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PWM周波数を決める

 パルス幅変調 (PWM) は直流電圧を入り切りして,平均電圧(電流)を抑える仕組みです。例えば12Vの電源を1秒間のうち初めの0.5秒間は「入」,残りの0.5秒間は「切」とすると,平均電圧は6Vと考えます。この時の周波数(「入」時間と「切」時間の合計の逆数)は1Hz,デューティー(「入」時間と「切」時間の比)は50%です。デューティーは負荷に与えたい電圧で決めますが,周波数は負荷に合わせる必要があります。負荷(ここでは電動機です)が反応できない時間まで縮めると初めてPWM制御が実現できるんですね。PWM周波数を152Hz, 1.22kHz, 19.5kHzの3種類で実験してみました。

KATO旧動力ユニット

 最初はKATOの阪急6300系で実験しました。この車両に使われている動力ユニットは下の写真の様にウォームギアが2つあって車軸を直接駆動する,電車型では3, 4世代前のものになります。GM-5モーターが使用されており,コンデンサーも取り付けられています。丸く茶色い部品はセラミックコンデンサーかと思われますが,104の表記があって0.1uFにしてはかなり大きいのが時代を感じます。比較用に現代の同容量の積セラ(積層セラミックコンデンサ;青色の部品)も乗せてみました。

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 GM-5モーターでも後期の物は起動が滑らかですね。パワーパックスタンダードでもPWM式のKC-1でも滑らかに走り出します。KC-1のPMW周波数は約20kHzになっています。PICマイコンによる制御ではどの様に起動するか,PWM波形と車両の動きを合わせて見てみます。

 デューティーは10ビット(1024段階)で設定しており,0.1秒毎に1段階上げています。だいたい0.1秒毎に0.012V上昇させている事になります。
 152Hzでは非常に滑らかな起動ですね。ただ,一定の音が聞こえます。電動機の励磁音です。これが152Hzの音になります。電機子チョッパ制御車で聞こえる音と同じ仕組みですね。
 1.22kHz(47秒頃~)では少し飛び出し起動(ラピッドスタート)していますね。励磁音も高くなりました。1.22kHzの音ですね。このようにPWM周波数を変更すると励磁音を変えられます。いろいろ遊べそうですね。
 19.5kHz(1分45秒頃~)でも飛び出していますね。一定の励磁音は聞こえなくなりました。人間の可聴周波数帯域のほぼ上限 (20kHz) ですからね。カメラのマイクや再生機器のスピーカーの性能が影響している可能性もありますが,19kHzのネズミ除けの音が聞こえる筆者が実際に聞いても聞こえません。

 2分45秒からはPWMデューティーを揃えた場合の違いです。車両の位置が揃っていないのはご愛敬で。周波数が152Hzの場合が起動が早く,残り2つはほぼ同時ですね。でも加速の度合いに違いが見られます。デューティーの変え方は同じなのに周波数の違いでこんなところに影響が出るんですね。

 3分49秒からは起動を揃えてみた場合です。1.22kHzが一番加速が早く,152Hzが一番加速度も速度も遅いですね。1.22kHzでは加速度も一定ではない様に見えます。

KATO新動力ユニット

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 続いてはKATO電車用の最新動力ユニットです。フライホイール・サスペンション機構搭載,DCCフレンドリーの物ですね。使用したのは225系100番台です。

 ここでも阪急6300系と同じ実験を行っています。
 152Hzではフライホイールの影響かカクカクした起動ですね。そして急に早くなる感じです。
 1.22kHz(45秒~)では少し飛び出し起動な感じがありますが,全体的には加速度が整っている印象ですね。
 19.5kHz(1分40秒~)ではかなり飛び出していますね。トルクが最大静止摩擦力に勝てていないのでしょうか。これもフライホイールのおもりが影響している様に思えます。

 2分33秒からはデューティーを揃えた場合です。車両の位置や大きさが揃っていませんがご愛敬で。起動は周波数が遅い方が早くなる傾向がありますね。でも速度は19.5kHzが一番早いですね。

 3分31秒からは起動を揃えた場合です。19.5kHzの飛び出し感が半端ないですね。152Hzの場合が一番きれいに加速している印象があります。

考察

 阪急の旧動力と225の新動力とでは挙動に大きな違いがある事がわかりました。パワーパックではそこまで違いは出ないのですが。
 周波数に関しては低い方が安定傾向であると言えそうです。ところが低周波の場合は問題もありました。励磁音が気になるのもそうですが,低速で数分走らせただけでも電動機がかなり発熱しているのです。これは効率が悪い印ですし電動機に負担もかかっていそうです。KC-1もそうですが,一般的には20kHz以上の周波数を使っているみたいです。やはり周波数は高めの方が良いのでしょう。

まとめ

 PWMの周波数は低い方が比較的滑らかに起動しました。ただ,低周波では電動機の発熱も見られました。電動機への負担を減らすには高周波を採用すべきかと思われます。そして,KATOの旧動力ユニットと新動力ユニットとでは挙動に大きな違いがある事がわかりました。

今後

 PWM周波数20kHzで滑らかに起動する方法を検討する必要があります。今回はPICマイコンのPWM機能を使って単純なPWM信号を与えましたが,それではダメなようです。単純ではない方法はいくらでも考えられますが,どれが一番良いか探すのは骨が折れそうです。
 KATOから「ハイパーDX」というコントローラーが発売されており,これがKC-1と同様に低速も滑らかに走行するそうです。海外製のコンデンサーが実装された動力車にも対応しているそうなので買って試してみることにしました。次回はこの「ハイパーDX」を調べてみる事にします。

おとてつのお遊び

 音の高低は周波数によって表現されます。今回の実験で,車両が走り出す前も走り出してからも一定の励磁音が聞こえていました。PWM周波数を一定にしていた為ですね。では,その周波数をいろいろ変更してみるとどうなるでしょうか… 抵抗制御車の主電動機の直並切り換え時の音の違いやVVVFインバーター制御車の音,そして最近さよなら運転で話題になったドレミファインバーターの音も再現できますね。もちろん電機子チョッパ制御車の音も表現できます。まぁ電動機に負担がかかりそうなのであまりやらない方が良いでしょう。サウンドデコーダーやKATOのサウンドBOX等を使って下さい。

PWM制御と電機子チョッパ制御は双子

 今回のPWM制御では電機子チョッパ制御車と似た励磁音がしましたが,実は模型のPWM制御と実車の電機子チョッパ制御は同じなのです。
 電機子とは,直流整流子電動機では中で回転するコイル(回転子)の事を言います。模型の電動機も直流整流子電動機で,中に回転するコイル(回転子)があります。チョッパ (chopper) とは割るとかぶった切るとかという意味の言葉です。電機子チョッパとは電機子に流す電流をチョッパ,つまりぶった切ってトルク(駆動力)制御を行っています。PWMはデューティーが100%未満の時は電源を一定時間遮断,つまりぶった切っています。両者は同じ事を行っているのですね。言い方が違うのは低い電力を扱う弱電と高い電力を扱う強電の文化・言葉の違いかもしれません。例えばコイルは,弱電ではインダクター,強電ではリアクトルと呼びます。
 尚,電車用の直流整流子電動機では外側(固定子)も電磁石(コイル)が使われていますが,模型用の直流整流子電動機では固定子に永久磁石が使われているという違いがあります。模型用は手で回すと発電機になり電力を得られますし,別の電動機で回せば電動発電機になりますね。

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