何もできない「マタハラ」傍観者
きゅうり君は4年間だけ、障害者施設において正規職員として働いていたことがある。障害者施設と聞くと大体の人は「介護させているの?大変ね」とか「きゅうり君は優しいから向いているかも」と言われる。実際のところ、僕は就労継続支援B型というジャンルの施設に勤めていたため。介護の仕事はしていなかった。約70人の利用者さんと工場から内職を貰い、一緒に仕事をするというのがメインの仕事であった。その中で、障害が軽い方は一般の障害者雇用枠で働くための準備をするところで、実際のインターンに同席などもしていた。ほとんどの方は知らないと思うが、意外にも近くにこのような施設はある。運営側の職員は別だが、現場の職員は女性が多い。
男社会特有の縦社会になじむことが出来ず、ジェンダーロールに逆らって生きてきたきゅうり君には、一見仕事がとてもしやすい環境であった。
いつの時代「妊娠は順番だから」という考え方
26歳のきゅうり君。当時の職場には新婚えりか先輩(新卒就職5年目27歳)、そして妊活をしていた桜井さん(転職して5年目、36歳)がいた。お互いに妊娠を望んでおり、バナナ統括施設長(60代男性)、松崎所長(40代男性)、雪だるま主任(40代女性・既婚・子供はいない)、戸田副主任(30代女性当時独身)、トトロ相談員(40代既婚お子さんお2人)など管理者および現場責任者には伝えて、いつ自分たちが妊娠しても良いように職員の配置を組んでもらっていた。
きゅうり君は平職員である為、もちろんフォーマルな会議などで、えりか先輩や桜井さんの「妊娠を希望している為配置を工夫してほしい」という希望を聞いたわけではない。お2人から個別で「きゅうり君にも迷惑かけると思うからよろしくね」と聞いていたのだ。もちろん、ゲイで子供のことなど考えた事がないきゅうり君は、「自分が出来ない幸せをこの人たちは叶えようとしている」と羨ましい気持ちと、困ったときはお互い様だからという気持ちで、「困っている時はお互い様ですし、むしろ後輩の僕にまで丁寧に教えてくださりありがとうございます」とお答えした。
先にご懐妊をして産休に入ったのは桜井先輩。彼女は妊活をしていたため、職場の誰もが、おめでとうという気持ちと産休・育休に入るための引継ぎを行っていたため、スムーズに仕事の引継ぎをしていた。
きゅうり君が2年目にしてインターンの同席や施設外就労(職員1人が利用者さんを引き連れて先方の会社内で仕事をすること)を担当できたのも、桜井さんやえりか先輩が妊娠を希望していたので、本来5年目である桜井さんやえりか先輩がキャリア的順番では適任だが、きゅうり君に任せておいた方が現場も楽だろうと上司の人たちと、桜井さん、えりか先輩が話合い決めていたそうだ。
女性が多い環境において生きてきたきゅうり君は、実を言うとこの時点で気が付いていた。えりか先輩のご懐妊にも。でもえりか先輩や上司から報告もないし、ここで聞くのもセクハラになってしまうから黙っていた。
「妊娠は順番だから、桜井さんが戻ってきたら、えりかさんの番ね」という言葉が上司間で使われているとは知らずに。
「マタハラ」は男の社会で起きるものだと思っていた
きゅうり君以外でもえりか先輩の妊娠に気が付いていた人がいた。トトロ相談員である。彼女はえりか先輩に対してストレートに聞いたらしい。「妊娠しているの?」えりか先輩の答えは「体質的な問題もあるので、もう少し安定してから上司に報告をしたいから内緒にしてほしい」と答えたそうだ。
しかしながら、つわりなどの体調は人それぞれ。。。えりか先輩の希望通り報告するのを延ばすという訳にはいかなくなってしまう。
えりか先輩のつわりは割とひどいものであった。お腹が目立っていない為、気分が悪いからと通常の有休を使って誤魔化していたが職場の上司は、えりか先輩が妊娠していないか心配になっていた。
そのため、雪だるま主任は戸田副主任とトトロ相談員と話し合いをするのである。なぜか、きゅうり君もいる前で。。。どんな鈍感な人でも自分がここに居てはいけないと気が付くような空気感。利用者さんも帰宅して、事務仕事の残務をしているきゅうり君の前で話し合いを始めようとする雪だるま主任。きゅうり君は耐えられなかった、となりの相談室も空いているのになせここでと思い、勇気を出し、僕席外しましょうか?と言った。
雪だるま主任の回答を待たずして、戸田副主任が「きゅうり君も聞いておいて、大切なことだから、事務仕事しながらで大丈夫だから」といったのである。雪だるま主任も「そうね、きゅうり君もこの先負担増えるから、話し合いに参加するではなく、聞くだけでいいからそこで作業しながら聞いて」
トトロ相談員ときゅうり君はポッカーんとするのであった。
雪だるま主任は「えりかさんの体調不良だけど、妊娠の可能性はない?そうなると職員配置を考えなければならない」口火を切った。平職員の前で言う言葉ではないが、真っ当な現場責任者としての意見であると思う。
話し合いに出ていた3人の女性職員の中で、唯一出産経験があるのはトトロ相談員。そしてえりか先輩の妊娠を知っている唯一の人。そして、えりか先輩に「まだ黙っていてほしい」と口止めされている人である。
当時の職員の担当フロア配置は、雪だるま主任、戸田副主任、桜井さん(産休中)、そしてきゅうり君が同じフロア。トトロ相談員、えりか先輩が同じフロアで働いていた。そのため、えりか先輩の体調変化に気が付き、早退の指示を出していたのも、トトロ相談員なのである。
雪だるま主任と戸田副主任はトトロ相談員に質問をする。
「えりかさん妊娠しているってことないよね」雪だるま主任がトトロ相談員に聞く。「そんなことないと思いますよ」「聞いてないですもの」とトトロ相談員が答える。
「えりかさん、生理来てました?」戸田副主任がトトロ相談員に質問した「そこまではわからないけど…」とトトロ相談員が答える。きゅうり君は心の中で「同じ女性でも分からないでしょ、そして僕の存在忘れてないかな…」と思っていた。
戸田副主任が「ポーチ持っていました」えりか先輩は、メイク道具と生理用品をまとめて同じポーチに入れている。そのため、エプロンのポケットには入らないくらいの大きさのポーチを愛用していた。きゅうり君の勤めている職場は、職員専用トイレはなく、ご利用者さんと同じトイレを使う。そのため、他の女性職員はポーチ又は巾着を、エプロンのポケットに入れてトイレに向かうのだが、えりか先輩はポーチごと持ってトイレにいつも行っていた。
「体調が悪ければメイクも直す気にならないでしょ」とトトロ相談員が言う、「だとしてもポーチは持っていくでしょ(生理用品を使う週ならば)」戸田副主任。トトロ相談員は回答に困っていた。
最後は、雪だるま主任が今度えりか先輩と面談するという話で落ち着いた。
きゅうり君はとても怖くなった。女性同士でもセクハラだと思うしマタハラだと思ったからである。そして職場での彼女ら3人の立ち位置はほぼ同等。体型的な事もあるが、現場職員が彼女たちと仲良くできないという理由で退職する職員も居たとの事から、「三大巨頭」と言われているのである。
この3人の話し合いに同席させられる気分の悪さは計り知れない。
女性同士のマタハラの方が怖い事をこの先痛感させられるのである。
「マタハラ」を見るだけ傍観者のきゅうり君
雪だるま主任と戸田副主任がえりか先輩を呼び出す。もちろん妊娠の件について、えりか先輩は素直に妊娠可能性がある事を伝えた。個人的にはつわり来ているのに病院に行っていないえりか先輩にも驚いたが。
おそらく文章を読んでくれている方は、なんできゅうり君もそこにいるのという所に驚いているだろが。。。僕も驚きです。。。雪だるま主任と戸田副主任曰く、きゅうり君も同じフロアなんだから、席を外す必要がないとの事。。相談室空いてますけど、僕平職員ですけどとは言えなかった。
戸田副主任はえりか先輩に最後の生理はいつか質問をした。そしてえりか先輩は答えた。正直に。戸田副主任は「妊娠の可能性があるなら正直に言ってと言ったよね、この前のLINE嘘ついたんだ。計算すると合わないよね、えりかさん嘘つき」と言ったのだ。確かにえりか先輩は嘘をついたかもしれない。でも、平社員のいる前で問い詰める内容ではないと思う。
口を開いた雪だるま主任、彼女は元保育士で女性の多い職場で働いていた。一瞬でもえりか先輩に助け船が来ると思ったきゅうり君はとてもバカであった。
「妊娠は順番なの、私が保母として働いていた時みんな暗黙の了解で守っていたわよ。桜井さんが産休に入っているのに、何をやっているの、社会人になって妊娠しましたは理由にならない。」と言ったのだ。
現場で一番エライ雪だるま主任が、役職の無いえりか先輩に対して言うのだから、もはやマタハラだけではなく、パワハラだと傍観者として感じた。そして何も助け船をだせないきゅうり君も加害者である。
弱いものいじめ、次は自分と自覚する。
えりか先輩は、つわりで度々仕事を休んでいた、その都度きゅうり君がえりか先輩のフロアにヘルプに行くという形で職場は回っていた。
エリカ先輩は年度末で自主退職となり、きゅうり君はえりか先輩の退職約1か月前から同じフロアへの配置換えを命じられる。もちろん配置換えを命じられたのはきゅうり君だけではない、トトロ相談員も相談員業務に専念すべきという理由で事務所への移動を命じられ、フロアリーダーには分園から移動してきたライムさん(40代女性既婚・子持ち)が就くことになった。
雪だるま主任と戸田副主任は、新年度の体制において、きゅうり君が所属するフロア職員全員が、昨年度まで別フロアで働いていた人と新人パートさん、そして人が足りないときの補充要因としてバナナ統括施設長というとんでもない配置にしたのである。ちなみに2月の段階で新人パートさんは決まっていないので、予告で出されていた配置表には、「フロアリーダーライムさん、平職員きゅうり君、新人パート2名採用予定、バナナ統括施設長」という文字。平職員同士で思わず笑ってしまう配置表となった。求人の応募すらきていないのに、予定とは(笑)
えりか先輩とは引継ぎ機関の1か月でとてもよく話したため仲良くなることが出来た。ご主人の話なども教えてくれた。きゅうり君は心から元気な赤ちゃんを産んでほしいと願っていた。
えりか先輩が退職するときに、ご迷惑をおかけしました。ときゅうり君とライムさんにクッキーをくれたとても美味しいクッキーだったが複雑な気持ちだ。仲良くなれたえりか先輩ともう仕事ができないことと、えりか先輩に教えてもらった「三大巨頭」について、この職場では彼女ら3人と意見が合わないと肩身の狭い思いをすること。利用者さんの男女比率は9対1で男性が多く、現場職員は9.5対0.5で女性職員が多い。まるで、大学時代にハマったドラマ大奥みたいと感じてしまったのである。
実を言うと、1年目僕はトトロ相談員に目をつけられていた。報連相が出来ていない、電話応対が出来てない、福祉とは~である。というような感じで。あまりにも目に余るようで、えりか先輩をはじめ他のフロアの方からも心配をして貰っていたらしい。みんな思っていたけど、きゅうり君に話しかけていいのかも分からなかったから、言えなかったとの事。トトロ相談員とはえりか先輩の一件があり、良くも悪くも普通に話すことが出来る関係性になっていた。その分雪だるま主任と戸田副主任に目をつけられてしまったのは言うまでもない(笑)弱い者いじめはなくならない。
次は我が身だなと思うのであった。
「みんな最下位にならないために必死なんだ」by中学生のきゅうり君
中学時代から、HSP傾向が強く団体行動が苦手、そのうえで一生懸命ゲイである自分を隠して来た自分は、小学校・中学校ではいやがらせのターゲットであった。ただ、なぜか不良グループのトップの男子には好かれていた。花壇に投げられた体操服を探してもらったこともあった。
僕に対して一番いやがらせをしていた子(能面君)は、僕が不登校になると、僕がされていたいやがらせをすべて受ける身になったらしい。当時の担任と僕の自宅まで来て謝りたいと言ったそうだが、僕は母親に頼んで帰ってもらう事にした。その後、近所の女の子曰く、「きゅうり君がいなくなった瞬間に、能面君がいじめられるようになって、不登校になった」と教えてくれた。26歳にして、中学生時代に学んだ「みんな最下位にならないために必死なんだ」ということを思い出させられた。高校大学とその言葉は一切思い出されることがなかったのに12年越しに、その言葉を思い出して行動しなければいけないとは皮肉である。
noteでは僕「きゅうり君」の17歳からの27歳までの恋愛と、
27歳から29歳までのリアルな恋愛は諦めて腐男子として生きている等身大の自分を日記を公開しようと思っております