学んでいきます。
個人的な意識の面での変化がありました。
4.解決方法として効果的かを考えた結果の共有。
僕がやっていきたいことは「演劇を開いていく活動」でした。
オガワにはいくつか考えている「演劇を開いていく活動」があります。
そのうちの「地域に向けた演劇活動の公開・共有」が、以下の問題の解決方法として効果的かを検討しようとしていました。
今のところ、イメージ上での結論は「効果的だと言える」です。
本当に「効果的だと言える」かどうかは、実践の結果次第です。
2日目の会話ログにも取り上げられた「地域に”開かれた演劇”」は、
2022年3月~10月に世田谷区の経堂の街で行うことができました。
地域密着型展示会「人間賛歌」というタイトルです。
こちらのレポートは企画段階のものと合わせて9つあります。
実践結果は「人間賛歌の総まとめレポート」として投稿いたします。
経堂の人や街と、僕自身を「すり合わせ」ながら、
制作過程→実践→振り返り→改善の記録ができたように思います。
もちろん良かったところも反省点もたくさんあります。
そちらもご興味ありましたらぜひご参照ください。
最後に
このような形でレポートにまとめることができてとても良かったです。
会話ログを残して共有することで、その場に集まった人たちのみでの共有で終わることなく、より広く内容を伝えられる気がします。
この実態意見交換会も、演劇コミュニティ内に向けた活動ではあるものの、
さまざまな方が出入りできる”開いていく活動”であったように思います。
実際に意見を交換して、あらゆる実態を知り、解決策を考えることができました。
まだ実践は浅いですが、今後も演劇を”開いていく”活動ができたらと考えています。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!