情報メディア創成学類から情報学学位プログラムに飛び入学してみる【徹底解説】
はじめに
日本ではいわゆる飛び入学や飛び級と言われるようなシステムはあまり一般的とは言えません。特に義務教育段階での制度はないため、海外の天才のように9歳で大学進学のようなことは国内では考えにくいです。しかし、高校になると限定的ではありますが、高校二年次終了からの飛び入学の制度がある大学も存在します。そして大学から大学院への制度を設けている大学院はさらに多いです。この記事では実際に情報メディア創成学類 (mast) から飛び入学で院進予定の筆者が、mastから院進する2大コースの1つである筑波大学大学院人間総合科学学術院人間総合科学研究群情報学学位プログラムを例にとり紹介します。
筆者環境について
院試要件の話が色々出てくるので先に筆者の出願に関わる書面上の情報をまとめます。再現環境を作るときの参考にしてみてください。
1年次: 総合学域群第3類 -> 2, 3年次: mast -> 2024年度: 情報学学位プログラム入学予定。
研究経験は、研究者体験プログラム (ARE) で1年次より研究経験あり。
2年次に国際学会SIGGRAPH Asia 2022のポスター発表1件。
2年次終了時 (=出願時に使用) のGPA=4.03/4.3
院試用のTOEIC公開テストは790点。
飛び入学の分類
あまり知られていないですが、飛び入学時のパターンとしては実は2種類あります (重要) 。
早期卒業+院進
こちらは比較的よく知られている手法です。3年次で卒業研究を行い、3年で卒業して大学院に進む方法です。この基準は履修要覧に収録されている情報学群履修細則の第7条内に記載がありますのでこれを満たす必要があります。情報学群3学類で別々の基準となっていますが、mastが一番厳しいです。
平たく言えば9割Aが要ります。大変厳しいです。私は満たせませんでした。ところでこの条文、多くの人には問題ないのですが、一部の人には曖昧性が残る内容となっていることにお気づきでしょうか。その一部の人とは「総合学域群出身者を中心として、基礎科目-関連科目 (いわゆる自由単) の修得数が卒業の要件として認められる単位数を超えている人」です。この場合、修得した自由単のどの部分を卒業の要件として採用するかにより結果が変わってきます (個人的にはGPAにも参入されない自由単が要件の足を引っ張るのは違和感があるので成績の良い方から採用すべきと思います) 。「全単位の90%なんじゃないの?」という考え方もあるかと思いますが、その場合は「履修申請を行った全科目の~」という表現が別の所で使われているため、別の表現となるのは不自然です。
なので、こちらの基準を目指す人は事前に教務に確認したほうがよいと思います。
資格審査を経て院試合格
さて、早期卒業の基準は大変厳しいので、満たそうと思っても簡単に満たせるものではありません。しかし、他に飛び入学の方法がないか、というと実はあります。卒業要件なんて無視して大学院に合格すればいいのです。
ということで、大学院の出願要件を見てみましょう。
まず、どんなに成績が良くても3年生は推薦入試に出願することができません。推薦入試に出願するためには年度末に卒業見込みであることが必要だからです。よって必然的に一般入試に申し込む必要があります。
全体の出願要件は以下です。
見た感じ22歳に達していないと出願できないのですが、その他を確認すると、資格審査に通れば院試に出願できる人が書いてあります。
(2) にありました。では次に、本学の大学院の定める所定の単位を優秀な成績で修得したと認めた者の基準はどこにあるのでしょうか。これは、同ページ内にはなく非常にわかりにくいですが、大学院全体の出願資格審査のページの「表2 申請に必要な書類」内のpdfの下の方にあります (申請の基準が申請に必要な書類の場所にあるとか見落としやすすぎる) 。これを見ると
これ、ほぼ誰でも満たしてない?
まさかの成績基準はなし、そして100単位修得は4年次へ進む要件ですから、無事4年生になれる見込みのある人なら誰でも資格審査に出願する権利があるということです。ただし、あくまでも出願する権利があるだけで、通るとは限りません。表向き成績基準はありませんが、成績が低いと普通に落ちます (n=2) 。ラインがどこにあるのかはケースが少なすぎて不明です。
学位について
早期卒業者は言うまでもなく学類を卒業するので筑波大学から学士の学位を授与されます。
一方で資格審査で合格した場合は、筑波大学を退学して大学院に進むため、筑波大学からは学位がもらえません。しかし、学士の学位はあとから回収する手段があります。学位授与機構のpdfによると、大学院飛び入学者は「大学の学生として2年以上在学し62単位以上を修得した者」の基礎資格があり、「その学部に在学した期間および修得した単位を含めて4年以上にわたって授業科目を履修し,124単位以上を修得」することで学位授与機構に出願することができます。細かい条件等ありますが、あとはレポートと試験に合格すると学士の学位を授与されます。ここで重要なのは、学位授与機構で認められる単位には大学院のものも含まれるということです。なので飛び入学すると修士1年の年度末に4年以上にわたって授業科目を履修したというフラグが立つので無事学士を回収することができます。もちろん学士がないことを気にしなければそもそも懸念材料がありません。
実際にやってみよう
書類をよく読む: 前提
これまでかいつまんで話してきましたが、この時点でかなり大量の文章を読む必要があります。制度や要件をしっかり理解しておきましょう。正直言って、出願資格審査に至るまでの中ではこれが最も大変で、そこでふるいにかけているのかもしれません。
TOEIC公開テスト: ~6月末(申し込みは~5月)
意外と忘れるのがこれ。出願資格審査に通ってからでは遅いです。
本試の出願時に提出するか、面接試験前に送るかのどちらかです。ゆえに、最終は7月のTOEICでも間に合うかもしれませんが、ゆとりを持つに越したことはないです。2023年度はたまたま6月に2回あったので私はそこで回収しました。スコアは685、790でした。公開テストはIPテストより遥かに難しいので油断しないようにしておきましょう。
出願資格審査: 6月末
出願資格審査のページよく読んでその通りに進めましょう。今年度締め切りは7/3でした。ちなみに、無料なので出願資格審査に出すだけならどのような結果になろうと損はしません(TOEICの受験費用を除く)。
注意としては、以下に記載されているもののほかに前述のわかりにくいpdf記載の「単位修得(見込み)証明書」が必要です。筑波大学ではそのような書類は発行していないのでtwinsのスクショを提出しましょう。
以下いくらかの注意事項です。
(ア)出願者調書は配布様式が「別途様式1」「別途様式2」と分かれています。別途様式2に飛び級という表示があるので一瞬そっちを記入するのかと思うのですが、それは出願資格審査(6)の「大学院に飛び入学した者」のための欄の可能性があります。別途様式1のほうが記入する事項が多いので1を中心として不安があれば両方埋めておきましょう。記入欄が不足した場合はページを足すことができます。また、大学院全体の出願資格審査のページにも同様式が置いてあり、そちらには本試の出願時に提出する項目は記入不要とありますから、情報学学位プログラムにおいては研究計画欄は出願資格審査では記入不要と思われます。志望理由欄は書きましょう。
(エ) (オ) については、正直に読むと高校のものになってしまいそうです。これについて教務に確認しに行ったのですが、「この枠で出す人が少ないのでわからない」と言われ直ちに答えを得ることはできませんでした。結論から言うと大学の在学証明書と成績証明書を提出したら特に何も指摘がなかったのでそれで特に問題ないようです。(逆に高校の成績で勝負したい人はこの曖昧さにつけこんで素知らぬ顔で高校の成績証明書を添付すればいいのかもしれない)
(キ)推薦書も必要なので早めに手を打っておきましょう。研究で関わりがある先生のほうがいいと思います。
すべて揃ったら締め切り直前まで粘ってなるべくいい書面にしてから提出しても良いのですが、締め切り直前に提出すると (間に合っていても) 苦言が飛んでくるらしいので早めに提出しましょう。
提出したら祈りを捧げます。
意識を本試の出願に切り替えます。本試の出願締め切りが7/21(必着)なので7/20までにすべての書類を揃えて郵便局に行く必要があります。
~~~~~~~
7/10 : まだか????
7/11: TOEICの結果が出ました。耐え。
~~~~
7/15: 遅くね?
~~~
7/18: やっと来た!
第0次試験に通った!でも喜んでる暇ない!
いや、本当にギリギリです。まさかこんなに遅いとは思っていなかった。
それから研究計画書をその日に書き始め、翌日と20日午前までかけて死にそうになりながら仕上げました。その前年にAREの研究計画書を3日で仕上げる練習をしててよかったです。
これから受けようと思っている方は資格審査を早めに出し、研究計画書もギリギリにならないように準備することを推奨します。
大学院入試(本試)出願(7月)
ここまで来れば4年生と同じ土俵です。受検料は3万円ですから、本腰を入れて準備しましょう。4年生と同じ書類+出願資格審査書類の原本を送ります。注意点としては、大学院入試の出願システムはWeb入力を確定しないと郵送すべき提出書類を印刷できないシステムになっているので、送付が必要な書類だけ先に処理するといったことができません。そして、情報学学位プログラムは手渡しでの提出に対応していないので締め切りが実質1日前にずれるというわけですね。
大学院入試本番(8月)
情報学学位プログラムの一般入試では研究計画に関するプレゼン(300点)と事前のTOEICの結果(100点)、研究計画書を含む出願書類(100点)のみで合否が決まるので当日実際に行う試験はプレゼンのみです。自分の提案する研究内容がしっかり説明できれば大丈夫です。テンプレの質問 (修士修了後はどうするのか、など) もありますが、大抵が研究テーマに関する質問です。質問対策にうろたえる暇があるなら先行研究と提案研究の関係を整理しておくほうが有益だと思います。自信をもって、分かる部分は明瞭に、わからない場合は素直にその部分は未検討であると答えたほうがいいです。楽しそうな感じで臨めるとベター。逆に、自信なさそうな感じで自分の研究テーマに関する質問なのにスパッと答えられないと落ちる可能性が高まります(わかるにしろわからないにしろ)。試験監督といえども相手は自分の研究テーマに関しては素人の可能性が高いので的外れな質問が来ることやすでに説明したことに関する質問が来ることもあります。質問意図がわからない場合などは聞き返すなど、しっかりコミュニケーションを取りましょう。
合格発表(9月)
Web発表です。
安易にXに投稿するとバズる可能性があるので注意しましょう。
ただし、制度に関する質問が来たらしっかり答えるのが先人の役目ですから、その場合はしっかり答えましょう。
退学の準備(9月~)
3月末付の退学届を用意します。様式は教務で入手できます。親、担任印が必要なので担任にもしっかり話を通しましょう。入学手続きに退学の証明が必要なので、入学手続きをする前にこちらを終わらせる必要があります。
注意としては、ここで気を抜いて (あるいは調子に乗って) 3月末付でない退学届を用意すると前提である大学に3年通った者の条件が崩れるので最悪すべてが無に還る恐れがあります。あと、こちらも安易にXに投稿するとバズる恐れがあるので注意しましょう。
入学手続き(11月~)
夏試験で合格した場合は猶予がかなりあります。年明けてからでも大丈夫なのでゆっくりで問題ないです。ただし、再三の注意ですが、退学手続きを先に終わらせましょう。これですべての工程は終わりです。残りの学部ライフを満喫するか、修士の気分で研究を始めましょう。
メリット・デメリット
まだ入学してないので実際のところはわかりません。
しかし、入学前でも感じられるメリットとして、「卒業要件から解放される」というのがあります。このメリットは特に移行して足りない単位苦しんでいる総合学域群出身者には大きなメリットでしょう。また、mastに来たことで理科がなく、理系成分が足りなく感じている人にもメリットかもしれません。つまり、取りたい科目だけ取ってだいたい124単位埋められればなんでもいいという半年間を過ごすことができます (ただし、学位授与機構の単位要件は要チェック。多くの場合、3年前期までmast生としてちゃんとやってきていれば学位授与機構の情報工学分野の要件を満たせる程度には情報系の単位が揃っているはずです) 。
なぜ飛び入学を実行したか
前出の志望理由書に書いてあるのでそっちを読んでください。
ところで、(志望理由書にもありますが) 勘違いされたくないのは、総合学域群の権威を高めそうな行動を取っていますが、私は総合学域群のアンチです。そっちも書こうと思えば一家言あるのですが、この記事からは逸れるのでやめておきます。
まとめ
細かいところまで説明したので長くなってしまいました (8000文字!) 。情報学学位プログラムに絞って解説したため、他プログラム進学予定の人は書類のたどり方は同じと思うので自分で書類をよく読んでください。現3年生の人は院試の部分だけ参考にしてみてください。
私が最も言いたいのは以下の2点です。
早期卒業からの院進と院試合格による飛び入学は明確に異なる
後者であってもあとから学士を回収する手段がある
飛び入学は万人向けの選択肢ではもちろんないですが、いままでほとんど使われていなかった制度を利用して大学院に入学できることが実際に示せたのは非常に面白い試みであったと思います。何らかの理由で学類から飛び出したくなっている人は本記事を参考に飛び入学を検討してみてもいいと思います。
また、飛び入学関連でなにか質問があればお気軽にお寄せいただければと思います。