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GHT2024 (1日目~5日目) セカトゥム~ヤサン~トロンディン~ツェラム

 標高1650mのセカトゥムから、いよいよ歩き始めます。シンブワ川が流れる深い峡谷の中、雲霧林とシャクナゲの林を抜け、氷河が侵食したU字谷の始まるツェラムまで。ツェラムでは標高4370mまで高度順化を行ないます。


Great Himalaya Trail(https://www.greathimalayatrail.com/)から引用し、加筆した。

1日目 9月20日 セカトゥム(1650m)~ヤサン(2280m)

Sekhatum(0830)-Hellok下(0940-0955)-Hellok上昼食(1120-1320)-Yasang(1710) 曇りのち雨 

山奥でも土木工事が進んでいる
ヘロック村の小学校 近隣の村から山道を通ってくる子どもも多い
ヘロック村で出会ったやんちゃ坊主たち
営業を始めたばかりのヤサンのロッジ

 ガイド2名とポーター3名と一緒に出発する。
 残りのスタッフはトレッキング後半用の荷をオランチュンゴーラまで運んでデポした後、当面必要のないテントなどの荷物をグンサまで運ぶために別行動となる。
 昨日通って来た車道を少し戻る。発電所を建設するための道路工事が進んでいる。シンブワ川沿いの車道に入り、ヘロック村まで上がる。当初の予定ではここを宿泊地としていたが、荷物のやり繰りを考えるとセカトゥムに泊まって正解だった。ヘロックは高低差のある大きな村で、近隣の村からここの学校に通っている子ども達も多いらしく活気がある。
 渓谷沿いに森の中の山道を辿る。ヤサンの手前で雨が降り出し、雨具を着用する。カトマンズ到着以来好天が続いていたが、どうやら悪天周期に入ったようだ。
 この時期雨が降ると蛭(ヒル)が現れる。ズボンの裾や靴下、襟元などから入って来て、気がつくと噛まれた後から血が流れている。痛くも痒くもないのだが、靴下やシャツをめくると血を吸って丸々と太った蛭が出て来る。血が止まらないので気持ちが悪い。血ぐらいあげるからせめて止血してほしいものだ。そんなわけで、ヤサン到着後はしばらく蛭退治に忙しかった。ガイドのニマが靴に塩を振りかけておくといいというので、翌日は言われたとおりにしてみたが、あまり効果はないようだ。
 ヤサンのカンチェンジュンガホテルは新築直後で快適だったが、スタッフが仕事に慣れていないようで、夜になって到着したジャヌー遠征のロシア隊の対応とも相まって、サービスも食事の内容もいまひとつ。
 ジャヌー隊とはこの後同じ道を行くことになる。
 準備に1年以上かけて練り上げた計画が現実のものとなり、カトマンズからの長距離の移動の後にようやく歩き始めることができた。事前に地図を見てイメージしていた風景が現実のものに置き換わっていくのは嬉しいもので、初めて歩く場所特有のこの感覚を懐かしく感じた。この感覚は今回のトレッキング中常に感じ続けることとなる。

2日目 9月21日 ヤサン~トロンディン(2980m)

Yasang(0813)-Toronding(1615) 晴れのち曇り時々雨 

峡谷沿いにアップダウンが続く
所々にKCAPによって整備された休憩所がある
KCAP:Kanchenjunga Coservation Area Project
トロンディンには2軒のロッジがある

 ヤサンからは一旦シンブワ川に降りた後対岸に渡り、その後は右岸沿いに照葉樹林の中アップダウンを繰り返しながら、深い渓谷沿いに少しずつ高度を稼ぐ。
 今日の道中はバッティ(茶店)がない。宿に準備してもらったパックランチを持ってアシスタントガイドのハクパが後から追いかけるという手筈とする。
 我々ののんびりペースを考えると、ハクパはすぐに追いついて来そうなものだが、なかなか現れず、どんどんお腹が減って来る。
 いよいよダメだと判断して、ニマが先行してトロンディンまで行き、食事を注文しておくというので、そこから先は私が先導して進むことにする。
 トロンディンまで2kmの地点で、紅茶のポットとビスケットを持って上から降りて来てくれ、ようやく少し空腹から開放される。
 トロンディンはV字谷の中の平坦地で、2軒の宿が並んでいる落ち着いた雰囲気の所だ。当初の計画では、スケタルからヤンプディン村を経由して峠を越えてトロンディンに入る予定だったが、セカトゥムまで車を使えたので、日程的には2日の余裕を得ることができた。
 トレッキングマップにはTortonと記載されているが、地元ではTorongdingと呼んでいるとのこと。
 ハクパは結局夜になっても現れず心配になるが、ニマは大丈夫だという。
 大人数のロシア隊は隣の宿に入り、他に宿泊客はいないので、静かに過ごすことができてホッとする。
 日本を出てからここまで慌ただしく過ごしてきたことと、日程的に少し余裕が出たので、明日は休養日とすることにした。

3日目 9月22日 トロンディン休養停滞

 晴れのち午後一時雨
 朝から洗濯をしたり、ソーラーパネルで電子機器の充電をしたり、本を読んだり、一日のんびりと過ごす。
 「残照のヤルン・カン」(上田豊著・中公新書・1979年刊)を読む。この本は、1973年に京都大学学士山岳会が派遣したヤルン・カン(カンチェンジュンガ西峰・8505m)の登山隊に参加し、初登頂を成し遂げた隊員による手記だ。51年前にタプレジュンからヤンプディンを経由してトロンディンに至り、この後我々が歩くルートを辿って、ヤルン氷河にベースキャンプを設けている。
 私の父が登攀隊長を務めた関係で、著者の上田(あげた)さんを始め、関係者がしょっちゅう我が家に出入りしており、まだ小さかった私や姉の遊び相手をしてもらった思い出がある。
 上田さんと一緒に登頂した松田さんは残念ながら下山途中で行方不明となるのだが、松田さんも我が家をしょっちゅう訪ねて来ていて、よく遊んでもらっていた。
 今回のトレッキングをカンチェンジュンガの南側から始めようと思ったのは、松田さんの弔いの意味合いが強く、一緒に行くメンバーにもその気持ちを伝えてあった。
 この本は何度となく繰り返し読んではいたが、半世紀前にこの山域で繰り広げられたドラマに思いを馳せながら現地で読むと、これまでとは違ってリアルに感じることができた。

停滞日は朝から洗濯

4日目 9月23日 トロンディン~ツェラム(3868m)

Toronding(0847)-Anda Fedi昼食(1205-1332)-Tseram(1610) 晴れ 
 1日充分に休養できたおかげで、皆元気に出発する。
 セカトゥムからここまでの道はアップダウンの連続だったが、一転して比較的なだらかな道がシンブワ川の右岸に続く。それまで狭かった谷が、標高3200m位から氷河が侵食したU字谷へと変化し、少しずつ空が広くなる。
 ネパールの他のエリアではこれくらいの標高になると森林限界を超える所が多いが、モンスーンの影響が強い東ネパールでは森林限界の標高が高く、この辺りはまだまだ高木に覆われた森が続く。
 昼食を採ったアンダフェディは川の右岸の河岸段丘上の開けた場所で、バッティ(茶店)が1軒だけの静かな所。新たにもう1軒建設中で、いずれここにもロッジができるのだろう。
 標高3500m位から綺麗なU字谷となり、谷の上流にカブルー連山の一部と思われる白い峰が見えて気分が高まる。
 今日は標高3844mのツェラムまで上がるということで高度の影響を心配したが、ゆっくり歩いたおかげで皆調子は良さそうで安心する。
 ツェラムはU字谷の右岸の平坦地で、空が広く感じられて気持ちの良い所だ。ロッジが4軒あり、さらに1軒建築中だ。ここから先もそうだが、他のエリアと比べてトレッカーが少ないこの地域で建築ラッシュと言ってもいいほどロッジの新築工事が進んでいるのは、それだけトレッカーの増加が見込まれるということだろうか。
 泊まったヤルンカンゲストハウスは、若い女将さんがひとりで切り盛りしている。この女将さんはハクパの父親の兄の娘ということで、ハクパの従兄に当たるらしい。
 ハクパはこの地域のゴプラ村出身ということで、あちこちに親戚や幼馴染が居るという。
 面倒見の良い女将さんで快適に過ごすことができた。

山道は所々崩れている
V字谷からU字谷に地形が変化する ようやく白い山がちらりと見えた
ツェラムに到着 広々した気持ちの良い所
若い女将さんがひとりで切り盛りしている


5日目 9月24日 高度順化の日 チェジュンタンガ(4370m)往復

Tseram(0807)-Co.4274m(1015-27)-Co.4369m・Chejungtanga (1100-1130)-Tseram(1245) 曇り時々小雨

森を抜けて高度順化に出発
ツェラムを見下ろしながら急登を進む
エーデルワイスが出迎えてくれた
森林限界を抜けてさらに上へ
ソジュタンガ(4370m) 今日はここまで

 ここから先の我々の行程は、ツェラムから上流に向かい、ラムチェ(4610m)に泊まった後、トレッキングルート終点のオクタン(4740m)を往復してツェラムに戻り、ここから峠越えをしてグンサ村のある西側の谷に抜ける予定となっている。
 この先4000mを超えての行動となるため、高さに身体を順応させるために、もう1泊ツェラムに滞在して、グンサ村に抜ける道を途中まで登ることにする。
 できれば標高4500mくらいまで上がることにするが、行動時間が長すぎても疲労がたまるので、時間的には3時間を限度とする方針として出発する。
 ツェラムの裏の森を抜けるとしばらく急登が続く。雨期だけあって、エーデルワイスなどの高山植物が気持ちを和らげてくれる。この辺りの森林限界は4000mくらいだ。
 本流の谷の上流側は残念ながら雲に覆われているが、雲の合間にカブルーの山並みが白く輝いているのが見える。
 目標とした4500mには満たないが、3時間歩いて到着したチェジュンタンガで引き返すことにする。チェジュンタンガは、氷河が山肌をスプーンですくい取ったような地形をした圏谷(カール)の底に2つの池を湛えた場所で、様々な花が咲き乱れる気持ちの良い所だ。
 小雨が降り始めたので雨具を着て降りることにする。眺望を期待していたが、残念ながら白い山並みは次回にお預けとなった。
 Tseramに戻って昼食をとり、午後はのんびりと過ごす。


詳細報告書は下記からダウンロードできますので、よかったらどうぞ。
GHT2024 報告書ダウンロード

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