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GHT2024 (6日目~10日目) ツェラム~ラムチェ(往復)

 ツェラムで高度順化を行なった我々は、カンチェンジュンガ峰(8586m)を南側から眺めようとヤルン氷河沿いに歩を進めますが、折からの悪天に阻まれて引き返します。ネパール全土に被害をもたらした雨は、このエリアでは雪や霙(みぞれ)となって降り注ぎました。

Great Himalaya Trail(https://www.greathimalayatrail.com/)から引用し、加筆した。

6日目 9月25日 ツェラム~ラムチェ(4610m)

Tseram(0758)-Yalung手前メンダン(0850-0903)-Ramche(1302) 
曇りのち時々雨

枝沢の丸木橋を渡る 復路はこの沢が増水していて渡るのに苦労した
ツェラムを振り返る
ヤルンカルカ手前のメンダン 奥の大岩にお経が刻まれていた
ヤルンカルカを行く
ヤルン氷河のエンドモレーン*から水が流れ出しているのが見えた
ヤルン氷河のアブレーションバレーを行く
ラムチェにはロッジが2軒とヤク飼いのテントがあった 右奥がヤルン氷河のサイドモレーン
サイドモレーンから土砂に覆われたヤルン氷河を見下ろす

 今日も朝から雲が多い。昨夜の雨は上の方では雪だったようで、山肌が白くなっている。ツェラムを出発してしばらくは谷の右岸沿いに森の中を歩く。進行方向左手から合流する枝沢は丸木橋を使って渡渉する。
 ヤルンカルカの手前に古びたメンダン*があり、その横の大岩にはお経が刻まれていた。
 カルカというのは、夏の間にヤクなどの家畜を放牧する場所のことで、ヒマラヤでは季節に応じて山の中を上下に移動する「移牧」と呼ばれる放牧がおこなわれている所が多い。ヤク飼いの人たちは、ヤクの行動に合わせてカルカを転々と移動するため、カルカには壁を石で組み、平たい石やシート状に編んだ竹、木材などで屋根をふいている小さな小屋があることが多かったが、最近では屋根にブルーシートを張っている所が殆どのようだ。
 樹林帯を抜けると、標高4200mくらいからヤルン氷河のアブレーションバレー(氷河側谷)に入る。進むにつれて広がりを見せ、水の流れの横でヤクが草を食み、ツツジ科の低木とリンドウが足元に広がり、折からの霧と相まって幻想的な風景が広がる。
 ラムチェは、アブレーションバレーがやや狭まり、サイドモレーンが近づいた草原状の広い場所で、2軒の宿とヤク飼いの大きなテントがあった。
 コテージ風の新しい部屋に入れてもらい、時々雲間のぞく白い山を眺めながら屋外で昼食を取る。
 午後、雨が止んだので目の前のサイドモレーンに上がり、岩に覆われた迫力満点のヤルン氷河を見下ろす。残念ながら霧に覆われて遠くの山並みは見えないが、氷河自体がもっと大きかったであろう50年前に思いを馳せてみる。

*メンダン:チベット仏教のお経が刻まれた平たい石(マニ石)を並べて作られた塚
*モレーン:氷河が運んできた岩石や岩くず、土砂などが土手のように堆積した地形 
 参考記事(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%83%B3)

7日目 9月26日 ラムチェ 荒天停滞

雨時々曇り

火の気のがなく寒いので寝袋にくるまってゴロゴロ過ごす

 夜半から明け方にかけて大雨が降り何度か目を覚ます。
 今日はトレッキングコース終点のオクタン(4740m)を往復する予定で、いつも通り8時に出発の準備を整えたが、雨が止まない。11時まで待って雨が上がらなければ停滞するということにして、いつでも出られる態勢で待機するが、結局雨は止まず、停滞とする。
 薪で炊事をしている宿であれば、キッチンに行けば少しは温まることがきるが、この宿はプロパンガスを使っているのでそういうわけにも行かず、暖を取るストーブもないので、仕方なく寝袋にくるまって過ごす。太陽が出ていないと、この標高では寒さが身に染みる。
 明日は天候が回復すればオクタン往復後ツェラムに下山、雨が止まなければ直接下山の方針とする。
 ラジオで天気予報を聞いたというガイドにニマの話では、昨日から4日間天気が悪いとのこと。明日ツェラムに降りたら、明後日は1日停滞して、その後セレレに向けて峠越えを行なうことにする。

8日目 9月27日 ラムチェ~ツェラム

Ranche(0830)-Tseram(1107) 雨のちみぞれのち雨
 夜半に大雨が降り、朝になっても止まない。カンチェンジュンガとヤルン・カンを南面から眺められるのを楽しみにしていたが、天気には勝てない。非常に残念だが、ツェラムに下山することにする。
 天候の回復を待つ選択肢もあるが、どうやら悪天周期が続いているようで回復がいつになるのか分からないし、長期間停滞するには宿が寒すぎて条件が悪い。この先のスケジュールを考えると下山の判断が妥当だろう。
 防寒対策を整え、雨具を着用して氷雨の中を出発。30分ほど下ると雨がみぞれに変わる。湿地帯は水かさが増えてぬかるみが増し、道は川のようになっている。休憩もそこそこに下りを急ぐ。
 往路渡った支流に架かる丸木橋は濁流に飲み込まれたようだ。激しい流れの中に入り、足元をすくわれないように慎重に渡渉するが、靴の中まで濡らしてしまった。
 ツェラムに戻ると女将さんが気を利かしてストーブに火を入れてくれた。ありがたい。ストーブを囲み、久しぶりに温めた地酒のロキシーを楽しむ。
 以前毎年のようにガイドをしてくれていたキッパ・シェルパが今年の6月に亡くなったが、キッパが春先にここの近くのボコタピーク(6114m)に登った時に使っていたピッケルとヘルメットをニマが回収していた。次に来るときのために置いて行ったのだろう。
 キッパとは1993年以来のつきあいで、毎年のように一緒にトレッキングにでかけ、1998年の登山の時にはサーダー(スタッフのリーダー)も務めてくれたばかりでなく、ガイドの助っ人として札幌にひと夏招いて我が家に寄宿していたこともある。今回のトレッキングにもキッパが同行してくれるといいなと思っていたが、残念ながら叶わなかった。
 エージェントのボスのJPは、同郷出身のキッパのことを息子か弟のように面倒を見ていただけに、キッパの死の詳細を私に聞かせてくれた時に彼が流した涙が忘れられない。

9日目 9月28日 ツェラム 荒天停滞


 昨日からの雨が止まず、夜中も強くなったり弱くなったり。予報通りなので、予定通り1日停滞とする。
 往路は電気が通っていなかった新築のコテージに電気が通り、窓ガラスのはまった明るい部屋に泊まることができたので、停滞していても快適だ。
 カトマンズのJPと衛星携帯で話したニマによると、この悪天は明日まで続き、明後日には回復するらしいとのこと。その後のラジオの情報では、この大雨でネパール国内で69人が死亡、80数人が行方不明、2000人以上が救助されたらしい。この大雨の被害は日本でも報道されたらしく、心配した妻からinReachにメッセージが届いた。心配ないと返信する。
 オクタンにベースキャンプを張っていたロシアのジャヌー(7711m)登山隊もこの悪天で一旦ツェラムまで降りて来て、向かいの宿に逃げ込んできた。ここまで天気が悪いと山登りどころではない。
 明日はもう1日停滞して、明後日峠越えの方針とする。
 この宿の女将さんはヤンプディンの出身。ヤンプディンはこの辺りで一番大きな村で人口は300~350人ほどとのこと。トロンディンから上に住んでいる人は、トレッキングシーズンが終わるとヤンプディンに降りるらしい。
 ヤンプディンにはまだ車道が通っていないので、きっと昔ながらの村の佇まいが色濃く残っているに違いない。一度はヤンプディンを訪ねてみたい。

10日目 9月29日 ツェラム 停滞

晴れ時々曇り

朝食は陽を浴びて山を眺めながら 贅沢な時間だ
働き者の女将さん
女将さんが食器を洗い終わったら洗濯の時間
夕映えのカブルーが明日の好天を約束してくれる

 久しぶりに快晴の朝を迎えた。カブルーの山並みが朝日を浴びて美しい。
昨日までの大雨の影響で、先日高度順化のために歩いた峠越えの道には滝のように水が流れている。
 宿の前の広場にキャンプ用の椅子と机を出してくれたので、朝日を浴びつつ山を眺めながら朝食をいただく。贅沢な時間、気分爽快だ。
 溜まった洗濯物を洗い、太陽光で電子機器を充電する。
 向かいの宿に居るロシア隊がスターリンクを持ち込んでいるらしく、女将さんもパスワードを手に入れて、スマートホンを使って日本に住んでいる兄の息子と楽しそうに話している。この山奥にもいずれその風景が当たり前になる時が来るのだろう。
 明日は長距離の移動になるので、4時起床、5時朝食、6時出発とする。
 天気は良さそうなので楽しめるだろう。長い1日になりそうだ。

詳細報告書は下記からダウンロードできますので、よかったらどうぞ。
GHT2024 報告書ダウンロード


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