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遠い水族館・アクアース (1)

遠い街・ウクバールは自らの故郷を空中都市ウクバールと信じる男の話である。

遠い水族館・アクアースは150km離れた水族館に原付で行けると信じた男の話である。


「原付で行けばいいじゃん」

友達の一言がこの話の発端である。

広島の大学に通い出してからずっとアクアスという水族館に行ってみたいと思っていた。シロイルカのバブルリングで有名な人気の水族館だ。ただ心で思っていても体は動かなかった。理由は簡単、とにかく遠いのである。

アクアスのある島根県は広島県と接している。こう書くと近いように感じるが正直ありえないほど遠い。

まず車で行けば二時間は優に超える。電車で行けばありえないくらいの電車賃がかかる。(おまけに所要時間は五時間。館山から東京に行くのでも三時間もかからない)

免許を取って2年間車に乗っていない者が一人でレンタカーを借りて見知らぬ土地を二時間運転する勇気はない。ただでさえ乗り物酔いしやすいのに五時間も電車に乗っているのは不可能に近い。加えてバカ高い電車賃を払うのは気がひける。

そんなこんなで行くのを躊躇っていた中での「原付で行けばいいじゃん」である。

普通の人であれば「いけるかあ!」と返すところだが、何を思ったか行けるかもしれないとその気になってしまった。さすがバカ、能天気野郎。

あくる十二月の末にアクアスに向けて出発した。年末ということで寒さ対策に服を五枚重ね着をし、持っている中で一番暖かそうなコートを羽織ることにした。原付で行く場合はおそらく五時間、十時からペンギンの餌やりのショーがあるので逆算すると四時ごろに家を出たら確実に間に合うだろうといった計画だった。

出発してから腹ごしらえに道中にあるすき家に立ち寄った。この先は長い戦いになる、こんな時間に空いてる店はもう見つからないだろう、そう見越して大盛りの牛丼でこれからの長期戦に備えた。

この判断は正しかった。しかしこの旅で唯一の正しい判断となってしまった。その後の計画はすべて見当違いになってしまったのである。


                                  つづく



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