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GHT2024 準備編
旅の期間は2024年9月半ばから12月半ばの3か月に決まりました。
私個人としては、東ネパールに6人の仲間と一緒に2か月、残りの1ヶ月でランタン谷に行こうというイメージです。
ここでは最初の2か月について記していきます。
旅の準備は以下の内容です。
1.スケジュールの具体化
スケジュールを具体化するにあたっては、インターネットを駆使しました。
エベレストやアンナプルナなど、人気のあるトレッキングコースはネット上に情報が溢れていますし、私も過去に何度も歩いているので計画を立てるのにそれほど困らないのですが、今回歩こうとしている所は情報が少なく、国内外のトレッキングツアー情報や行った人の手記などを参考にして、1日の移動距離と時間を細かく調べて積み上げて行きました。
特に参考になったのは、日本やカトマンズのツアー会社が組んでいるスケジュールと登山家が歩いた記録です。
我々はのんびり歩くことにしていたので、ツアー会社が一般の人を相手に組んだスケジュールは、1日の移動距離や時間を算出するうえで参考になりました。また、登山家は具体的な時間や天気などを記録していることが多く、客観的なデータとして大いに参考になります。
一方、個人で歩いている人の手記は情緒的な記述が多く、書いている人の登山経験や年齢、歩くペースなどが分からないため、読み物としては面白いのですが、計画立案に役立つ情報はそれほど多くはありませんでした。
情報を集めてああでもないこうでもないと計画をまとめて行くのは面倒ですが、地図を眺めながら現地の様子を想像して少しずつ具体化して行く作業は楽しい時間でもあります。
そんな作業を昭和基地で業務終了後に少しずつ進め、大体いい線で出来上がったものを同行を希望しているメンバーに送りました。
出発から1年くらい前の段階です。
2.現地エージェントの交渉
凡その計画が組みあがった段階で、カトマンズのエージェントに計画を示して見積もりを取りました。
今回使ったエージェントは、私が40年来懇意にしているところで、以前はトレッキングやプライベートの山登りなどでお世話になっていた、気心の知れた間柄です。
この段階ではあまり具体的な見積もりではなく、経費の概算が送られて来て、その後何度もやり取りをして予算を確定して行くことになります。
また、現地で雇用するスタッフ(ガイド、コック、キッチンボーイ、ポーター)の人数をどうするか、装備をどうするかなども少しずつ交渉して行きました。
最終的には日本出発の2週間前くらいに経費の目途は経ちましたが、入国後やトレッキング出発後も状況の変化に応じて交渉は続くことになります。
3.日程の確定と航空券の手配
計画の概要が決まり、現地エージェントとのやり取りによって経費の概算が出た段階で、日程を詰めて行きました。メンバーの仕事の都合、家庭の事情、カトマンズ到着後の準備期間、現地の気象条件などを考慮して、日本出国を9月15日、カトマンズ出発を9月18日としました。出発の4ヶ月くらい前の段階です。
この頃になるといよいよ出発が近づいて来たということで、メンバーの機運も高まり、メールでの連絡が頻繁になって来ました。
出発日が決まると、トレッキングの日程に若干の余裕を見て帰国日が決まるので、カトマンズ往復の航空券を手配することができます。
利用する航空会社はタイ航空にしました。他の格安航空会社と比べると航空券は割高ですが、信頼できる点を重視したことと、全国に散らばっているメンバーが居住地近くの空港から搭乗できるということを重視しました。
結果的に、札幌、成田、羽田、関西の各空港から出発してバンコクで集合し、ひとつの便でカトマンズに入ることができました。
4.経費について
「それで、それだけ長く旅に出ていていくらかかったの?」ということはよく聞かれます。
結論から言うと、1カ月だけ歩いたメンバーは1人当り約70万円、通しで2か月歩いたメンバーは1人当り約120万円でした。
これには、国内からの航空券代、VISA代、海外旅行傷害保険代、カトマンズ滞在費、個人装備代などは含まれていません。
1人旅などでネパールを歩く人から見ると高いと感じるかもしれませんが、今回はフルスタッフを雇った言わば大名旅行でしたから、これくらいになりました。ネパールの物価高騰と円安も響いています。
スタッフは、メインガイド1名、アシスタントクライミングガイド2名、コック1名、キッチンボーイ1名、ポーター8名で出発し、途中で3人が下山した後もポーターが2人減っただけで最後までサポートしてくれました。
我々は日帰り装備を背負って歩くだけで、宿泊道具や着替えなどはポーターに担いでもらいました。
今回は、事前情報をうまく集められなかったこともあって、全行程テント泊に対応できる態勢としたのですが、カンチェンジュンガエリアは事前に得ていた情報と比べてロッジが整備されている所が増えているなど、結果的にはもう少し上手に計画を立てられれば、経費をもう少し圧縮できたかなというのが反省点で、この経験は次に生かしたいと思います。
5.装備・食料・医薬品などの手配
トレッキングに行く際には色々なもちものが必要になります。
、個人装備は各自が準備して持参するという方針にしました。メンバー全員山登りの経験があるので、充分な装備を持っています。
計画の最後に6000m前後の峠越えをする際には、アイゼン、ピッケル、ヘルメット、ハーネスなどの登攀具が必要となるので、最後まで歩く3人はそれらを揃えましたが、それ以外の部分は一般的なトレッキングと変わらない装備を揃えました。
ロッジのある所はそこに宿泊することにしました・ロッジのない所ではテント泊となりますので、。個人用テントとマットも各自持参することにしました。いくら気心の知れた仲間同士でも、長期間となるとひとりで居られる空間を確保することは精神衛生上重要です。
個人装備以外の装備は、エージェントからレンタルするかカトマンズで購入しました。今回は、フルスタッフが同行してくれますので、炊事道具、キッチンテント、ダイニングテント、スタッフ用テント、最後の峠越え用のロープやアンカーなどです。
食料は基本的に現地で出されるものを食べる方針としました。幸い偏食のメンバーはおらず、キッチンスタッフが作ってくれる食事やロッジで注文する料理も美味しかったので問題はありませんでした。
高山病などで体調が優れない時のために、アルファ化米やフリーズドライのスープなど、好みの物を若干持参しましたが、驚くほどみんな元気だったので、殆ど手をつけませんでした。
医薬品や救急用品は、一通り持参しました。
医薬品は、下痢止め、整腸剤、吐き気止め、鎮痛解熱剤、胃腸薬、総合ビタミン剤、目薬、ステロイド軟膏、抗生剤軟膏、虫よけスプレーなどを国内で、高山病対策のためのダイアモクスはカトマンズで購入し、内服の抗生剤はメンバーがかかりつけの医師に相談して調達しました。
その他に救急用品として、絆創膏、テーピングテープ、包帯、滅菌ガーゼ、三角巾、サムスプリントなどを共同で購入しました。
幸い医薬品も救急用品も殆ど出番は無く余ってしまいましたが、長丁場だったのでこれくらいは必要だったと思います。
6.旅行傷害保険の加入
トレッキングに行く際、万が一に備えた保険の加入は必要です。
標高5000m代までを歩く一般的なトレッキングの場合、各保険会社が販売している海外旅行傷害保険でカバーすることができます。ただし、高山病の悪化などでヘリコプターによるレスキューの可能性があるため、ヘリレスキューの費用がカバーされているかどうかの確認は必要です。
今回の場合、前半の1ヶ月だけで下山するメンバーは、保険の加入を航空券を購入した旅行会社経由で行なったり、クレジットカードに付帯している保険でカバーしました。
問題は、標高6000m前後の峠を越えるメンバーの保険でした。
数社に見積もりを取ってみましたが、標高6000mを超えるというだけで、ルートの難易度に関係なく保険料は大きく跳ね上がりました。
しかも、旅行傷害保険は自宅を出てから自宅に戻るまで入る必要があるため、旅行期間が2か月以上に渡る今回の旅では、15~20万円の金額となることが判りました。
私が最後に6000mを超えたのは20年くらい前で、その頃はここまで高くはありませんでした。保険料は年々上がっているみたいです。
検討した結果、峠を6000m前後の越える3人は、日山協山岳共済会の海外山岳保険に加入することにしました。
私は、経費節約のため、最低限の補償(死亡100万円・後遺障害100万円・救援者費用等500万円・賠償責任1億円)で運動危険割増特約付きの90日間保障のものに入りましたが、掛金は昨年(2024年)9月の時点で20,630円でした。カバー範囲は充分ではありませんが、標高が6000mを超えるとはいえ技術的には難しくなく、ヘリレスキュー以外で保険を使う可能性は殆どないという判断です。
これでは不十分だと考えたメンバーは、もっと高い保険に入っていましたが、ここは個人の判断が分かれるところです。
7.緊急事案対応態勢の構築
緊急事態が発生した場合、旅行会社のツアーの場合はその会社が、組織立った登山隊の場合は主催団体が対応に当たってくれますが、個人旅行の場合は何らかの態勢を構築する必要があります。
トレッキング中のけがや病気もそうですが、今回特に気をつけたのは国内での緊急事案発生に対してです。
メンバーの年齢構成が60代中心ということで、高齢の家族を持つ者が殆どのため、国内で何かあった際の連絡手段の確保が重要でした。
そのため、留守中の国内対応の窓口として、登山やネパール事情に詳しい友人に留守本部の担当をお願いし、何かあった際に留守家族並びにカトマンズのエージェントとやりとりをしてもらう態勢をとりました。
また、ネパールの携帯電話網がかなり発達したとはいえ、今回歩くルートは携帯電話が通じない場所が多いため、いつでも連絡が取れるとは限りません。そこで、Garmin社が出しているinReach mini2という端末を購入し、エクスペディションプランを月額$64.95で契約しました。
inReachは、GPSを利用して端末が受信した位置情報を衛星回線を通じて発信し、端末のIDを把握している人が我々の現在地を把握できるだけでなく、ショートメッセージで双方向に連絡を取ることができたり、天気予報の受信や緊急時にSOSを発信してGarminのセンターから現地の救助機関に情報を提供することができるというものです。中でも今回は双方向にやりとりできるメッセージ機能に着目して契約しました。
このようにして、国内(留守本部)、カトマンズ(エージェント)、現地(携帯電話とinReach)の3者間での連絡体制を整え、緊急事案対応の態勢を整えました。
このような準備を経て、トレッキングに出発しました。